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令和の中学生がファミコンやってみた  作者: 矢木羽研


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第58話:君の汗ばむ小さな手を取る

「バレー、どうだった?」

「1勝2敗。まあ、サーブは外さなかったよ」


 土曜日。球技祭の試合が終わった後、僕は日々木さんと話をしていた。1年生男子はクラスを2つに分けて、バスケかバレーのどちらかを選ぶという形だった。僕は体育でちょうど習っているバレーボールのチームに入り、4クラス総当たりの1勝2敗に終わった。でも苦手だったサーブはすべて入ったので、まあ満足だった。


 *


「フミさ……日々木さんは?」


 ゲームのキャラに「フミ」と付けていたため、ついクセで名前で呼んでしまい、あわてて取り消す。


「私は1勝3敗」

「バドミントンのダブルスだっけ?」

「うん。でも小学生の頃だとすぐ負けてたと思うから、少しは強くなったかな?」


 お互い、運動は苦手なタイプだと思う。中学からトレーニング部で毎日鍛えるようになった成果だろうか。


「あと、別に名前で呼んでくれてもよかったのに……」


 小声でつぶやいた彼女の言葉を、僕は聞き逃さなかった。


 **


「まもなく、フォークダンスが始まります。参加する生徒は校庭に集合してください」


 校内放送が流れる。すでにホームルームは解散後であり、フォークダンスは自由参加となっている。


「フォークダンス、行く?」


 僕は日々木さんに声をかける。まだ体操服のまま着替えていない。帰る気が無いのは明らかだ。


「うまく踊れるかなぁ」

「大丈夫だよ。そんな難しい動きでもないんだし」


 とりあえずは二人で踊るオクラホマミキサーと、輪になって踊るマイムマイムをやると聞いているので、動画で予習しておいたところだ。おそらく、彼女も同じだろう。少なくとも、まっすぐに家に帰るつもりではないみたいだから。ここは、思い切って誘ってみよう。


「行こうよ、フミさん」

「……うん!」


 *


 少し前を歩くフミさんの、少しだけ汗ばんでひんやりとしている小さな右手と左手をとり、足並みを揃えて歩く。10センチほどの身長差は、まるで一緒に踊るために巡り合わされたようだ。僕の心臓は、球技祭の準備運動のランニングでも、試合中でさえこんなに早く動かなかったであろう。指先を通じて心音が聞こえてしまっているかも知れない。


 オクラホマミキサーは、1フレーズごとに踊る相手が変わる。僕が彼女の手を取って踊っていたのは、ほんの30秒たらず。体感的にはほとんど一瞬だった。最後に向かい合ってお辞儀をする時、僕はなごり惜しさから少しだけ力を込めた。その後は夢を見ていたような気分で、気がついたら曲が終わっていた。


 マイムマイムが流れ始めると、ようやく周囲を見る余裕が出てきた。ソウタがいる。ハルキがいる。ソラもいる。みんな、踊る相手を見つけられたのだろうか。後で聞いてみよう。


 その後はロシア民謡のコロブチカ(うちの両親は「テトリスの曲」と呼んでいる)や、地元の盆踊りの歌などが流れたりして、僕たちは見様見真似で、笑い合いながら踊った。


 **


「今日はありがとね」


 自転車を押すフミさんと一緒に歩く帰り道。僕は彼女にそう言われた。


「こちらこそ、無理に誘ったりして大丈夫だった?」


 これは、ずるい質問である。大丈夫に決まっていることをわかった上で聞いている。それでも、聞いてみずにはいられなかった。


「ううん、楽しかった! フォークダンスも初めてだったけど、息もぴったりだったし……」


 *


 そうしているうちに、僕の家の前までついた。MOTHERのカセットを返すためだ。


「ただいま!」

「おかえり。……あら、いらっしゃい」


 玄関まで迎えに来た母は、フミさんを見てそう言う。


「ソフト、返しにもらいに来たんです」

「そんなところで待たせてないで上がってもらえばいいのに」

「いえ、もう時間も遅いので。すぐ帰らないといけませんから」


 僕は走って2階まで上がり、借りてきたときと同じケースにMOTHERの赤いカセットを入れ、玄関に戻ってきた。


「はい、ありがとう。桃伝はまだ借りてていいからね」


 日記を読む限り、レベル上げに苦戦している様子だった。もう少しかかるかも知れない。


「ちゃんと、見送ってあげなさいよ」


 母に言われたので……いや、言われるまでもなく門の前まで送っていく。


「それじゃ、また月曜日ね」

「うん……ねえ、一つだけ、お願い聞いてもらっていい?」

「どうしたの?」


 神妙な顔で彼女が言うので、こちらも身構える。


「もう一度……手を握ってくれる?」

「……うん」


 差し出された両手を、僕は包み込むように握りしめた。ダンスの時よりも少し冷たい気がするのは汗をかいているからだろうか。


 *


 彼女の後ろ姿を、見えなくなるまで見ていた。肩にかかるくらいに伸びた髪に、初夏の夕日が弾けていた。僕の両手には、ひんやりとしたぬくもりが残っている。

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