第2話:第五魔法をめぐる交渉──王国と貴族派の思惑
──新たな理論は、力をもたらす。
そして力は、必ず“支配の道具”として狙われる。
第五魔法は、もはや“魔女の研究”ではなく、“王国の未来を左右する資源”だった。
◇ ◇ ◇
「……なるほど。術者不要、詠唱不要、そして展開条件を数式で指定できる」
ラグナル公爵は、ゆったりと革張りの椅子にもたれ、微笑んだ。
「それだけの機能があるならば、もはやこれは“魔法”ではない。
“設置型自律兵器”に近いと言える。違うかね?」
クロエ(オートマタ)は、沈黙を貫いていた。
本体のクロエは、後方の遠隔観察席で静かに事の成り行きを見守っている。
「我が家は、王国の防衛を三世代にわたって支えてきた。
その力に、君の“第五魔法”を加えることで、より強固な防衛網を築くことができる。
もちろん、名誉と予算の配分は保証しよう。……どうだね?」
◇ ◇ ◇
「……丁重に、お断りいたします」
ラグナル公の笑みが一瞬、固まる。
「第五魔法は、“力の拡張”のために生まれたものではありません。
私が目指すのは、“魔法という言語体系の再定義”です。
それが、戦争のためにあるとは、一度も思ったことはありません」
「ならば君は、何のためにこの理論を生み出したのだ?」
「誰かが、詠唱に縛られずとも“救われるため”に。
──病院、避難所、誰もが魔法を使えない場所でも、魔法が“自然に発動するように”」
その一言で、場の空気が冷える。
「甘い。君のような者が、一番危険だよ」
「……それが、貴族の答えですか?」
◇ ◇ ◇
──交渉は、決裂した。
翌日から、ラグナル派の貴族たちは水面下で「第五魔法封印の再申請」を王国上層部に提出。
一方で王都中央病院からは、正式に「第五魔法を用いた自律治癒補助陣の常設要請」が入った。
どちらが“公共性”を持つか──問われているのは、魔法ではなく“使う者の意思”だった。
◇ ◇ ◇
クロエは研究室に戻ると、フィーネと共に魔導式の再調整に入っていた。
「私たち、どうなるんでしょうか」
「どうなるかじゃない。“どうするか”よ」
クロエはホワイトボードに、新たな計画名を記した。
【Project Λ(ラムダ)】
──第五魔法・生活圏実装化計画──
《災害予報》《結界防風域》《自動照明》《浄水場式魔素濾過結界》
「第五魔法を“戦い”ではなく、“暮らし”の中に根付かせる。
その事実こそが、制度に“再定義”を促すのよ」
──戦うのではなく、“必要だと認めさせる”。
それが、魔法の再定義者・クロエの選んだ“やり方”だった。




