第50話:大好物はゲームの中と外で
街の人のセリフで勘違いしていたのだが、どうやらカナリア村と動物園は別物であるようだ。動物園は閉鎖されているという話だが、カナリア村は開いている。やたら大きいので気ぐるみかと思ったら本物のカナリアのようで、奥にいた一羽にデパートでもらったひなを返したら歌を教えてくれた。これで2つ目のメロディが揃った。
いきなり8つのうちの2つが揃ったわけだが、そもそも「メロディ」とは何なのか。どのような理由で集めているのかすら、今はまだわからない。
お金をためてスリングショットを買う。ボロのバットはすぐ売らずに(返品せずに)装備交換用に持っておいたほうがよさそうだ。仲間も装備できるかも知れない。レベル3になってライフアップα(いわゆるホイミ)を覚える。これで多少は余裕が出そうだ。
ゾンビもどきもなんとか倒せるようになった。てっきり人間が仮装したのかと思っていたら、倒したときのメッセージが「土に帰った」というのが恐ろしい。ゾンビってガチなやつだったの?
南の墓場を目指す。ヒーラーの家という看板があったので、回復が得意な女の子が仲間になるかと思ったら、単なる病院のようだ。電話があったのでセーブポイントと言うことか。墓場はギャングゾンビが強く、逃げようとしたが逃げ切れずに死んでしまった。
全滅後は現在の進行状況を維持したままセーブポイントから始まるようだが、ここで問題発生。HPは回復してもPPは回復しないので、結局宿泊しに戻る必要があるのだ。復活時はもちろん、レベルアップのたびに全回復していた『桃太郎伝説』が懐かしい。
ホテル代も高いし、結局は自宅に戻って休むのであった。いつも好物のチキンサンドを作ってくれるママに感謝だ。
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ゲームで遊んでいたら、時計は12時の少し前になった。そろそろ出かけよう。昼食は屋台で食べると言ってあるので、おこづかいをもらって家を出る。
ハルキたちと神社の前で合流すると、ちょうど神輿の宮出しが始まっていた。ソウタの姿を見たかったが、人だかりでそれどころではない。だいたい神輿を担ぎに来る人や、その仲間というのは怖そうな人が多いので近づきにくい。ソウタが担ぐのは大人とは別の子供神輿のようだが、結局宮出しを見届けるのは諦めた。
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「しょうがないからメシでも食うかぁ」
今日は神社の中だけでなく、外にも屋台が出ている。昔ながらの屋台だけでなくキッチンカーも来ている。インドやタイのカレー屋、トルコのケバブ屋などもあり、スパイシーな香りを漂わせている。店の人も現地人のようで、国際色豊かだ。
悩んだ末、僕はチキンケバブを、ハルキはタイ焼きそばのパッタイを、ソラは大阪焼きを選んだ。それぞれ一口分ずつ、シェアして食べることにする。
「このオレンジ色のソースってなんだろう?」
ケバブを一口食べると、濃厚で辛酸っぱいソースの味が口いっぱいに広がる。
「ケバブならヨーグルトベースだろう。そこにケチャップとスパイス類、ちょっとマヨネーズかフレンチドレッシングも入ってるかもな」
ハルキはチキンを味見をすると、そう言った。
「ハルキって料理詳しいよぁ」
初めて家に遊びに行ったときにババロアを出してもらったが、あれもハルキが作ったものだという。
「文学とか読んでると、食文化にも自然と詳しくなっていくからな。こんな田舎だと食べに行くより自分で作ったほうがてっとり早いぞ」
「そう、ハルキは昔から詳しかったんだ」
ソラはそう言いながら、大阪焼き、すなわち大判焼き(うちの両親は「甘太郎」と呼ぶところだが)の型で焼いたお好み焼きを頬張る。
「大阪焼きって名前になってるけど、お好み焼きの発祥は東京の下町だからな?」
「東京はもんじゃ焼きが主流じゃないの?」
無謀にも、僕はツッコミを入れてしまう。
「もんじゃはあくまでも亜流。昔ながらの店では硬く焼いたお好み焼きが主流のはずだ。去年、家族で浅草に行った時にお好み焼きの老舗に連れてってもらったんだけど、もんじゃはメニューの隅に少ししかなかったな」
「確か、昔の文豪に愛された店だっけ?」
「そうそう、安吾とか乱歩とか……」
ハルキのうんちくを聞いていると、少し先に日々木さんがいるのが見えた。昨日と同じ浴衣姿で、クラスメイトの女子達と一緒にいる。彼女の方も僕を見つけて目が合ったので、お互いに片手を挙げてあいさつする。
「そうだ、昨日は上手くいったのか?」
「ん、まあね」
ハルキに聞かれてそう答えたが、僕としては昨夜上手くいったことよりもむしろ、彼女の白い浴衣が汚れなかったのを確認できたこと、さらにクラスメイトと仲良くやっているのがわかったことのほうが、なんとなく嬉しかった。
そして今日食べたケバブのソースは、サラダチキンにも使えそうだ。日々木さんに教えたら作ってくれるかな。むしろ今度は僕が作る番かも、などと考えるのであった。




