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第四章『驚異の奇術師、現る』(3)

「……その話、マジなんか?」


 純也の推論を一通り聞き終えた後で、真がまだ信じられないような顔で純也に迫った。

 希紗も驚きを隠せていないし、澪斗はいつもと変わらぬ無表情だがやや壁から身を乗り出して聞いていた。

「あくまで推測なんだけど、その可能性は極めて高いと思う。こう考えれば、今までの事全てに説明がつくんだ。そして、もしこの推測が当たっているとしたら、次は……」

「……せやな。はぁ、やーっぱ厄介な仕事やったか〜」

「今まで厄介ではない仕事などあったか?」

「へっ、おもしれーことになってきたじゃねぇか!」

 遼平が拳をぶつけ合う。彼にとって暇はよっぽど耐えられない事だったらしく、また闘争本能むき出し状態だ。

「そこで、希紗ちゃんに調べてほしい事があるんだけど……」

「任せて! アノ人の事でしょ? 私にかかれば一発よ!」

「ワイらはそれまでどうするん?」

「あっちが仕掛けてくるまで待っていようと思うんだ。必ず、もうすぐやってくるはずだから……交代しながら警備を強化していこうよ。澪君と真君は今晩、僕と遼が明日の夜見廻ろう」

「……純也、エエんか?」

「これが最適なんだ。僕を信じて」

 真の不安そうな視線に純也が笑顔で頷いた。その顔には確信の想いが込められている。

 そして、全員がそれぞれの役割に動き始めた。


     ◆ ◆ ◆


 六日目の夜を迎え、美術展は閉館した。今にも雨が降り出しそうな曇り空の下で。

「じゃあ僕らは行ってくるよ。……後をよろしくね」

「ヘマすんなよ」

「もー、私に任せておけばオールオッケーだって! そっちこそ、ちゃんと帰ってきてよね」

「当たりめぇだろ、行くぞ純也」

「うん」

 笑顔で巡回に出て行く二人を背中で見送り、希紗は監視モニターに視線を戻す。

 しばらく一人でモニターを眺めていると、所々で遼平と純也の姿が映り、また消えていく。隣りの仮眠室からは澪斗と真の寝息が静かに聞こえていた。


 優しく、ドアをノックする音。「どーぞぉ?」と希紗が振り返って笑顔で入ってきた人物を迎え入れる。

 ……黙って監視室に入ってきた米田秘書は、相変わらずの厳格そうな雰囲気は漂わせているものの、爽やかな笑みで監視室を見回し、希紗に視線を移した。

「どうかしましたか?」

「えぇ、実は……会長の指示で格納庫の中に置き忘れた閉館セレモニーの道具があるので持ってくるようにと。ですが私だけではあの格納庫を開けることが出来ません。どなたかに一緒に来ていただこうかと思ったのですが、今はあなた一人ですか?」

「えぇ、まぁ。そうですね……巡回している警備員以外は仮眠していますから、私がお供しましょう」

「ありがとうございます」

 米田秘書は軽く一礼し、先を行く希紗の後について地下の格納庫へ向っていった。



「……米田さん、私あなたに言いたい事が三つほどあるんですけど、よろしいですか?」

「何でしょう?」

 地下のトラップ迷路の先にある格納庫へ二人はゆっくりと歩いていた。ややスキップ気味に前を歩く希紗に、米田秘書は首を傾げる。

「まずは一つ目……あなたは、代々木財閥からのスパイですね?」

 一つ目からいきなりの衝撃発言に、美人秘書は驚いた顔をして……すぐに口元に笑みを戻した。

「はい? いきなり何を仰るんです?」

「失礼ながらあなたの事をいろいろとハッキングで調べさせていただきました。宮澤会長の秘書として忠実に働く反面、常に宮澤財閥の動向を代々木財閥へ密かに知らせていた……違いますか?」

「そんな、何を根拠に?」

「一番の根拠は、初日に訪れた代々木会長の言葉からですよ。『何かあったようだが』……そうあの時代々木会長は言ってましたよね?」

「え、えぇ……確かに」

「それって、すごーくおかしいと思いませんかぁ? 襲撃があったのは二階の休憩所と、ここ地下通路です。正面玄関からあの監視室に来るまでの間には、どちらも通過しませんよね。それなのに何故、代々木会長は直前に騒ぎがあった事をご存知だったんでしょう?」

