盗賊と異人館
ホラーでエロティックな作品に挑戦しました。
※作品の一部表現に差別的な文言がありますが、
差別を助長するような意図はありません。
2025/09/06 一部表現を修正しました。
使用人になりすまし、
お屋敷に侵入する作戦は順調でした。
むしろ、あまりにあっけなく忍び込めてしまい、
拍子抜けしたほどでした。
男は使用人の死体を隠しますと、
己の青白い唇を舌で湿らせました。
生まれてはじめて人殺しをしました。
彼はもともと武士の階級でしたが、
人を斬ったことはなかったのです。
江戸時代は平和の時代で、
武士といえども、ほとんど刀を振るうことはなく、
主君からの俸禄で生活をしておりました。
されど、それのみでは暮らし立たず、
質屋に行っては、身を切り、身を切り、なんとか生計を立てていたのです。
それでも、男は幸せでした。
子宝には恵まれませんでしたが、
美しい妻と慎ましく暮らしておりました。
しかし、幕府が倒れ、武士階級が取り壊されますと、
男は本格的に生活が困窮しました。
そして、流行り病を患った最愛の妻に先立たれ、
とうとう、男は人が変わったようになったのです。
時刻はすっかり子の刻を過ぎておりました。
男は広い洋館を音を立てずに進みます。
この洋館は「異人さんの家」と呼ばれ、ご近所でも有名でした。
物を盗むにあたり、
西洋の珍しい品物があるのではと男は踏んだのです。
「おや」
ふと歩みを止め、男は耳を澄ませました。
どこかで女の声が聞こえるのです。
日本語ではありませんでした。
「少しくらいいいだろう」
作戦が順調に進んでいた男は、大胆になっていました。
好奇心に任せて、声のする方に向かうと、
男はある部屋の前に辿り着きました。
先ほどよりも鮮明に女の声が聞こえたかと思うと、
今度はドサッと物が転がる音がします。
この中で何が起きているのだろう…
男はヒッソリと扉を開け、部屋の中を覗きこみました。
強烈な臭いに思わず顔を顰めました。
それは花とアルコールと血液の入り交じった臭いでした。
男はランプに照らされた部屋を見渡すと、
やがて、床の一点に視線が吸い寄せられました。
裸にされた男の死体でした。
身体には幾多もの鞭で打たれたような跡があり、
下腹部は酷く損傷していました。
死体の腕は細いひもで拘束されています。
眼は白目をむいていましたが、
しかし、その表情には神に祈るときのような、
恍惚の表情が張り付いていました。
冷や汗が背中を伝いました。
強盗の男は小心者でした。
ふと、奥で人の気配がしましたが、
金縛りにあったように動けません。
やがて、闇の中から滲み出るように、
一つの影が現れました。
絹糸のような黄金の髪が印象的な、
若い長身の女でした。
はっきりとした顔立ちと身体の凹凸はランプの光を反射し、
露出した白い肌に艶めかしい影を落としておりました。
そして、左手に握られた鞭、
足下に転がる男の生き血を啜ったのでしょう、赤く染まっています。
「————」
女は微笑み、男の顎に細い指をあてがいました。
男には女の言葉が分かりませんでしたが、
彼女の醸し出す、尋常でない雰囲気に、
すっかり呑まれてしまいました。
男は女にされるがまま、
服を脱がされ、ベッドの前に跪きました。
一方、女はベッドにドサッと腰掛け、
長い足を伸ばし、つま先で男の鼻先をつつきます。
「————」
相変わらず言葉は分かりません。
呆然としていると、
女は鞭で男の胸を強打しました。
女はそれからもう一度、男の鼻先につま先をやるのです。
彼女がベッド脇の葡萄酒を手に取り、
膝からつま先まで垂らしてやると、
ようやく男にも彼女の意図が汲み取れました。
男は戸惑いましたが、やがて、彼女の足先にキスをし、
指と指の間に溜まった葡萄酒を丁寧に嘗めとりました。
強烈なアルコールの香りに頭がクラクラします。
それと同時に、女の前に無様に跪き足を嘗めている自分の姿を自覚し、
ひどく赤面しました。
男はここに来たことを後悔しました。
しかし、彼はもはや蜘蛛の巣に引っかかった哀れな羽虫でした。
「————」
男は何度も鞭で打たれました。
そして、いつしか、鞭で打たれる度に
彼の身体は反応するようにされてしまったのです。
「ああ、俺が悪かった、殺せ、殺してくれ……!」
男は哀願しました。
女はニヤリと笑うと、
男をベッドに引きずり込み、彼の上に覆い被さります。
鼻腔に女のお乳の臭いが充満しました。
男は、最期に妻のことを思い出していました。
俺はどこで間違えてしまったのだろう…
しかし、考えても後の祭りでした。
* * *
翌朝、強盗の男は森の中で冷たくなっていました。
男の肌には無数の傷跡があり、
下腹部は無惨に破壊されていました。
そして、彼の顔もまた、
恍惚に歪んでいたとのことです。




