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第三章『愚者よ、舞え』(4)

 空気を貫く音と共に、マシンガンから放たれた弾は何も無い宙へ飛ぶ。引き金を引いたはずの男が撃たれて失神し、照準を失ってしまったからだ。真は武装グループの中央から身を退き、その男を撃った影の隣に着地する。

「遅いで」

「苦戦していたか? それはすまなかったな」

 真を見もせず、弾切れのカートリッジを入れ替える。淡緑の前髪のせいで、横からでは殺気を放つ鋭い瞳は見えない。

「だーれが! これからがエエとこやったんやっ!」

「……そうか」

 明らかに信じていない声色で澪斗は真の右腕を一瞥する。木刀を握っている拳も、今は真っ赤だった。

「蒼波達は上か?」

 そうや、と答える前に、ズドーンッ! と地下まで届く轟音が上から響いてきた。澪斗は「聞くまでもないか」と天井を見上げ、真は「あんま壊さんとエエけどなァ……」と俯いてため息を吐く。

「にしても、あんま年配者に重労働させんなや。のんびり来よってからに!」

「のんびりはしていない。ただ、多少の収穫はあったがな……。ところで真、確か貴様はまだ二十五ではなかったか? 俺と三年しか変わらんぞ?」

「三年ってゆーたら大きな差やがな! あんたがやっと九九を覚えた頃にワイは台形の面積が求められたんやでっ!」

「それは大きいのか?」

「月とすっぽんや!」

 なんだかどっちがボケでツッコミなんだかわからない漫才を繰り広げる警備員二人に、武装グループは一時呆然としていた。が、とりあえず厄介そうな敵が一人増えた事に気づいて、攻撃を再開しようとする。

 一歩踏み出て澪斗は侵入者と真の間に割りいるように前へ出た。

「下がっていろ」

「珍ーしく気づかってもろて嬉しいけどな、ワイはまだいけるで」

「気にするな、前にいられると目障りなだけだ。……それに、高齢者は敬わんとな」

「……なんでやろ、今ならめっちゃ楽勝な気がしてきよった。あんたが相手ならな」

「安心しろ、ただの気のせいだ。」

 珍しく澪斗が笑った。……鼻で、だが。揚げ足を取られたうえに鼻で軽く嘲笑されてしまった真は大人しく後ろへ下がる事にした。なんだか今ならこの淡緑髪の後頭部に思いっきり木刀を振り下ろせる気がする。



 無音に近い、銃声の連発!


「がぁ!?」

「痛ぇ……!」

 まだ攻撃されてもいないのに澪斗は次々と容赦無く侵入者達を撃ち倒していく。弾がコルク栓だからいいものの、本物の銃弾だったら確実に即死する場所ばかり狙って。

「澪斗、そんないきなり……」

「先手必勝だ。それとも、相手が撃ってくるのを待っていろとでも?」

 確かに澪斗の言う事は理にかなっているのだが、無残にやられていく侵入者達を見ているとなんだか憐れに思えてきてしまうのだ。もう少し相手にしてやってもバチは当たらないだろうに。

 十字路から次々と男達が突っ込んできたり陰から銃で狙おうとするが、その全てを澪斗はノアで阻止していく。

「……しっかし、ホンマにコルク栓なんやなァ」

「何が言いたい」

 白壁にもたれて澪斗の横で傍観者となった真がしみじみと呟く。澪斗は制服のままで長い上着を着ているから、腰に下げられた二つのホルスターは見えない。右腰にあるのはカートリッジ式銃『ノア』のもの。そして、左腰に下げられたもう一方には……。

「いやなんも。ただ、よう似合っとるなーって……」

 

 空気を貫く音、第二弾。


「どわっ!?」

 ガバッと首をずらし、なんとか回避する。真の首が一秒前まであった壁にコルク栓が半分突き刺さっていた。

「なっ、ワイを殺す気かァ!?」

「すまん、流れ弾だ」

「今絶っっ対狙ったやろ! 九十度曲がる流れ弾ってどんなやねん!」

 喚きたてる真を完全に無視して、澪斗は撃ち続ける。その時、澪斗のかけている眼鏡……ではなく照準グラスに、『RELOAD』(リロード)の文字が点滅した。片手で空のカートリッジを抜き、もう一方の手を素早く腰に回し、新しい換えのカートリッジを差し込む。その間僅か三秒。

 再び無言で連射する。希紗特製のこの照準グラスは、ノアと連動している。ノアの照準が映し出され、弾丸の軌道まで計算する優れモノだが、別に眼が悪いわけでは無い澪斗にとってはたまに鬱陶しい時もあった。ノアが起動していない時はただのダテ眼鏡にすぎないからだ。


「……アレは使わんでくれな」


「……」

「澪斗」

「…………わかっている。ここはあいつにも観えているしな」

「スマンな」

「これは俺の意思だ」

 表情は変わらないが言葉に強い感情が込められる。その言葉に、真は安心したように木刀を腰に収めた。もう敵も残り二人となっている。

 最後まで抵抗し続けていた二人をもあっけなく撃ち倒し、騒がしかった白壁の迷路は嘘のように静かになる。どうやらこれで最後だったらしい。

「よし、こっちは掃討完了やな」

 右腕を強く抑えながら、真は安堵の表情で出口へ向うために踵を返した。黙ったまま澪斗もその横を歩きだす。


 しかしその二人の後ろで、まだ意識のあった最後の男が警備員達目掛け機関銃の引き金を引こうとしていた。照準が定められていく。


 澪斗が急に振り返り、ノアの上部に取り付けられている小さなトリガーを引く。瞬時にエネルギー蓄積音が鳴り、照準がロックされた。

「くそぉっ!」

「デュナミス」

 引き金は同時に引かれ、警備員達と侵入者の間に小爆発が起こる。だが威力はノアの方が上だったらしく、煙と光が消え去った時には男は衝撃で気を失っていた。このトリガーを引くとノアのリミッターが解除され、最大出力での攻撃が可能となる。……それを『デュナミス』と名付けたのも希紗だった。

「終わりだ。」

「せやな」

 何気なくちゃんと技名まで呟いた澪斗が少しおかしくて、真は握りかけていた木刀から腕を下ろし、笑いを堪えながら澪斗の後について行った。


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