第60話:始めての賞金ハンティング
「おじゃましまーす」
「お、上がっていいよ」
日曜の午後、ソラが遊びに来た。うちに来るのは始めてだ。ソウタとハルキも誘ったのだが他に用事があるという。
「あなたがソラくんね。数学と理科が100点だったって聞いたわ!」
「えへへ……」
母の言葉に照れ笑いを浮かべる。実際、すごいやつである。
*
「また新しいソフトやってるんだ。メタルマックスって始めて聞いた名前かも」
「戦車に乗り降りできるのが特徴なんだ、ほら」
「乗降」コマンドを実行して、戦車と人間それぞれのステータスを見せる。
「へえ、人間と戦車で完全に分かれてるのか」
「そう、戦車に乗ってる時は人間はダメージも受けないし」
戦車が壊れて叩き出されるまで、人間は無傷であるらしい。これはこれでゲームらしい嘘なのだろうが、おかげで戦車が非常に強固な鎧として機能しているようだ。
「で、まだ始めたばっかりなのかな?」
「うん、最初のダンジョンで戦車を手に入れて、次の目的地はわからないけど、とりあえず北を目指そうと思ってる」
東西への道は無いので、次は必然的に北を目指すことになる。途中で柵があったが、小屋に入ったら開けてくれた。そこから道なりに東へ進むと、湿地帯らしきエリアの中に小屋。戦車では森や湿地には入れないようなので、下車して中に入ってみると「ネギの村」という農村だった。
*
「畑、ほっといていいの?」
ソラが指摘する。芋畑の水はけを心配するセリフがあったのに、僕がスルーしようとしたら声をかけてきた。
「ま、一応調べてみるか……おっ?」
畑を調べてみると、「耕しますか?」というメッセージが出てきた。一通り耕してみると、結婚指輪というアイテムを見つけた。
「なにこれ?」
「さあ、誰かの落とし物? 装備品じゃないみたいだけど」
とりあえず村人を訪ね歩くと、落とし物だという女性が出てきた。返してあげると代わりに「ルビーのレンズ」という、これまたよくわからないアイテムが。
「なんだこりゃ?」
「たぶん何かの素材じゃないかな? レンズだから望遠鏡とか……いや、光学兵器だったりして」
「こうがく?」
「ああ、光の学問ね。レーザービームとかそういうの」
なるほど。この世界ならいかにもレーザー兵器というのがありそうだ。
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「ところでタケル」
「なに?」
「昨日は、日々木さんとうまくやってたみたいだな」
結婚指輪というアイテム名から恋愛ごとを連想したのだろうか。ソラがそう聞いてきた。
「まあね。そう言うソラだって、ハルキやソウタも相手を見つけてたみたいだけど?」
「へへっ、部活仲間なんだ。同じ北小出身だけど、それまではほとんど話したことなかったんだけどね」
とは言うものの、僕はお相手の顔を見ていたわけではない。輪に混じっているのに気づいたのは後からだから。
「ハルキやソウタは誰と一緒だったのかな」
「それは……本人に聞いてみたら?」
「それもそうか」
ここでLINEで聞くのも味気ない。今度じっくり聞いてみよう。
*
「あれ、戦車って1人乗りなの?」
「普通は3人以上だと思うけど……」
ネギから東に向かい、まずは町のそばにある家に。ここでメカニックのトミーが強引に加入。この時点でタケルはレベル5。一緒に戦車に乗ろうと思ったが、どうやら1両につき1人しか乗れないようだ。ソラが疑問に思うのも当然だ。
「だよね。前にガルパンで見た」
ソウタのお父さんが好きなようで、前に遊びに行った時に家で映画版を見た覚えがある。なかなか面白かったけど、キャラが多くて一度見ただけではよくわからなかったっけ。
「まあ、これもゲームだからかな。1人1台のほうがたくさん戦車を出せるんだし。……ところでトミーって誰?」
「さあ、最初から決まってるか、自動的に付いたんだか。僕は主人公しか名前を付けてないよ」
自由に名前を付けられるなら「ソラ」が良かったなと思った。MOTHERのときのソラはハマり役だったのに。
*
「レンタカーならぬレンタルタンク、かぁ。面白いな」
「しかも借りるのは無料で、稼いだお金が天引きされるのか」
これまでに、「(主人公の家がある)リオラドの北にサルモネラ一家が潜伏している」「東の工場には戦車がある(殺人機械もいる)」という情報を得ていた。どちらかが次の目的地なのだろうが、いずれにしても一人は丸腰になるのが不安だったのだが、戦車をレンタルできれば怖くない。
レンタ1号の武装は副砲の9ミリ機関砲だけだが、ショットガンよりは強い。何より弾が無限というのが頼もしい。まずはサルモネラ一家のほうを片付けたほうがよさそうだ。
*
「これ、絶対罠だよなぁ」
悪党のアジトだというのに、ご丁寧に矢印の案内板がある。細い道に置かれた木箱についてはあまりにもあからさまであり、予想通りに落とし穴に落ちてしまった。ダメージは無いが、歩いていると突然サルモネラ一家が襲撃!
「……なんか、大したことないな」
「戦車に乗ってるからかな」
ここの洞窟は、リオラドから直接来ることもできる。つまり、戦車を入手する前に入ることもできるはず。人の話を聞かずに、戦車を無視して突入したプレイヤーを咎める存在でもあるのだろう。逆に言えば、戦車にさえ乗っていれば楽勝のはずだ。撃破時点でタケルLv7、トミーLv6。さくさくレベルが上って気持ちいい。
「よし、賞金首討ち取ったり!……賞金はどこでもらえるの?」
「たぶん、ハンターオフィスってとこかな」
リオラドに戻り、オフィスで賞金を受け取る。指名手配のポスターには大きく「済」のハンコが押されており、達成感を味わった。こうなると、早く次の獲物を倒したくなる。
*
ともあれ、賞金が手に入ったので強化だ。ポブレ・オプレで、おすすめされていたドッグシステム(一度行った町に戻れる、何度でも使える)を買い、主砲とエンジンをグレードアップ。ついでに特殊砲弾も見てみる。
「"りゅうだん" に "てっこうだん" か。どういう意味だろ?」
「榴弾はいわゆる爆弾、手榴弾とかの榴弾ね。徹甲弾は装甲を徹する弾っていう意味で……漢字だとこう」
そう言いながら、ソラはスマホ画面を見せてくれる。なるほど、こう書くのか。ひらがなで見たら「鉄鋼弾」だと思っていた。
「最近、ニュースで劣化ウラン弾って聞いたことない? あれも徹甲弾の一種だよ」
「あ、それなら聞いたかも。結局どういう弾なんだっけ?」
「硬い金属で装甲を撃ち抜くんだ。ゲームだとどうなってるのかな?」
さっそく、そのへんの敵に試してみる。徹甲弾は敵によって効果が変わり、メテオまいまいなどの生物系に対しては会心ダメージ、トレーダー殺し(という名前の戦車)などの機械系に対しては行動封じとなるようだ。いずれにしても有用性が高い。榴弾のほうは、威力が下がる代わりにグループ攻撃となる。
「それにしてもソラって詳しいよなぁ」
「ま、兄ちゃんの受け売りだけどね」
ミリタリーにしてもファンタジーにしても、全く知らないよりはわかったほうが面白い。ゲームは一人でやるのも面白いが、攻略に関わらない間接的な情報であれば、誰か解説してくれる人が隣にいたほうが楽しく遊べると思う。




