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封印されし魔王は人類の中に混じっている

作者: 杉乃中かう


 あるところに魔王がいました。

 魔王の住む居城の大広間の中央にポツンと人影がありました。


 「私一人。幾千年幾万年の時を過ごしほとほと生きるのに疲れた」


 魔王と言われなければ人と変わらない姿のお人、魔王は黄昏ていらっしゃいます。

 

 「何にもない。本当になんにもない」


 ネガティブなのかポジティブなのかどうか魔王になってみないとわかりません。

 魔王の発する言葉はよく響きます。

 それこそ世界に影響を与えるほどに。ですが、ここ大広間は特殊な鍵を仕掛けてあり反響して自身に帰ってくるだけです。


 「ふむぅ、封印しようかな」


 何を思ってそう思ったのか皆目検討がつきません。魔王ではありませんのでわかりません。しかし、何を封印するのでしょう?


 無空の空間から五つの鎖付きの手枷足枷がゴトゴト音立て魔王の足元に落ちてきました。

 魔王はわけ知り顔でそれらの一つを手に取って、さも当然のように手首にはめました。どうやらそれらは魔王の知っている物のようです。


 ガチリ、ガチリ、ガチリ、ガチリ、ガチリ


 「ふっ、これでグレードアップだ。いかすだろ」


 何がグレードアップなのでしょう。先ほどの言葉によれば封印されたはずです。むしろグレードダウンだろと。

 そして何がいかすのか、ポーズをとっても何もないだろうに。


 魔王ひとしきりポーズをとったあとため息をつく。


 「面白くないなぁ。見てくれる人がいないから、やる気が起きなーい」


 ふざけたように言葉を吐く魔王。寂しそうなのは間違いない。

 今の魔王は枷を付ける前と比べて一万の一の力になっている。力を封印しても現状は変わってはくれない。

 魔王はやることやったし、大広間を出ようと踵を返す。

 

 「ん?」


 大広間の出入り口が開きました。

 巨大な扉がひとりでに開いたのに魔王は不思議そうです。それも当然、ひとりでに開く扉ではないからです。ではなぜ開いたのか。


 わらわらと入ってきた人たち。人です。人です。この世界で人と魔王は敵同士に仕組まれております。人は魔王を倒すべき敵だと盲信しております。そう教えられたからですね。

 ゆえに、不法侵入でも器物破損でもなんでもしていいのです。相手は魔王なのですから。そう、体現して五人の人は入ってきました。しかし、我らが魔王は寛大でそれらを飲み込む愛を持って歓迎します。


 「おおっ、よく来た人たちよ。歓迎するぞ。さぞかし名のある勇者とお見受けする。我が名はユル。お見知り置きを」


 嬉々とした顔ではなく無表情といった顔で歓迎の意を示す。魔王の内は歓喜で溢れかえっている。


 それが魔王に勇者と呼ばれた先頭に立つ男には暴れ狂う力を秘めた何かに見えた。仲間たちはそう感じて戦闘態勢に入っている。


 「魔王。いや魔王と呼ばれる人よ。歓迎しなくていい。名前も興味がない。名前は名乗らなくてもいいだろ?勇者で良い。」

 「そうか、では勇者よ。何のようで我が城に?」


 魔王はわけ知り顔で問いかけた。魔王にとって勇者も世界もとるに足らない存在だから、故に存在を許している。相手に合わせる。それが我が我である証。

 勇者は片眉をピクリと反応させて、こう言った。


 「お前を倒す。ただそれだけだ」

 「…それはお前の意志か」


 無表情な魔王は問いかけた。相変わらず何を考えているのかわからない。


 「そうだ。世界から争いを無くならないのはお前がいるからだ。陰でこそこそ人をおとしめて楽しいか」

 「…」

 

 魔王は幾万年城から出ていません。しかし、城出ることは何の縛りがなく、自由に世を闊歩することができます。また、城に居ても世界を見聞き出来るので、子ども向けの絵本なんかにはそう言ったことが真実として書かれています。程度はともかく。

 沈黙を肯定ととらえたのか、勇者は剣を鞘から抜き放ち相対する魔王に突きつけ宣言する。


 「今こそお前の死が必要だ。打ち倒れろ魔王!!!」


 その言葉を合図に勇者たちは魔王に向かって攻撃を開始しました。


 流れてくる攻撃を前に魔王は先ほどの勇者の言葉を吟味し続けていました。

 争いが無くならないのか我がいるから、ね。

 陰でこそこそ楽しんでいる我がいる、ね。

 他人に興味がない勇者。

 他者を寄せつけない勇者。

 全く満たされない。勇者よ。世界に敵を見つけたい勇者よ。

 我がいったいなぜこんなところにいると思っている?

 なぜ世界が我に魔王の役目を推したと思っている。人類から敵視される役目を。この重荷を愛を求めてやまない勇者、其方に出来るか。

 そう問いたかった魔王は迫り来る現実に引っ張られるがごとく応戦して激戦へと向かわせる。それが魔王対勇者たちにおける物語なのだから。


 三日三晩の激闘。

 あれも大広間、美しかった大広間が見るも無惨に荒れ果てた牢獄のようになった。

 魔王は虫の息。ただ立っている。

 勇者とその仲間は力を振り絞りやっと息出来ている互いを支え合い前を向く。


 「……これで終わりだぁ!!!!」


 勇者の振るう光り輝く剣で魔王は打ち倒された。

 五石の鎖を巻き込んで魔王は光へと浄化された。

 大広間に残った静けさはなんと閑散なことか。

 


 

ーーーーーーー

 チュンチュンチュンチュン


 鳥の鳴き声が聞こえる。

 静かな陽だまりの真ん中で少年がいる。

 先ほどまでの激闘からの死を、生に変えた魔王は人となって転生した。

 数あるうちの一つの望みと沿う世界に魔王、いな、少年は目を覚ました。


 「おはよう世界(わたし)

 

 

 


 

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