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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

パラフィリア幻想譚

盗賊と異人館

作者: 春野 椿
掲載日:2025/08/31

ホラーでエロティックな作品に挑戦しました。


※作品の一部表現に差別的な文言がありますが、

 差別を助長するような意図はありません。


2025/09/06 一部表現を修正しました。

使用人になりすまし、

お屋敷に侵入する作戦は順調でした。


むしろ、あまりにあっけなく忍び込めてしまい、

拍子抜けしたほどでした。


男は使用人の死体を隠しますと、

己の青白い唇を舌で湿らせました。


生まれてはじめて人殺しをしました。


彼はもともと武士の階級でしたが、

人を斬ったことはなかったのです。


江戸時代は平和の時代で、

武士といえども、ほとんど刀を振るうことはなく、

主君からの俸禄(ほうろく)で生活をしておりました。


されど、それのみでは暮らし立たず、

質屋に行っては、身を切り、身を切り、なんとか生計を立てていたのです。


それでも、男は幸せでした。


子宝には恵まれませんでしたが、

美しい妻と慎ましく暮らしておりました。


しかし、幕府が倒れ、武士階級が取り壊されますと、

男は本格的に生活が困窮しました。


そして、流行り病を(わずら)った最愛の妻に先立たれ、

とうとう、男は人が変わったようになったのです。


時刻はすっかり()の刻を過ぎておりました。


男は広い洋館を音を立てずに進みます。


この洋館は「異人さんの家」と呼ばれ、ご近所でも有名でした。


物を盗むにあたり、

西洋の珍しい品物があるのではと男は踏んだのです。


「おや」


ふと歩みを止め、男は耳を澄ませました。


どこかで女の声が聞こえるのです。


日本語ではありませんでした。


「少しくらいいいだろう」


作戦が順調に進んでいた男は、大胆になっていました。


好奇心に任せて、声のする方に向かうと、

男はある部屋の前に辿り着きました。


先ほどよりも鮮明に女の声が聞こえたかと思うと、

今度はドサッと物が転がる音がします。


この中で何が起きているのだろう…

男はヒッソリと扉を開け、部屋の中を覗きこみました。


強烈な臭いに思わず顔を(しか)めました。


それは花とアルコールと血液の入り交じった臭いでした。


男はランプに照らされた部屋を見渡すと、

やがて、床の一点に視線が吸い寄せられました。


裸にされた男の死体でした。


身体には幾多もの鞭で打たれたような跡があり、

下腹部は酷く損傷していました。


死体の腕は細いひもで拘束されています。


眼は白目をむいていましたが、

しかし、その表情には神に祈るときのような、

恍惚の表情が張り付いていました。


冷や汗が背中を伝いました。


強盗の男は小心者でした。


ふと、奥で人の気配がしましたが、

金縛りにあったように動けません。


やがて、闇の中から滲み出るように、

一つの影が現れました。


絹糸のような黄金の髪が印象的な、

若い長身の女でした。


はっきりとした顔立ちと身体の凹凸はランプの光を反射し、

露出した白い肌に艶めかしい影を落としておりました。


そして、左手に握られた鞭、

足下に転がる男の生き血を(すす)ったのでしょう、赤く染まっています。


「————」


女は微笑み、男の顎に細い指をあてがいました。


男には女の言葉が分かりませんでしたが、

彼女の醸し出す、尋常でない雰囲気に、

すっかり呑まれてしまいました。


男は女にされるがまま、

服を脱がされ、ベッドの前に跪きました。


一方、女はベッドにドサッと腰掛け、

長い足を伸ばし、つま先で男の鼻先をつつきます。


「————」


相変わらず言葉は分かりません。


呆然としていると、

女は鞭で男の胸を強打しました。


女はそれからもう一度、男の鼻先につま先をやるのです。


彼女がベッド脇の葡萄酒を手に取り、

膝からつま先まで垂らしてやると、

ようやく男にも彼女の意図が汲み取れました。


男は戸惑いましたが、やがて、彼女の足先にキスをし、

指と指の間に溜まった葡萄酒を丁寧に嘗めとりました。


強烈なアルコールの香りに頭がクラクラします。


それと同時に、女の前に無様に跪き足を嘗めている自分の姿を自覚し、

ひどく赤面しました。


男はここに来たことを後悔しました。


しかし、彼はもはや蜘蛛の巣に引っかかった哀れな羽虫でした。


「————」


男は何度も鞭で()たれました。


そして、いつしか、鞭で()たれる度に

彼の身体は反応するようにされてしまったのです。


「ああ、俺が悪かった、殺せ、殺してくれ……!」


男は哀願しました。


女はニヤリと笑うと、

男をベッドに引きずり込み、彼の上に覆い被さります。


鼻腔に女のお乳の臭いが充満しました。


男は、最期に妻のことを思い出していました。


俺はどこで間違えてしまったのだろう…

しかし、考えても後の祭りでした。


* * *


翌朝、強盗の男は森の中で冷たくなっていました。


男の肌には無数の傷跡があり、

下腹部は無惨に破壊されていました。


そして、彼の顔もまた、

恍惚に歪んでいたとのことです。

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― 新着の感想 ―
面白かったです。 異人の女性がミステリアスな魅力を放っていて惹きつけられました。 江戸時代の洋館で何が行われていたのかとても気になります。
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