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第2話:王宮の影と若き宰相

王都の朝は、依然として霧がかったままだった。華は薬局の奥で、昨日処方した薬の効果を記録していた。紙面には、現代の化学式と異世界の薬効名が並ぶ。


「この国の薬、思った以上に乱れてる……」


彼女の視線の先には、今朝も一枚の手紙が置かれていた。王宮からの依頼状。

「宮野華殿、王都の宮廷にて病の調査を要す」


どうやら、王家の側近が原因不明の病に倒れたらしい。偽薬の可能性もあるが、単純な感染症の線も否めない。

華は覚悟を決め、薬局を後にする。


宮廷の門をくぐると、重厚な石の壁が立ちはだかる。貴族たちの視線は冷たく、華の身分がまだ“没落貴族の薬師令嬢”であることを思い知らされる。


「……まあ、気にしない」

現代の研究員としての経験が、心を落ち着かせた。


側近の病室に到着すると、部屋の空気が重く、微かな香草の匂いが漂う。病状を観察する華の目に、明らかに異常な点が見えた。


「この症状……現代の知識で言えば、微量の神経毒による筋肉の痙攣ですね」


病床に座る側近の手に、ほのかに青い斑点が浮かぶ。華は慎重に手を伸ばし、触診と薬効測定を行う。

「確かに……偽薬混入の疑いが濃厚です」


そこへ現れたのは、若き宰相——皇太子直属の補佐官であるルクレール。

「宮野華……君が、あの薬師令嬢か?」


彼の瞳は鋭く、しかしどこか計算された温度を帯びている。

「はい。私は薬で人を救うのが仕事です。陰謀には関わりません」


ルクレールは軽く眉を上げ、微笑を含ませた。

「それは頼もしい。だが、今回の病は……宮廷全体に関わる問題だ。君の論理が必要になる」


華は静かに頷く。薬と論理で、偽薬の流通経路を暴き、王都の闇に迫る──その覚悟はすでに決まっていた。


夕刻、薬局に戻ると、元盗賊の薬草採集仲間・クロードが荷物を運び入れていた。

「今日は王宮だったのか。副作用のチェックは大丈夫だったか?」


華は微笑む。

「ええ、少し複雑だけど、これも研究の一部ね」


クロードの背後には、薬効を歌に乗せる吟遊詩人・リリスが現れ、柔らかい声で歌う。

「薬は心を癒す、毒は心を惑わす……」


華はメモ帳を取り出し、今日の記録を書き込む。

「王宮の病も、偽薬の流通も、全部つながる……。次の手を打たなきゃ」


夜、王都の街は灯りに包まれ、薬局の小窓から覗く華の瞳に決意が宿る。

「薬で真実を暴く――それが私の使命」


薬瓶の液体が月光に反射し、まるで小さな星のように揺れた。

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