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PL『闇の中の守護者』

依頼1《禍の紅い星》ワザワイノアカイホシ



PL『闇の中の守護者』


 深夜、静寂に包まれた美術館。もう誰もいないはずの床に、小さい足音が僅かに響いた。

 ステンドグラスから頼りない月明りが射しこみ、闇の中の三つの影を照らす。

「お、あったぜあれだ」

 影の一人が、五メートルほど先にある絵画を指差した。

「あれがゴッホの『ひまわり』の精密なコピーとはな。だが、絶対高値で売れる。早く盗もうぜ」

「まぁ待て。おそらくここにも何か防犯システムが働いているはずだ」

 三人は物陰に隠れて絵画の周囲を用心深く観察する。自分達の呼吸以外は何も聞こえない、緊迫した沈黙が場を支配していく。


「……あの〜、もしかして泥棒さん?」


「「「うわぁっ!?」」」

 急に三人は後ろから眩しい光に照らされた。跳び上がるほど驚いて、思わず大声を上げてしまう。足音どころか、気配さえ感じなかったのだ。何かが湧いて出たとしか思えない。

 しかし恐る恐る背後を振り返ってみると、そこに立っていたのは懐中電灯を片手にきょとんとした表情の、白っぽい髪の少年だった。微かな光でわかる、ライトブルーの双眸。だが顔形は日本人で、歳は十五〜六あたりだろうか。

「なんだ、脅かせやがって……子供かよ」

 安堵した顔つきで3人はまた前に向き直る。そうだ、ここは手薄だから大人がいるわけが……。



 …………。



「「「子供ぉ!??」」」

 再び、跳び上がる。今度は絶叫というおまけ付きで。

 今こんな所に人がいるわけがない。ましてや、子供だなんて。どう考えてもおかしい、おかしすぎる。

「なっ、なんでいるんだっ!?」

「お前どこから!?」

「何故子供ぉぉ〜っ!?」

 それぞれパニックに陥ってしまった三人に、少年は静かにため息を吐く。

「とりあえず落ち着いてください。じゃないと、起きちゃうから……」

 少年は本当に心配そうに泥棒達を落ち着かせようとしたが、男達は喚きながら後ずさっていく。この場をなんとか穏便に運びたかった少年は、その小さな願いが叶わない事を知った。



「……さっきからごちゃごちゃうるせーんだよ!」



 ふいに聞こえた、暗く憎悪のこもった声。

 後ろに気を取られていた三人が新たな声に振り返った時には、先頭にいた者が勢いよく蹴り飛ばされていた。突然闇から現れた男によって。

「お、お前どこからっ!?」

 つい数秒前に子供に向けた言葉を、今度は突如現れた男に放つ。普通、こういう台詞は泥棒に向けられるモノだと思うのだが。

「あぁ〜? なんだよ、泥棒かよ?」

 人を蹴り飛ばした事に気づいてさえいない様子で、だるそうに現れた男は少年に問いかける。その男の髪はボサボサで見るからに不精者だが、只者ではないことは蹴り飛ばされて後方で伸びている仲間が既に証明済みだ。

「うん、そうみたい」

「俺が起きる前にやっとけよなぁ、こんなの」

「あははは、まぁ、いろいろあってさ」

「ちっ、俺様の快適な睡眠を妨害しやがって、ただじゃおかねーぞ!」

「……それはそれで、仕事上いけないコトだと思うんだけど」

「う、うぅ」

 男の一撃でうつ伏せになっていた泥棒が、起き上がろうとしていた。その泥棒を見、おめでたそうな少年と寝起きらしき男は視線を合わせる。冷たい漆黒の切れ長の眼と、温もりを感じさせる空色の瞳が、交わって頷く。

「じゃ、とっととやるか」

「ん〜、やっぱり?」

 泥棒達を追い詰めるように二人は距離を狭めていく。楽しそうな男の顔と憐れみを含んだ少年の顔が、妙に対照的だった。

「どうしてだ、サツはいないはずっ!」

 泥棒の一人が怯える。下調べをした時には警察の姿はどこにもなかった。今、この美術館は無人のはずなのだ。

「バーカ。俺達はサツじゃねーんだよっ」

 一瞬で間合いに入られ、身動きする余裕も無いまま鈍い音と共に拳が鳩尾に叩き込まれる。

「うん僕達ね、フツーの警備員なんだ。ちょっとごめんね?」

 困ったような笑顔のまま、とても『フツー』ではない力で少年は最後の一人の腕を取り、身体をひねって泥棒を浮かせ、床に叩きつけた。屋内だというのに、その瞬間だけ旋風が巻き起こって。

 霞んでいく瞳に、最後に大小の奇妙な影を映して二人の泥棒は気絶した。

 自称警備員に、ステンドグラス越しの弱い月光が降り注ぐ。よく見れば二人共同じ青い制服のようなものを着ていた。白だと思っていた少年の髪に光が射して美しい銀糸が輝き、男の髪には青色が含まれて黒に限りなく近い紺色に。

「そんな、警備員!? お前らが!?」

 いろんな意味で泥棒の男は驚いていた。こんな緊張感の無い警備員がいていいのかとか、子供が警備会社で働いてもいいのかとか。


「あぁ。裏警備会社ロスキーパーの立っ派な社員。ほらな」


 胸ポケットから社員証を取り出し、泥棒の目の前に突きつける。そこには確かに、『裏警備会社Lose Keeper中野区支部正社員・蒼波遼平(そうは りょうへい』の文字。

「で、僕が同じく社員の純也じゅんや。少し運が無かったね、おじさん達」

 軽い苦笑で告げられても実感が湧かないが、左右で気絶している仲間を見れば嫌でも自分がこの上ない危機に立たされているのがわかる。

「さぁーて。覚悟はいいよな、コソ泥さんよぉ?」

 拳を鳴らしながらニヤりと口元を引き上げて迫る遼平に、男に凄まじい悪寒が走る。

 純也は静かに目を閉じて「ご愁傷様」と小さく呟いていた。

「ひっ、ひいぃぃっ、」








「ぎゃあぁぁぁぁーっ!」

 静寂のよく似合う美術館に、とてつもなく不似合いな悲鳴が響いて……消えていった。



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