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第五章『破壊の芸術家』(3)


 なるべくホールの端で乱闘を繰り広げようとする三人から離れた中央で、希紗は必死に爆弾の解除を始めていた。

 まずは爆弾の本体を見つける事だ。この土台に埋め込まれているのならどこかにセットした痕跡があるはず。何度も触りながら何か違うところは無いかと捜す。

「あ……っ」

 土台のかなり下、ザラザラとした材質の土台に、一箇所だけ切れ目があった。細い線のようで、普通は気づけない。

「ここね……」

 ドライバーでその切れ目の部分をこじ開け、土台の一部だった爆弾セットの跡が外れ落ちる。希紗はポケットライトを取り出して土台の中を照らして見た。だが、その中身に、驚いて目を見張る。

「ウソ……っ!?」

 土台の内部ではとても複雑な回路が張り巡らされていた。様々な色のコードが絡み合い、本体の爆弾が見えない。メカニッカーである希紗でさえ理解できないほどの構造。

(お、落ち着くのよ……)

 自分に言い聞かせる。冷静に考えれば、解除方法がわかるはずだ。爆弾だって機械、全くの門外漢でもないのだからきっと扱える……はずなのだ。




 一方で、遼平達はやや苦戦をしいられていた。三人がかりだというのに、敵が爆弾使いなだけに接近し過ぎると危険だ。しかし距離をとったからといって、ルインのダーツ状爆弾は飛んでくる。しかも、そのダーツも数に限りが無いように次々と放たれてきて、攻撃に移る余裕が無い。

「……そろそろ退いてもらえまっか? あんただって爆発に巻き込まれてまうで?」

「フフフフ、わかっていないね。君達を美しく作品にする事も私の目的の一つなのだよ」

「てめぇバカか!? それでてめぇまで死んでどーすんだよっ」

「死ぬ? そうだね、破壊の先には必ず死がある。それもまた美、一つの真理なんだ」

「どうやら妥協の余地は無いようだな。ならば……倒すまで!」

 澪斗のノアの照準がルインのコートに向けられる。爆弾のついたダーツは恐らくあのコートの裏に無数に隠されているのだろう、それを狙えば一気に連鎖で爆発させられる。身体にコルク栓が当たったところで外傷はできないが、自爆を誘発させられれば致命的なダメージが与えられる。


「……さっきから気になっていたのだけれど、紫牙君、君はいつからそんな子供だましの銃を使うようになったんだい? 暗殺屋《消去執行人》?」


「フン、《エクスキューショナー》とは随分と懐かしい名だ。……俺は、もうその名は捨てたのだがな」

「裏社会に突如現れた、暗殺成功率百パーセントの謎の狙撃手。たった一年しか存在しなかったと聞いていたんだが、ロスキーパーの情報管理プログラムにハッキングして調べさせてもらったよ」

「これが、今の俺のやり方だ。俺は目的の為ならば手段を選ばん」

「その結果がコレ、というわけかい。笑えるね」


 澪斗と言葉を交わしながら戦うルインの至近距離で、真と遼平が今相手をしていた。爆風に煽られながら、澪斗はノアのトリガーを引く……最大出力まで上がるエネルギー音が僅かに響く。

 しかしエネルギー充填寸前でルインにそれを気づかれてしまった。口元を引き上げ、冷笑してルインはダーツを勢いよく放つ! そのダーツは真と遼平の間を一瞬で横切り、一直線に向っていく…………希紗へと。

 必死に回路コードと戦っている希紗は気づかない、鋭い爆弾が自分に向っている事に。

「希紗っ!!」

「……え?」

 あまりにも無防備に顔を上げた希紗の前に影が立ち塞がった、次の瞬間。




 眩しい光、遅れて唸る大音量!!



 今までに無いくらいの轟音で大爆発が起こった。あまりの音量に遼平は失神しかけたほどだ。今の音はただ爆弾が爆発しただけの音ではなかった。何か、強力なモノが衝突し合ったような。

 希紗は薄らと目を開けてみた。粉塵でほとんど何も見えない。生きている……横の『鮮血の星』も、時限爆弾も無事だ……。一体何が起きたのか……?

