第68話:東京タワーと三十年の重み
「これはきっと、みやげ物屋か。ここは食堂で、ゲームセンターもあるみたいだな」
夕食後、僕は再びファミコンに向かう。ムカデロンを倒したパーティは改めて地下鉄跡を突破し、東京タワーに突入した。外見が歪んでいたのでもっと荒れ果てているのかと思っていたが、意外にも中は整っていた。ただし、人の気配はない。
戦車から降りて戦うことを想定して、全滅してもすぐ回収できるようにレンタルタンクで乗り込んだのだが、予想は大正解だったようだ。もちろん装備も新調した。全員にグループ攻撃の超音波砲を装備させ、防具はシールドマントだ。しかし、どうやら通常のモンスターは出現しないようである。
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「へえ、ゲームの中にも東京タワーかぁ。小さいころ連れてってもらったなぁ」
缶ビール片手に父が入ってきた。今日は親子で部屋飲みだ。
「ここには、昔の科学技術を知っている人がいるんだって」
イーデンにいたおじいさん、名前はツヅマだったかシジマだったか、とにかくその人から聞いた情報だ。どうやら敵対的な存在ではなさそうだが、ボスの1匹くらいはいてもおかしくない。特に、ミスターカミカゼという賞金首は今のところ情報が全くない。
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「蝋人形館だな。あんまり覚えてないけど、確か行ったと思う。もっと狭くて不気味だったような気もするなぁ」
2階には人がいるかと思ったら、ただの人形だった。これも、現実の東京タワーを再現したもののようだ。
「……蝋人形って、動いたりするものだっけ? これ、マイケル・ジャクソン?」
スイッチを入れると蝋人形が動き出した。帽子を被った男が後ろ向きに歩き出す。確か、ムーンウォークというやつだ。
「お、よく知ってるな。父さんはあんまり詳しくないけど、ムーンウォークは当時流行ってたみたいだな。なぜかFF3でも出てきたりしたぞ」
滑る人形の動きを止めて、3階(水族館のようで、父はここにも行ったことがあるという)を抜けて4階へ。展望台のようだ。エレベーターで5階に直通。ついに人を発見する。老夫婦のようだが、何百年も生きているのだろうか。人工衛星によって居場所を教えてくれる、BSコントローラーというアイテムを手に入れた。
「つまり、GPSみたいなやつ?」
「そうだろうな。メタルマックスが発売された時代だと、ようやくカーナビが出始めたころだから最先端技術だな」
「携帯でマップが見られるようになったのっていつ頃?」
「どうだったかな。父さんが大学生の頃……いや、卒業してからだったかなぁ。タケルが生まれる頃にはとっくに当たり前になったんだけどな。外で急に具合が悪くなった母さんのために携帯で病院を探したのははっきり覚えてる。……お前を授かった時のことだ」
FF1でもMOTHERでも、ゲームに出てくる地図は「現在地」が表示される。僕が普段スマホで見ている地図もそうなので、そのことを自然に受け入れていた。しかし、紙の地図には当たり前だが「現在地」なんてものは表示されない。ゲームに出てくるような地図が一般に実用化されたのは、ほんの十数年前の出来事なのだ。
つまり、それまで「現在地がわかる地図」なんてものは、ファンタジーやSFだけの存在だった。僕たちは、親の世代が子供だった頃の夢のアイテムを、物心がついた頃から現実で当たり前のように使いこなしている。その事実を改めて実感する。
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「現実の東京と似てないね。ゲームだとタワーのあるところが島みたいになってるし」
タワーから外に出て、BSコントローラーを使うと全体マップが表示された。同時に、スマホのマップで「東京タワー」を検索して表示する。てっきり日本の関東地方が舞台なのかと思いきや、地形は全く似ていなかった。
「大戦争でも起こったんだろうな。それにしてはタワー自体がそのまま残ってるのも変な気がするけど……あるいはタワー周辺だけ異次元にワープしたとか? まあ、深く考えても仕方ないだろう」
僕はドッグシステムで故郷のリオラドに戻り、改めて地図を見る。そして、ゲームの中で歩んできた道筋を振り返る。さらに、僕がこの世界に生まれてきて、ここまで育ってきたことの意味について、少し考えてしまうのであった。




