<足跡 必然の出会い>
<足跡 必然の出会い>
雨で服を濡らしつつ、信号を渡り、二つ目の角にかかった時、
角に立つ電信柱に大型ごみが、急に私の目に入ってきた。
学校から駅を三つ程乗った先の駅に降りて、
駅から伸びる一本道を歩くだけの分かり易い家路。
「そうだ、段ボールとか沢山あった。出しといた方がいいよね。
雨に濡れても問題ない? クーベリックに聞こうかな?」
京都から都内に引っ越しして来たばかりで、
新聞紙や段ボールでごった返し、ごちゃごちゃになった、
祖納元家の情景を頭に浮かべるだけ、うんざりしてしまう。
ジッと家の近くの角にあるごみ山を見ていたら、
凄い物を私は見つけたのだった。
とても、高価そうなフランス人形がゴミに埋もれていた。
真っ白な陶器の如き肌に、深紅のベルベッドのロングドレス。
目は大きく凛々しくて、儚げでもある。
憂いある表情の不思議な人形は、絢爛紅薔薇のように美しい。
真っ直ぐ、私を見つめる人形に心を奪われた。
「こんなに綺麗な人形を捨てるなんて」
私は思わず、ゴクリと唾を飲み込んだ。
「本当に綺麗・・・。細かい細工に気品の高さは人間以上よ。
持って帰りたいけど、人形って念がこもるって言うし・・・」
見るからに高そうなフランス人形は、本当に生きているようだった。
向きによって変わる人形の表情に、目が離せず釘付けになった。
たった一度だけ、人形を手に取ってしまっただけなのに、
私は、再びゴミ山の中に人形を戻す気にはなれなかった。
『衣江里!』
人形から私の名を呼ぶ声が聞こえてきた。
私は幻聴を聞いてしまった?
でも悪魔的に美しい・・・、この世のものじゃないみたい。
憶測はいくらでも頭を過っていくが、考えていたらキリがない。
私はフっと鼻で笑った。
そんな事有り得る訳がない。
美しい人形が言葉を超えた、新たな感覚を私に授けてくれる。
「ゴミと一緒なんだし、何かあれば捨てればいいのよ。
心配し過ぎよ、でも不思議。初めてじゃない感じ」
自分に言い聞かせなら、私は華麗な人形を家に持ち帰る事にした。
鞄からハンドタオルを出すと、濡れた人形の身体の水分を拭き取る。
『くく・・・』
胸に大事に抱いて、すぐ先にある家に向かおうとした時だ。
いつも“ぷぷぷ”の音じゃなく、男性の太い声が聞こえた。
突然人の声が聞こえ、すぐ振り返ったが私一人。
数段、雨が強くなっていることにもやっと気づいた。
「人形に夢中で、雨の事もすっかり忘れていたみたい」
人形は当然の如く、私の腕の中でじっとしていた。
あの声は、絶対私の空耳。
この人形はもう私の物なのよ。
沢山衣装を作って着せ替えて大事にしてあげよう。
これからはこの力強い人形が一緒にいてくれる。
「今日から私が、あなたのご主人様よ。
私は祖納元 衣江里、あなたの名前はマリアはどう?
可愛いあなたにぴったりだと思うんだけど?」
夢膨らむ私は人形に向かって自己紹介をした。
“泥棒と思われないかな?”
念のため、周りをキョロキョロと見回して見ても、
犬猫も一匹いない状態に少しホッとした。
少し不安が胸に過っても、何も聞こえなかったことにした。
「
雨で良かったわ、誰も周りにいない。
人形が喋る? そんな事って、非現実的で有り得ないわ。
それより雨がきつくなってきたし、早く帰らなくちゃ」
私はダッシュで三つ目の角を曲がり、すぐ傍にある我が家へ、
妖艶で美しいフランス人形を抱いて帰ったのだった。
私の人生に大打撃を与え、急展開させる出会いとも知らずに。
<足跡 日常茶飯事へ続く>