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第五章『破壊の芸術家』(4)

 こみ上げてくる熱い感情。激しい憎悪。己の身などよりも、仲間を傷つけられる事は我慢できない。

 裏社会で、さらに上に立つ者としては、真のそんな性格は上司向けではないかもしれない。多少の犠牲を払っても仕事は絶対だからだ。……しかしそれ故に、皆は彼についていく。

 男の全ての想いが握り締められた刀に注がれていく。真の持っていた木刀は単にこれの鞘にすぎない。中に納まっていたこの凶刃『阿修羅』こそ、彼の本当の武器なのだ。遼平も阿修羅の刃を見るのは随分と久しぶりだった。本気で怒った時以外、真は決して抜刀しないからだ。



 真の姿が消えたと思ったと同時に、ぶつかり合う金属音がした。阿修羅がルインの首元にせまり、それをルインは手にしたダーツで何とか防いでいた。力が抵抗し合う音が静かに響く。

「速いねっ」

 ルインは力を抜き、水平に一閃された凶刃を寸分で避ける。ただ真っ直ぐ睨みながら、真は跳び退いていくルインを追った。時折振るわれる阿修羅で、ルインの黒いコートは裂かれていく。

「《静》の章、第二技、菩薩!!」

「っ!?」

 今度は両手で構えて力を込め、斜めに一閃する。見えない刀が飛んでいったように、衝撃波がルインの右肩を斬った! ……だが爆弾魔は鮮血を噴いている肩を気にする様子も無い。血を流しながら数本のダーツを一気に放ってきた。

 決してあの部長ではない、冷たい瞳で全てのダーツを切断、そして床を蹴り一瞬で迫る! 両手に細いダーツを構えたルインが、針の部分をクロスさせて日本刀をなんとか防いでいた。

「その黒い刀……まさか、ソレは……!」

「……」

 真は何も答えない。仲間達には見せたことのない、猛獣の如き怒りをただその眼に映して。ルインの顔に一筋の汗が流れるが、彼は口元を歪めさせた。

「そうか……そういうことか。ロスキーパー本社の情報システムにハッキングしても君の情報が得られなかった理由が、わかったよ。情報が《無かった》のではなく、《厳重に封じられていた》んだね? 霧辺真……君は亡者か」

「……せやな、ワイは死人や。生者やない。……阿修羅は使い手の魂を喰らい、血を吸い、そして魔の力を与える」

「こんな所で出会えるとは、思いも寄らなかったな。魔の亡者、そして凶刃、ここで私が壊してあげよう!!」

 ルインは身を翻し、両手の指に挟んだ八本のダーツをあらゆる方向から真へ落下させる! 爆発の光で、一瞬全ての視界が消えた。


「《動》の章、第一技、龍王っ!」


 舞い散る粉塵から高く跳躍し、真はルイン目掛けて阿修羅を突きつけながら落下していく。が、またも細いダーツで防がれた。痛覚など無い様に、ルインは肩から出血しながら冷たく笑い続ける。女神のような顔を悪魔の如く歪ませて。

「バーカ、かかったなっ!」

 寸前で真を防いでいるルインの背後から、拳と遼平の声が現れる。ルインの背に強烈な左ストレートが叩き込まれ、勢いで横向きに吹き飛ばされていった。今の感覚なら、恐らく肩関節が砕けているだろう。

「ぐっ……」

 跪いて動けなくなっているルインを前に、真と遼平は軽くハイタッチする。真の猛攻撃でルインの視界から消えた遼平の、不意打ち攻撃。別に作戦を立ててあったわけでは無かったのだが、その辺は共に戦ってきた経験上、お互いがわかっている。

「こっちは片付いた、か……?」

「いや、まだ終わらんようやで?」

 ルインが静かに立ち上がる。肩関節が砕かれてバランスがとれないのか、片方に傾いた異形な体勢で。しかしその表情は快感に溢れた狂気の笑み。

「もう少しだ……あと僅かで私の作品が完成できる……! まだ遊んでいたかったのだけれど、仕方無い、一瞬で壊させてもらおう」

「離れるぞ、遼平っ!」

「あいつ、何やらかそうってんだ!?」

 バックステップで跳びながらルインとなるべく距離をとろうとする。何か大きなものが来る……っ!

