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家族の約束

作者: 犍陀多

間もなく「フタツトビラ」、「フタツトビラ」に停車致します。

お降りのお客様はお忘れ物のない様、お気を付け下さい。


車内放送が流れた。


「やっと着くか」

携帯ゲーム機の電源を切り、荷物を手に纏めてデッキへと移動する。


お盆期間中だけあって、こんな田舎の駅でも降りる人は大勢いる。

エスカレーターで改札口へ向かい、出発前に到着時刻を知らせていた両親が迎えに来ているであろう、西出口へと歩く。

車はすぐに見つかった。母のシルバーの軽自動車だ。

私は手を振り、笑って見せる。母も手を振り車の中から答えてくれる。

車の後方のドアを開け、「だだいま」と声をかけて3日分の着替えの入った赤いキャリーバックを入れる。

助手席のドアを開けて乗り込み、「今年も暑いね」と話をしながら実家へと向かう。

帰るまでの道中は、最近の出来事を2人で話すがお決まりになっている。

やはり、女同士のおしゃべりはいつまでも止まらないものなのだ。


そのまま、夕飯の買い物をして行く事になり、立ち寄ったスーパーでも仕事の話やら、知人がどうしたとか、お互い報告義務を果たす為にお正月から数えて半年分の話をするのだ。

そして、私が帰った日の夕飯は好きな物を作ってくれる。

私の家では、「おふくろの味」というのが特に無いので、大体自分が今食べたい物になってしまうのだが、それでもここ何年かは餃子が定番になっていた。

これだと、偏食の父親も一緒に食べてくれるからだ。

だから、餃子を実家で食べるのは、家族4人揃っている時になる。

最後の1人。私の弟のネルは明日、帰省する事になっていたので、今夜のメニューは私の好きな「サラダうどん」になった。


食材を買い、今度こそ家へ帰る。

いつまでも変わらない、昔のままの家。

玄関を開けると昔の思い出が一気に蘇って、過去に戻ったような錯覚に陥る。

まるで、今学校から帰った学生時代に戻っているようだった。

また、それがとても嬉しくもあった。ちょっと古臭いけど、ここが私の家だと実感出来たから。


家では、父が留守番をしていた。

「おかえりルカ」「ただいま父さん」と挨拶を済ませ、仏壇のじいちゃんとばあちゃんに線香を焚いて手を合わせる。

「よし、これで家族への挨拶は終わった」

自分の部屋へ行き、着替えをしてやっと落ち着く事が出来た。着替えの後は、夕飯の手伝いをしに母の居る台所へと向かう。


手伝いをしながらも、さっきまで途中にしていたおしゃべりを再開させる。


何故こんなにも仲が良いのか。

それは、今考えてみると両親は、特に母は私と弟を守ってくれていたからだろう。

「守る」というと大げさに聞こえなくもないが、やはり守ってくれていたんだと思う。

人に対しても馬鹿みたいに優しかった。ただ、優しいだけじゃなく、ちゃんとラインを踏まないように一定の距離を保ちながら。

若い時は全然分からなかったけれど、大人になった今になってその事に気づく事が出来た。



中学生の頃、私にも反抗期があり父と不仲になっていた。父が仕事から帰って来ると部屋に籠りきりになり、会話もせず、顔も合わせなかった。それは、高校の時も続いていた。だけど、母はそんな私にいつも声を掛けてくれていた。長い間、2人の間に挟まれていた母はどんな気持ちだったのだろうと、今の私は申し訳ないのと、情けない気持ちでいっぱいになっていました。


そんな中、高校3年生の冬に両親共に揃って仕事があり、家を空けなければならない時がありました。家には、わたしとばあちゃんの2人きり。

私は軽い気持ちで、自由自適に生活していました。


ある日、朝起きていくと台所が静かでした。早起きのばあちゃんがいつも居るはずなのでテレビでも見てるのかと思い、居間を覗いてみても居ない・・・。

おかしいなと不安になって、ばあちゃんの部屋に行くとベッドの上で苦しそうに息をしているのが見えました。私は一気に目が覚めて、ばあちゃんの元へ駆け寄り、苦しそうな呼吸をしているのを前にパニックになってしまいました。

どうしよう、どうしよう、どうしよう

今、誰も居ないのにどうしたらいい?どうしたら、どうしたら・・・

何とか思考を巡らせて救急車を呼んだ。

待っている間も、どうしていいのか分からず、泣きながら背中をさすってあげる事しか出来なかった。


その後、病院で処置をしてもらいばあちゃんは一旦落ち着いたみたいでした。

しかし、容体は良くないらしいとも聞かされました。


家に帰って来た私は両親に連絡を取り、その事を報告した。

父の方は、何とか明日には帰って来るという事でしたが、母は県外へ行っていたので2日間かかりそうとの事でした。

その日の夜はとても落ち着かず、いつまでも眠れませんでした。


あの朝から2日間後、学校から帰ると家の中が騒がしかったので、どうしたのかと奥の方へ行ってみると、ばあちゃんが帰ってきていた。

しかし、いつもと違っていたのは白装束を着ていたからだ。

奥から、母が私に気づいて駆け寄って来ました。

そして、私を抱きしめて「1人にしてまで行くべきじゃなかったね、ごめんね。ごめんね」

とずっと、私に謝りながら泣いていました。



確かに心細かった気持ちは無かった訳ではないが、私は今まで辛い思いばかりさせていたのに、謝らなきゃいけないのは私の方なのに。こんなに私の為に泣いてくれている母を見てしまい。なんて親不孝者なのだろうと後悔しました。

そして、私は泣いている母に向かって「ごめん」と一言謝りました。


それからというもの、二人が仕事で居ない時は必ず知人の家に預けられる事になりました。

家では一人きりにさせないという約束が出来たからです。

そして、少しずつではあるけれど、父とも話をするようになりました。



「父さん、夕飯出来たから食べに来てよ」

「今行くよ」

「さあ、じゃ食べようか」

「じゃ、皆で。いただきまーす」



今年の夏も暑くなる事でしょう。

皆さんの中でも、似たような経験があって共感して頂けたなら幸いです。

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