第75話:架空も現実も不変ではない
翌日の日曜、ダイスケ伯父さんが家に来た。穫れた野菜のおすそわけだ。
「立派なピーマンねえ」
「ちょっと規格外で出荷できないやつなんだけど、味はいいからな」
「肉詰めにするかチンジャオロースーか。ガパオもいいな。素揚げしてカレーとかに乗っけてみるか」
袋に一杯のピーマンを見ながら親たちが話している。僕も、ピーマンは割と好きな方だ。
「タケルはちっちゃいころから野菜をよく食べるもんな。うちのマサキは農家の生まれのくせにピーマンが嫌いだなんて、全く情けねえや」
「おいおい、兄貴も子供の頃は食えなかったくせに」
「俺が食えなかったのは焼きそばのピーマンで、ピーマンそのものが嫌いなわけじゃないからな」
兄弟で仲良く話す。父は、以前「お前に弟や妹がいなくてごめんな」と言ったことがある。現代は少子化で一人っ子が増えたというイメージがあるようだが、実際は結婚をしない人が増えただけで、一人っ子というのは同年代においてもかなりの少数派である。ソウタには兄と弟がいるし、ソラには兄が、ハルキには姉がいるという。
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「ところでタケル、メタルマックスはどうだ?」
「バルデス倒したとこ。ノアっていうコンピュータがラスボスなのかな?」
「おお、もうそんなに進んだのか!」
まだ、ノアの本拠地らしき基地の地下には入り込んでいない。パスワードは4つ見つけているので問題はなさそうだが。
「ウルフを助けられると思って、イベントを無視してバルデスを先に倒したんだけど駄目みたいなんだよね」
「そうか、そういう順番で進めることもできるんだな。考えもしなかったけど、今はフリーシナリオのゲームも多いからなぁ」
「ニーナも助けたかったのに」
ウルフの死は、戦歴と戦車のために受け入れるしか無かったのだが、彼の恋人であるニーナの末路についてはリセットでなかったことにしてしまった。それが彼女にとって幸せであるかはわからないが。
「でも、人生なんてそんなものかも知れないな。選択肢は無限にあるように見えて、気づいたときには取り返しがつかなくなっていることなんて、いくらでもある」
そう言って伯父は遠い目をする。
「タケル、好きな子いるだろ?……いや、答えなくてもいい。お前くらいの年頃ならいて当たり前だからな」
「……」
「思いを伝えるのなら早いほうがいいぞ。さすがにろくに話したこともない相手に好きだと伝えるのは変だけど、もう一緒に遊んだりしているような関係なら、それ以上は黙っていてもいい方には転がらないもんだ」
父と母が台所に野菜を持って行っている間を狙ったのか、僕だけに聞こえるように言った。それ以上は語らなかったが40年以上も生きていれば色々なことがあったのだろう。
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伯父を見送り、部屋に戻ると一人考える。僕はフミさんに思いを伝えることができるだろうか。現状では難しい。伝えるのが嫌なのではなく、伝えることで関係性が変わってしまうかも知れないのが嫌なのだ。
今のような距離感の関係がずっと続けばいいのに。そう思うのだが、不可能だ。来年になればクラスも別になるかも知れないし、3年後には卒業してしまう。ついこの前入学したと思ったらもう5月の終わりだ。中学生活なんてあっという間である。
そもそも、フミさんがいつまでもいるとは限らない。親の仕事の都合でこちらに引っ越してきたのだから、また別のところに引っ越すことだってあるだろうし、考えたくはないが不幸な事故で失われるかも知れない。
兄弟がいれば、こんなときに相談ができるのだろうか。逆に身近だからこそ相談できないのだろうか。
僕は自分に問いかけながらファミコンの電源を入れる。いつまでも冒険していたい世界だが、物語には終りがある。そもそもセーブデータはいつ消えるかわからない。
この冒険が終わったら、ちゃんと告白しよう。僕はまるで死亡フラグのようなことを考えながら、ノアの待つ地下へと降りていくのであった。
注:
一人っ子の割合
2015年の調査では、結婚持続15~19年の夫婦のうち一人っ子の割合は18.6%。例えば、タケルの両親が子供だった1990年代は10%程度で横ばいだったので割合としては増えているものの、2人以上の子供がいる家庭のほうが未だに圧倒的多数である。