「……」

 後ろで腕を組みながら希紗は淡々と喋り続ける。米田秘書は黙って静かについて来る。


「監視室に来るまでの間、あなたが『襲撃が失敗したコト』を代々木会長に報告をした……そう考えるのが一番自然なんです。でもそれはおかしいですよね、今回の以来は《宮澤財閥の名誉を護ること》でもあるんですから。その依頼をした宮澤財閥の人間が、ライバル財閥の会長にわざわざ不利な情報を伝えるでしょうか? ……つまり、あなたは元々代々木財閥の人間だった。」


「実に面白い推測ですね」

「そして二つ目……」

 米田秘書の軽い否定の言葉を聞き流し、希紗は続ける。


「複数の泥棒や窃盗集団を雇い、『鮮血の星』を狙っているように見せかけたのもあなたです。私達の注目が『鮮血の星』のみに注がれるように……盲点でした、あなた方が本当に奪おうとしていたのは、『宮澤財閥の名誉』だったんですね。騒動を起こせば美術展は中止になり、宮澤財閥の信頼は失われる……元からそれが狙いだった! 位置的に考えても、真を……私達の部長をセレモニー時に撃ったのもあなただわ!」


「何故、私がそんな事を? その泥棒達は本当に『鮮血の星』を狙っていたんでしょう?」

「えぇ、少なくとも彼らはそう騙されていました。ですが、こちらは真が撃たれたことに疑問を持った……《どうして他の三人の失敗をわかっていながら四人目は遅れながらも発砲したのか》と。……答えは簡単です、《元々『鮮血の星』などに興味は無く、騒ぎになれば良かったから》なんですよね?」



「……よくわかったわね、褒めてあげるわお嬢さん。あの警備員の子も、撃たれたんだから悲鳴の一つでもあげてくれれば良かったのに。使えないわ」

 

 ピタッと止まった希紗の背後で、激鉄の起こされる音がし、警備員の背中に冷たい銃口が突きつけられた。

「私頭の良い子は好きなんだけれど、お嬢さんに気づかれてしまったのなら仕方無いわね。……処分させてもらうわ」

「あー、なんか申し訳無いけど、コレ私が気づいた事じゃないのよね〜。ウチの頭脳派治療員。それと、最後の三つ目だけど……」

 引き金が引かれる前の銃口の震えに、希紗はバッと振り返り、距離をとる。


「私は銃が大っ嫌いなの!!」


 激しい金属音がして、米田秘書の握っていた小型銃が弾き飛ばされる。どこから取り出したのか、希紗常備のスパナが見事に米田秘書の手に命中したのだ。

「くっ!?」

 秘書が手を押さえているうちに、希紗は素早く壁に指を触れ、一回転して眼を近づけ、網膜センサーも解除。同時に格納庫のロックが解除され、うるさい音を立てながら二重の重たい扉が開いた。

「はーい、スパイさんはこちらへごあんなーい!」

 強く秘書の背中を押して中へ倒し込み、すぐさまロックを掛ける。

「あっ、こら! 何するの!? 開けなさーいっ!!」

 再びけたましい音で格納庫は閉められる。美人秘書を隔離したまま。


 希紗は気が抜けてストッと床に腰を降ろす。ギリギリでなんとか作戦は成功した。床に転がった銃を見、寒気に襲われる。

 裏社会で仕事をしている以上、命の危険など日常茶飯事だ。だから、『銃が怖い』など致命的とも言える欠点だった。しかし希紗には過去に拳銃のトラウマがあり、それ以来銃を見ただけでも震えが止まらない事がある。

 深呼吸して「とりあえず自分の役割は終わった……」と一安心していると、突如頭上から地響きのような大音量が轟いてきた。上でも仕事が始まったらしい。

「一人で休んでる場合じゃないっか」

 立ち上がって腰をはたき、上へ向う事にする。


「私達の部長を傷つけたこと、そこでしばらく反省してよね、スパイさん」



 何か嫌な予感がする……それは希紗の女の勘だった。


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