 

 何かが落ちた金属音と、鈍い音を聞いた。座り込んでいる希紗の手元に、何かが滑ってきてぶつかる。僅かに温かいが、確かに金属だった。希紗がこれを見間違える訳が無い。

「ノ、ア……?」

 やっと粉塵の霧が晴れてきた。希紗の細い指に包まれたノアは何故か大量の紅に染まっている。希紗の顔を上がり、瞬間、瞳が大きく開いた。





「澪斗――――っ!」


 叫びは、一秒遅れてしか出なかった。悲鳴は、ホールに響く……。




 走り寄って仰向けになった澪斗を必死に揺さぶる。いつも鋭いその瞳が、開かない。全身が爆炎に焼かれ、特に腹部がえぐられたように出血していた。

「いやっ、何でよ! 起きてよ澪斗っ、死なないでよー!!」

 希紗の悲痛な叫びがホールに木霊する。激しく揺すられて、淡緑の澪斗の髪が力なく垂れた。紅は流れ続け、上半身を抱きかかえる希紗の制服にも染みていく。

 希紗は涙が止まらなかった。澪斗に涙を零しながら、それでもぎゅっと細い身体を放さない。

「うっ、うぅ……れいとぉ、澪斗ぉー……!」





「……勝手、に、俺を殺、す……な。貴、様はいつも、早とちり、する……」


 投げ出されていた澪斗の手が僅かに動き、ゆっくりといつもの視線で涙ぐんでいる希紗を見上げる。息は荒く、声はかすれているが意識は戻ったようだった。

「澪斗っ!? 良かった、生きてる……。私っ、私どうすれば……」

「俺の……事は構う、な。早くっ、爆、弾をなんとか、し、ろ……っ!」

 それだけ言うのが精一杯だったのか、澪斗はまた霞んできた目を閉じる。肋骨が折れているようで、呼吸するだけでも全身に走る激痛。ノアの最大出力エネルギーとルインのダーツ状爆弾が至近距離で衝突し、爆破したのだ、全身が吹き飛んでいても不思議は無い衝撃だった。まだ肢体がついているのは奇跡に極めて近いだろう。

「ありがとう……」

 優しく澪斗を仰向けのまま横たわらせ、希紗は時限爆弾に振り返る。『鮮血の星』のショーケースの解除キーがまた一つ吹き飛んでいた。残るはダイアモンド一つだけ。

 希紗の爆弾に向う眼差しが変わった。睨みつけるようにコードの網をポケットライトで照らす。

 失敗はできない……敵は違っても、みんなと護るモノは同じなのだ。自分にそれを賭けてくれた人がいる……その命を張ってまで。絶対に護ってみせる。



「ちっ、あンのドジが……っ」

 あまりの速さに反応できなかった遼平が舌打ちをし、また爆弾魔に向き直る。ルインはさも可笑しそうに笑い続けていた。

「いい! いいね今の! なかなか上出来な芸術だった……あぁ、惜しかったといえば美しく散らなかったトコロかな?」

「……あんた、そろそろ黙っとき」

 やや俯いた真から、低い威圧するような声が放たれる。同時に、激しい憤りからくる《気》も。

「あと三人になったね。まだまだ私の創作は続くよ? 全てが壊れるまでね」

「黙れってゆーとるがな……」

「次は……そう、やっぱりあそこの娘にしようかな。未完成のままだと虫唾が走るものでね」


 空気さえ斬り裂く黒き煌めきっ!

 

 ルインのロングコートの前の布の部分だけが鋭く斬れている。刹那の出来事に爆弾魔はやや驚いたように裂かれた自分のコートを見下ろし、目の前の金髪の警備員を細目で見やった。

 真の右手には細身の、光沢のある黒い刀が握られていた。先程までの木刀ではない……その刀さえも殺気を放っているかのような鋭利な煌き。そして、明らかに男のまとっている雰囲気が違う。強大なプレッシャー。

「それが君の本当の姿かい? やっと本気を出してくれるんだね」

「もうさせへん……」

 壁際にもたれている純也と爆発跡のえぐられた床で横たわっている澪斗を見、真は刀を水平に構えた。その心境を表しているかのように瞳はいつになく鋭い。


「これ以上、絶対にこいつらを傷つけさせへん!!」




 目覚めてしまった凶刃。所持者の魂を喰らい支配する、邪悪にして神聖、守護の刀…………凶刃、『阿修羅』が。


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