第44話:女湯妄想と朝シャンの香り
5月10日(水)
今日の理科の時間、聞こえていたかも知れないけど、竹取物語の宝物の話が楽しかった。火ねずみの皮衣、名前だけ聞くと触り心地よさそうだけど、現実では健康被害を引き起こしたアスベストだというのはちょっと夢が壊れたかも。
夜、両親と『桃太郎伝説』と『桃太郎電鉄』の話で盛り上がった。隠しパスワードとか、温泉に入れる裏技とか。『電鉄』のほうはパーティゲームとして何作も出ているから、あまりゲームをやっていない母でも知っていた。日々木さんやご両親もやったことあるのかな?
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日記を書きながら思う。日々木さんとはあまりファンタジーや伝説の話をしたことがないが、昔のゲームで遊ぶくらいだから詳しいんだろうか。とはいえ「子安貝」の話は振りにくい。桃鉄の話でも「女湯」は具体的すぎたので「温泉」とぼかした書き方にしてしまった。
そもそも「女湯」ではどんなグラフィックが見られるのか。おそらく「桃鉄 女湯」などで検索すればすぐに出てくると思うのだが、なんとなく恥ずかしくて検索する勇気がなかった。隣にソウタでもいればまた違うのだろうが。
中学からは体育も男女別になり、大人の体になっていく自分たちをどうしても意識してしまう。日々木さんのことは「異性として好き」なのだとは思うが、より踏み込んだ関係になるというのは、今の僕にはどうしても想像できないのであった。今ごろ、彼女もお風呂に入っているのだろうか。
僕は、そんな雑念を振り払うかのようにファミコンに向かい、「びろーん」を灼熱の弓矢で撃ちまくり、駄目仙人の長話に耐え、一歩ごとのダメージを慎重に計算しながら那由多仙人の血の池地獄に挑むのであった。
山姥の洞窟も探索してみたが、今夜中にはクリアできそうにない。せっかく浮遊の術を覚えたのに、落とし穴は避けられないなんて聞いていない!
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「おはよ」
「お、おはよう」
朝の教室、いつものように日々木さんと会う。昨夜、妙な妄想をしたので少しだけ気まずかった。
「ねえ、火ねずみの皮ってどんな触り心地かな?」
「……え?」
「ほら、昨日理科室でちょっと話してたでしょ?」
「ああ、やっぱり聞いてたんだ」
ちょうど、僕が日記に書いたことと重なったので不思議な気分になった。
「私、小さい頃にハムスター飼ってたんだよね。毛並みがとってもなめらかで、よく触らせてもらってた」
「ハムスターかぁ」
「ちょうど、このくらいの大きさだったかな」
そう言いながら、日々木さんは右手を握って左手の上に置いた。僕はそこに目を落とす。
うちでは飼ったことはないが、似たようなところでは科学部で白いハツカネズミを飼っているのを先日見たばかりだ。解剖用や実験用などではなく、純粋に飼育して観察するのが目的と聞いている。実際、小さい生き物がちょこまか動き回っているのは、なかなか見ごたえがある。
ふと前を見ると、目の前に日々木さんのつややかなショートヘアがある。ハムスターではないが、なで心地はとても良さそうだなと思った。もちろん、手を伸ばしたりはできないけれど。そういえば、この匂いはシャンプーなのだろうか。「ユキだるま」ではないが、彼女も毎朝シャンプーしているのだろうか。
「どうしたの。部活、遅れちゃうよ?」
「あ、うん。行く」
僕は体操服袋を引っつかんで、部室棟へと向かうのであった。「お前はスケベか?」という、駄目仙人の質問が頭をよぎる。今度プレイしたら遠慮なく「はい」と答えるだろうな。




