第59話:無限軌道でモンスター狩り
「おう、タケル元気か?」
日曜の昼前、父の兄であるダイスケ伯父さんが訪ねに来た。ここから車で20分ほどのところに住んでいる。ゴールデンウィークの連休に会ったばかりだが、うちに来るのは久しぶりかもしれない。
「相変わらずファミコンやってるんだってな」
「うん、この前ちょうどMOTHERをクリアしたとこ。借り物だけどね」
「今の中学生でもファミコンやってる子、いるんだなぁ」
伯父にはまだ、フミさんについて具体的に話をしてはいない。もっとも父経由で聞いているのかも知れないが、下手に茶化したりするようなことはなかった。
「結構、RPGやってるんだってな。今度は何をやるんだ?」
「うーん、どうしようかなぁ」
アクションゲームを何作かつまんでみたのだが、どうも僕はまだこのジャンルが苦手なようで、途中で断念してしまうものばかりだ。じっくりプレイすればクリアできるRPGのほうが向いているのかも知れない。
「伯父さんのおすすめは『メタルマックス』だぞ。たしか入ってたよな」
「持ってくる!」
僕は2階に上がり、ファミコンのケースを取ってくることにした。ついでに本体とケーブル類も持っていく。
「ほら、これこれ」
伯父が取り出したのは黄土色のカセット。その名の通り、金属質で硬派な印象のロゴだ。
「……よし、バックアップも生きてるな」
テレビに繋いで電源を入れる。「ダイスケ L:35」「ユウキ L:10」の2つのデータが現れた。
「懐かしいな。たしか砲台が倒せなくて、それっきりだったな」
画面を見て父が言う。ちなみにユウキとは父の名前である。
「ビックキャノンだな。確かに強敵だからなぁ。俺も苦労したよ」
「タケル、やるなら父さんのデータ消していいからな」
*
両親と伯父が見ている前で、僕はメタルマックスを最初から始めることにした。とりあえずいつものように(今のところ『桃太郎伝説』を除く全て)、主人公の名前を登録するところから始まる。本編は、モンスターハンターになりたいという主人公を父親が叩き出すシーンから。どうやら、父は息子に修理屋の跡を継いで欲しいらしい。
「これ見てると思いだすなあ、俺も跡継ぎを嫌がったっけ」
そう言った伯父は、祖父の跡を継いで不動産業との兼業農家を営んでいる。現在は家族仲も良好にしか見えないが、昔は色々あったのかも知れない。
画面の中の親子も、勘当したかと思いきや日常茶飯事のようで、朝になったら当たり前のように仲直りしているのが面白い。
とりあえず情報収集。ハンターには戦車が必要。町の南の穴に戦車がある。ひとまずはそれを取りに行くのが最初の目的といったところだろう。装備を見ると、武器と体防具はあるので、腕防具(軍手)と脚防具(地下足袋)で守りを固め、余ったお金で回復カプセルを2個買う。
セーブはコンピュータにアクセスして行うという設定。荒れ果てた世界とはいうものの、少なくとも電力網と通信ネットワークについては生きているようだ。戦車があるということは燃料もあるということだろうし、思ったよりも近代的で豊かな生活なのかも知れない。
*
「そういえば、全滅するとどうなるの?」
「ああ、ドラクエ方式だな。ちょっと違うところもあるけど、あんまりリスクはないぞ」
町の中に死体を復活させるマッドサイエンティストがいた。おそらく、奴が生き返らせてくれるのだろう。
「ただし、戦車は戻ってこないから回収する必要がある。場合によってはリセットのほうが早いかもな」
「ということは、今は戦車がないから全滅してもノーリスクってわけか」
「当たり! さすが、RPGのシステムに慣れてきたな」
伯父さんからのお墨付きをもらったので洞窟に潜る。敵は大して強くない。キャノンホッパーは多少強いと思ったが、持っていたロケット花火を使えば一撃で倒すことができた。
途中でレベルも上がり、一発で戦車のところへ。ボスらしきバイオニックポチと戦闘。ダメージの大きさに焦ったが、2ターン目から救援が来てあっさり倒してくれた。酒場にいた、ウルフという凄腕の賞金稼ぎのようだ。
戦車を調べたら名前を付ける画面に。まさか自分で付けるとは思わなかったのでちょっと戸惑う。
「アドベントか。なにか由来はあるのかな?」
「うん、MOTHERで戦車に乗るイベントがあったのがアドベント砂漠っていうところだから」
「へえ、っていうかMOTHERに戦車なんて出てきたんだな。知らなかった」
「2には無かったもんな」
「アドベントって、クリスマス前の期間のことでしょ? MOTHERってキリスト教関連の地名が多いみたいね」
大人たちが口々に言う。果たして戦車の名前としてはふさわしかったのだろうか。なんとなく強そうな響きで気に入っているのだが。
*
「それじゃ、俺はそろそろ帰ろうかな」
無事に町に戻り、セーブしたところで伯父が言う。
「お義兄さん、もう帰っちゃうの? お昼食べていけばいいのに」
「あー、今日はうちの子とバーベキューやるって約束だからな、近所の友だちも一緒に」
そういえば連休中に聞いた、従兄のマサキ君と近所の幼馴染の女の子との仲はどうなったんだろうか。少し気になるけど、ここで伯父さんに聞くわけにもいかないだろう。
「タケル、伯父さんから一つだけアドバイスするぞ。煙幕弾とパニック弾は使うな」
「なにそれ、効果が無いとか?」
「逆だ。効果が強すぎるというか、あらゆる敵に効いてしまうんだ。特にボス相手に使うとゲームにならなくなるから禁じ手にすべきだ」
伯父が言うには、煙幕弾は敵の命中率と回避率を大幅に下げて無力化する。パニック弾は敵を混乱させ、同士討ちどころか自爆や逃走もするようになるという。これがボスキャラも効いてしまうという。おそらく本来は設定されるべき耐性データが無効なのだろう。
「ま、ザコ相手に遊んだり、どうしても勝てない敵に使うのはありだけどな。基本的には封印したほうがゲームを楽しめるぞ。FF1をクリアできたお前にとっては、それでも簡単すぎるくらいかもな」
「わかった、覚えておくよ」
「あ、最後に一つ。煙幕弾は禁止だけど、煙幕花火は使ってもいいからな」
「んー、わかった」
同じ煙幕でも、弾と花火では何が違うのだろう。とりあえず名前だけは覚えておくことにした。




