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令和の中学生がファミコンやってみた  作者: 矢木羽研


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第48話:いつかまた満月の出る夜に

「タケルさん」


 神社には、約束の6時半の少し前に到着した。白地に青紫色のアサガオ柄をあしらった浴衣姿の女の子が声をかけてくるまで、それが日々木さんであることに気付かなかった。


「どうかな? 昔お母さんが着てた浴衣なんだけど……」

「すごい! 似合ってるよ!」


 反射的に答えたが、実際によく似合っていた。日々木さんは嬉しそうにはにかんだ。彼女の頬が紅く染まっているのは、夕日のせいだけではないと思う。


「あ、そうだ忘れないうちに」


 さすがに、浴衣姿にいつものボディバッグは合わないのだろう。手にした巾着(きんちゃく)袋から、赤い色をした『MOTHER』のカセットを取り出した。ビニールの筆箱のようなケースに入っている。


「それじゃ、こっちも」


 僕もバッグから『桃太郎伝説』を取り出す。こちらはむき出しのままの白いカセットというのが、配慮ができていないようでちょっと恥ずかしい。


 ともかく、僕たちは神社の入口にある紅白幕の前で、赤と白のカセットを交換した。なんだかこの行為そのものがお祭りの一部みたいで、少し面白いと思った。


 *


「いらっしゃい、当たりクジいっぱい入ってるよ! 3年ぶりだからね!」


 参道を歩いていると、出店のクジ引き屋に声をかけられた。特賞のニンテンドーSwitchを筆頭に、ゲームソフトやプラモデル、カードゲームなどが目玉賞品として並んでいる。下の方には水鉄砲や組み立て式の飛行機など、駄菓子屋に並んでいそうなおもちゃがある。


「お兄ちゃん、祭りのくじは当たらないってお母さんとかに言われてるんだろ? ちがうって。今は厳しくて、ちゃんと当たるようにしないとお巡りさんにしょっぴかれるんだから!」


 まさに、両親から言われていたことそのままだった。どうしても引きたいなら残念賞を買うつもりで引け、と。


「どうする?」

「うーん、一回だけ引いてみようかな。500円だし」


「毎度あり! どっちから引く?」


 くじ屋のおじさんは500円玉を受け取ると、2つの箱を取り出した。


「これ、どう違うの?」

「当たりの本数は同じだよ。自分で選んだほうが楽しいだろ?」


『桃太郎伝説』に出てきた、すずめのお宿の大きいつづらと小さいつづらを思い出す。


「それじゃ、こっちで」

 僕は小さい方の箱に手をつっこんで、クジを取り出す。


「クジは自分で開けるんだぞ。こういうところでインチキする店もあるから気をつけないとな、ハハハ!」


 僕はなんとなく、「当たりのないインチキくじ」というのは、このおじさんの「前科」であるような気がした。ともかく、言われるままに三角クジを開くと、中には何も書いてなかった。


「残念、3等だね。下の段のおもちゃ、好きなの選んで」

「えーっと……」


 ふと横を見ると、日々木さんが「ライトニャンコカチューシャ」と書いてある袋を見ているのに気づいた。その名の通り光る猫耳のようで、見本として電源が入った状態で1つ飾ってある。


「ねえ日々木さん、どの色がいい?」

「え、いいの?!」

「うん、いつももらってばかりだから、たまにはお返しってことで」


 彼女は少し恥ずかしそうに、ピンク色の猫耳を選んだ。


「あいよ。彼女に付けてあげな」


 おじさんは袋から取り出し、電源を入れた状態で僕に渡してきた。


「ちゃんと電気ついたかな。不良品だったら取り替えてあげるよ。うちは優良店だからね、ハハハ!」


 僕は言われるままに、日々木さんの頭にそれを付ける。指先が髪に触れる。シャンプーの匂いがする。


「それじゃ、お祭り楽しんでね!」


 **


 クジ屋のおじさんに見送られ、僕たちは祭りを楽しんだ。久しぶりにやったスーパーボールすくいでは持ち帰り上限の10個とれた。ソースせんべいは大当たりで100枚出たので、梅ジャムとミルクも付けてもらって二人で食べた。焼きそばを買ったら割り箸を2膳付けてくれたのがちょっと嬉しかった。


 *


 僕たちは、参道から少し外れたところにあるあずま屋のベンチに腰を下ろしていた。浴衣が汚れないように、日々木さんが座るところにはタオルを敷いてあげた。出かける時に父から持っていけと言われて、何のためかと思ったらそういうことだったか。


 ここは地元の人でないと知らない、お祭りの日においては穴場のようなスポットである。先ほどの焼きそばを、同じパックから二人で食べながら話している。遠くから祭り囃子(ばやし)が聞こえる。


「ねえ、日々木さん」

「なあに?」

「来年も、再来年も、また一緒に来ようね」


 今は、それだけ言うのが精一杯だった。この前ソラに調べてもらったところ、再来年である2025年の5月10日(祭りのある第2土曜日)にはちょうど満月が昇ることがわかっている。丘の東側に面したこのあずま屋から、日々木さんと二人で見たい。


「うん、また誘ってね!」


 そして彼女は僕の「告白」に、満面の笑顔で答えてくれるのであった。その時、参道のほうからカランカランと景気の良い鐘の音がした。クジ引き屋で当たりでも出たのだろうか。まるで、僕たちを祝福してくれているようだった。


 **


「君がタケル君だね。よく話は聞いてるよ」


 そろそろ時間だから帰るという日々木さんを見送ろうと、鳥居をくぐったところで車がやってきた。確かに浴衣では自転車に乗れないので送り迎えは必要なはずだが、いきなりお父さんが出てきたのには心の準備をしていなかったので驚いた。


「また、うちのフミと遊んでやってね」

「それじゃ、またね」


 どうやら、僕は好意的に見てもらえているようで一安心した。期待を裏切らないようにしないと。


 *


 僕も帰途につく。手提げ袋からは両親に頼まれたお土産である、お好み焼きとたこ焼きの香ばしいソースの匂いが漂っている。この匂いと、クジ引き屋の鐘の音と、一緒に食べた少ししょっぱい焼きそばの味と、薄暗いあずま屋で光る猫耳と、なめらかな髪の毛の手触りと、その下の嬉しそうな顔……。


 この記憶の組み合わせを、この先の人生で何回思い返すことになるんだろうか。それとも、もっと素晴らしい思い出が上書きするのだろうか。僕は自転車を走らせながら、そんなことを考えていた。

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