 希紗と澪斗の所まで下がってきた時に、ダーツが不意に向ってきた。真と遼平では弾き返す事ができない。



「どけ!」


 真と遼平、二人の間を後ろから何かが飛んでいった。



 聞き慣れた命令口調と共に、本物の銃弾が二人の間を抜け、ダーツと爆発する。

 振り返ると、血みどろの上半身を起き上がらせた澪斗がリボルバー式拳銃の引き金を引いていた。だが、発砲の反動が身体に響いたらしく、吐血して大きく咳き込む。腕だってもう上がらないはずなのだ、無理はない。

「澪斗……っ」

「悪い、もうノアは使えなかったのでな……。貴様は手を休めるな」

 希紗の心配そうな視線に、振り返らず土台の側面に澪斗は背を預けた。視界が朦朧としているが、まだ、いける……。

「では戯れはここまでだ」

 遠くいつの間にかホールの二階に上がっていたルインの手に数個の手榴弾が見えた。全員を戦慄が襲う。あれだけの量では逃げ場は無い。それに、ホール全体が潰れかねないだろう。

 手榴弾の起爆装置が抜かれる不気味な音が深閑に鳴った。そしてゆっくりと、ルインの手から放たれていく。彼の《芸術》が、今まさに完成しようとしていた。


 何かが床を蹴る音。そして手榴弾が四人の警備員の前方上空で破裂した! 


 つんざく騒音。荒れ狂う爆炎。



 ……だが爆炎は四人を掠りともしない。見えない壁が……純也が瞬時に作り上げた暴風が手榴弾の爆発を押し止めたからだ。四人の前で、小さな少年が白銀の髪をなびかせながら両腕を掲げている。

「へへ、ふっかぁーつ!」

 そのまま爆炎を風で押し返し、得意気に、不敵な表情で純也はメンバーの前に立っていた。

 掲げられていた腕は火傷でボロボロだったが、当の本人はVサインしている。どうやって回復したのか、命に全く別状は無いらしい。……多分、先程からの猛烈な爆風を浴びて体力を取り戻したのだろう。本当に謎な生体構造だ。

「純也、お前……」

「ごめんね遼、いきなりだったんで動けなくなっちゃってさ。ほんっとごめん!」

「ったく……まったくだ! 何もしないまま倒れやがってこの役立たずがっ」

 純也の頭に遼平の拳が振り下ろされる。ただ、軽めに。言葉とは裏腹に遼平は薄ら笑いを浮かべ、そのまま純也の髪をグシャグシャと掻き乱す。それに足掻きながらも純也は嬉しそうに微笑んでいた。


「さァーて、そろそろ終わらせるで?」

「いい加減ドカンドカンってうっせー音にも嫌気が差してきたしな」

「……貴様の死でその《芸術》とやらに幕を下ろしてやろう……」

「破壊の先には瓦礫しか残らない……それでも《無》を求めて壊し続けるなんて悲しすぎるよ。一つ訊きたい、どうして襲撃を明日のセレモニーの時にしなっかったの?」

 一つだけ解けなかった疑問。より大きな破壊を求めるのならば、人々が多く集まる時の方が好都合だろうに。わざわざ深夜、閉館した時間に来るなんて。

「私もそれを望んだのだがね、クライアントの指示なのだよ。明日やればもっと多くのモノを壊せるのに……まぁ、君達と創作できるだけでも私は大いに楽しめたがね」

「そのクライアントってのは代々木徳二やな?」

「さぁ? そんな事はどうでもいいんだ、早く始めようか? もう時間は殆ど残っていないからね」

 その言葉に、希紗は額の汗を拭いながら腕時計を確認した。既にあと十分を切っている。

「……希紗ちゃん、爆弾は解体しなくていいよ。ただ、爆弾本体をその土台から取り出せる?」

「え? えぇ、できるけど……どうする気??」

「僕に考えがあるんだ。このままじゃ間に合わないし……とりあえず外しといて!」

 希紗に頼んでから純也はルインへ向っていく。遼平と真もその脇を走っていた。澪斗は空薬莢を押し出し、リボルバーに銃弾を六発装填して腕を震わせながらも銃口を上げる。



「いくよっ!」


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