2-3章
アキュリオンの訓練場は、ゴルド爺の訓練所とは比べものにならなかった。
まるで一つの学校のように広大で、整然とした施設が並んでいる。
そこには多様な訓練生が集まっていた。
戦士志望の者だけでなく、僕たちのように「田舎で狩人をやりたい」という理由で来た者も多い。
入学試験のようなものはないが、最低限の体力や運動能力を測るテストはある。
ただし、戦闘に向かない蝶や蟻の訓練生もいるため、難易度は高くない。
今回は訓練参加という名目で、そのテストを受けることになった。
内容は簡単で、運動場を数周走り、剣の扱いとアビリティの応用力を見るものだった。
ジグは体力テストでギリギリ合格。
しかし実技では圧倒的な安定感を見せ、余裕で突破した。
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✦ジグの試合✦
ジグの相手は、以前戦ったものとよく似たバッタ型の訓練生だった。
その動きは速く、視線で追うのもやっとの速度。
だがジグも負けてはいない。
狩人として培った感覚を頼りに、一度自分の落とし穴に入り、
相手をおびき寄せて逆に閉じ込める。
隙を見て武器を奪い、一気に反撃。
バッタの訓練生はあっさりと降参した。
「……見事だな」
ロウさんが満足げに頷いた。
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✦僕の試合✦
次は僕の番だ。
相手は――蝶の羽を持つ、きれいなお姉さん。
開始の合図とともに、淡い香りの鱗粉をまき散らしながら空へ舞い上がる。
「……なんかいい匂いがする」
上空からの滑空攻撃は速く、タイミングを合わせるのが難しい。
剣を合わせても、マントのように広がる羽が邪魔をして本体に届かない。
地上にいる限り、不利なのは明らかだった。
(なら、上に行くしかない)
僕は考えた。
自分の糸は、何かに結びつければ上昇できる。
……そう、“何か”に。
蝶のお姉さんの足に糸を絡め、動きを観察。
彼女は気づいていない。
次の攻撃の瞬間、糸を剣に巻き付けて地面に突き立てる。
「あら、降参かしら? よけてばかりじゃ勝てないわよ?」
その瞬間、背後を取る。
糸を一気に巻き戻し、彼女の体を地面へと引き寄せる。
勝った――そう思った、次の瞬間。
「バチンッ!」
気づけば僕は、顔を真っ赤にしたお姉さんに覆いかぶさり、
思いきりビンタを食らっていた。
会場が一瞬静まり返り、次に大ブーイング。
「ち、違うんだ! 事故なんだって!」
ロウさんが笑いをこらえながら駆け寄ってきた。
「大変だったな、アゲハ。こんなスピードで迫られたら、怖かっただろう」
その言葉に観客がどっと笑い、空気が和らいだ。
結局、勝利の旗はアゲハさんに掲げられた。
……まぁ、あの状況じゃ仕方ないか。
(お姉さん、めっちゃいい匂いしてたし)
その後、ジグはバッタの兄さんと訓練の感想を言い合っていた。
相変わらず会話がうまい。もう芋虫焼きの話で盛り上がっている。
一方のこちらはというと、アゲハさんが目も合わせてくれない。
「あ、あの……」と声をかけると、
少しにらまれて、あきれたように言われた。
「いくら訓練でも、女の子相手には優しくしないとダメよ。
いきなり落とすなんて、もう少し準備してからじゃないと。
それに、私が糸に気づいたか確認して、
そのあとに剣を下に刺したでしょう?
あの時、何をするか分かったけど……いきなりはないわ。
もっと楽しく飛びたかったのにな。
そういうの考えられないと、モテないわよ?」
うぐっ……現実世界の俺が悲鳴を上げる。
どうやら作戦はばれていたようだ。
「どうして分かったんですか?」と聞くと、
「ロウさんと似た戦い方なのよ」と返ってきた。
「でもね、ロウさんはもっと余裕があるの。
私がもう少し舞ってから攻めてくるわ。
あなた、自分のことしか見えてないかもしれないわよ。」
そこにロウさんがやってきて笑った。
「確かにそうかもしれないな。ゴルドに教わったのなら似るのも当然だ。
でも予選を見ていて思ったが、ピダンは後方の意識がまだ足りない。
ジグも同じだがな。」
そう言ってから、ロウさんはにやりと笑った。
「どうだ? 本戦に入る前に、この訓練所で生活してみないか?」
「えーっ、アゲハこわーい! この人すぐ攻撃してくるんだもん!」
「大丈夫。これから“ダンディ”にしていくのさ。」
ロウさんがそう言って笑う。
――なるほど、これから俺は“ダンディ”になるんだ。
一方ジグはというと、
バッタの兄さんから新しい美味い店の情報を仕入れて、
ますます健啖家の道を突き進んでいた。




