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思春期を迎えた子供たちへ  作者: 櫻木サヱ
何も起きていないのに、削れていく

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2/2

言わなくていいことばかり、聞かれる

朝、昨日と同じ時間に目が覚める。

同じ天井。

同じカーテンの隙間から入る光。


違うのは、気分だけ。

昨日より少し、だるい。


リビングに行くと、家族がいる。

特別な空気じゃない。

テレビがついていて、朝の情報番組が流れている。


「おはよう」


言葉は出る。

声も普通。

だから大丈夫なふりは、簡単だ。


「最近どう?」


その質問は、軽い。

天気の話みたいな顔で投げられる。


どう、って何。

体調?

学校?

友達?

気持ち?


全部まとめて聞かれるのが、一番困る。


「普通」


そう答えると、会話はそれ以上進まない。

それでいい。

それが一番楽。


でも、「普通」で済ませると、

どこかで「ちゃんと話してない」と思われている気もする。


話したら話したで、

「考えすぎ」

「気にしすぎ」

「その年頃はね」


そう言われるのが分かっている。


だから最初から、話さない。


学校に行く。

席に座る。

周りはいつも通り。


友達が、ちょっとした愚痴を言う。

テストがどうとか、先生がどうとか。


相づちを打つ。

ちゃんと聞いているふりをする。

たまに笑う。


でも、自分の中から出てくる言葉は、何もない。


「ねえ、最近元気なくない?」


急に言われて、少しだけ心臓が跳ねる。


そんなつもりはなかった。

でも、見えていたらしい。


「そう?」


笑って返す。

軽く。

深掘りされないように。


「疲れてるだけじゃない?」


その一言で、会話は終わる。

相手は優しい。

だからこそ、何も言えなくなる。


本当は、疲れてる理由が分からない。

説明できない。

説明できないものは、存在しないことにされる。


授業中、ノートを取る。

文字を書く。

手は動くのに、頭は別のところにいる。


将来の話。

進路の話。

夢の話。


黒板に書かれる言葉が、全部遠い。


夢って、持たなきゃいけないものなのか。

今、何も欲しくない自分は、間違っているのか。


「何になりたい?」


またその質問。

逃げ場のない感じがする。


分からない、って答えると、

「今から考えなきゃ」って言われる。


考えたくない、とは言えない。

言ったら、怒られるか、心配される。


心配されるのも、正直しんどい。


放課後、家に帰る。

部屋に入る。

ドアを閉める。


今日も、ここだけは静かだ。


ベッドに寝転んで、スマホを見る。

メッセージは来ている。

返さなきゃいけない内容じゃない。


既読をつけるか、迷う。

その数秒が、やけに長い。


返したら、会話が始まる。

始まったら、終わらせなきゃいけない。


何もしたくない時に、

何かを続けるのは、思っているより重い。


天井を見る。

昼間より、少し安心する。


誰にも何も聞かれない時間。


でも同時に、

誰にも見られていない感じがして、

少しだけ不安になる。


矛盾している。

分かっている。


分かっているけど、どうにもならない。


夜、布団に入る。

スマホを伏せる。


今日も、ちゃんと一日を終えたはずなのに、

「生きた感じ」がしない。


何もしていない。

でも、消耗している。


明日、また

「どう?」って聞かれる。


そのたびに、

「普通」って答える自分が、

少しずつ、薄くなっていく気がする。


でも、今はまだ

それを止める方法を知らない。


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