2-1章
この世界の生活にも慣れてきた。
一日に採る芋虫の量は二匹――一匹はその日の夕食、もう一匹は燻して保存食にする。
狩人としてのルーティンは、一週間ごとに外回りと門番の交代。
門番の時間は、正直言って退屈だ。
「トンボ通信の新号、もう出てるかな」
ジグはいつものように、塔の上で新聞を広げていた。
攻略情報はほとんど載っていないくせに、スイーツ特集だけは異様に充実している。
おかげで“隠れ家スイーツ店”を見つけることもできたらしい。
――門番はさぼってるけど。
狩りが終わったあとは食堂で夕食。
狩人の特権で、今日の芋虫料理は無料だ。
焼き芋虫の香ばしい匂いと、草のスープの甘さがこの世界の味になってきた。
「おかわりもできるぞ!」とジグが笑う。
そんな日常の中で、週末はいつもゴルド爺の修業だ。
最近は“ジャンピングスパイダー”の制御にも慣れ、
爺さんの剣を受け止められるようになってきた。
スキルを使って空中から斬り込むとき、体重のかけ方で攻撃力が変わることも分かった。
さらに、ジグと一緒に編み出した新技――
空中の自分の糸と、地上のジグの罠を連携させて敵を誘導する戦法だ。
暇そうにしていたジグを巻き込んでできたこの技は、青虫戦ではかなり有効だった。
そうして、数か月が過ぎた。
草むらは茶色く枯れ、青虫の姿も減っていく。
冷たい風が吹き始める――冬の訪れだ。
この村では、冬になるとすべての生き物が眠りにつく。
店の灯りも消え、皆が地中や巣にこもる。
ジグは自作の大きな地下の穴に潜るらしい。
「冬眠中は、夢を見るんだってさ」
そんな話を聞きながら、俺の意識も少しずつぼやけていく。
おそらく、現実では“ニューロカラパス”の信号も減少している頃だろう。
今のうちに、システムエンジニアたちは次のステージを作っているはず。
――昆虫国家。
都市型マップ、首都圏のようなステージ。
そこが、次に俺たちが行く場所。
気温は十度を下回り、吐く息が白い。
村の音が少しずつ消えていく中、
俺の視界も、静かに暗転していった。
寒い冬がやってきた。外では凍える風が吹き荒れ、村の穴の奥まで冷気が染みこんでくる。
――まだまだ眠っていたい。
そう思いながら二度寝を決め込んで、どれくらい経っただろうか。
ジグに揺すられて目を覚ますと、そこはもう春だった。
冬眠から覚めた世界は、まるで別世界だ。
桜が咲き、菜の花がゆらめき、あたり一面がカラフルに染まっていた。
長い眠りのあとに見る光景は、息を呑むほど美しい。
まずは狩人としての仕事に戻る。
春の青虫たちはまだ小さいが、夏のものとは攻撃の仕方がまるで違う。
跳ねて、噛みついて、まるで遊んでいるように戦ってくる。
それでも何匹かを仕留め、村に戻ったそのとき――門番から伝言があった。
「ゴルド爺から召集がかかってるぞ」
どうやら、夏の終わりに集結していた他の集落の精鋭たちが、ハチたちと正式に和解し、それぞれの拠点へ帰るらしい。
その中に、“アキュリオン”へ向かう一行があり、もし希望するなら同行してよい、という話だった。
もちろん、ジグと一緒に行くことになった。
だがジグは、異種格闘技戦への参加には気乗りしていないようだった。
理由を聞けば、ゴルド爺の怪我のことが頭をよぎるらしい。
そのことを爺さんに話してみたら、渋い顔でこう言われた。
「二人で組むこと。それが条件じゃ。
一対二では危険すぎる。だが――アキュリオンには、かつて儂と組んでいた者がいる。
そいつを探せ。おそらく、お前たちの力になってくれる」
ジグはその間、別の目的を見つけたようだ。
「せっかく行くなら、アキュリオンの名店を制覇してやる」と。
まだ攻略が進んでいない都市だけに、未知の食材や料理が各地から集まってくるらしい。
食いしん坊の彼らしい理由だ。
出発は五日後。
それまでに、春からのハチとの新しい協定づくり、
そして村に残す狩人たちの引き継ぎ――大きめの青虫の駆除など、細々とした準備に追われる日々が続いた。
だが、心の奥ではもう決まっていた。
アキュリオンへ行く。あの新しい舞台へ。




