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『居場所はいつもカナダにあった』というエッセイを見ていただいた方ならわかると思うが、私は20歳の頃留学先のカナダで現地人に恋をした。金曜日の夜にバーへ行ってみたけれど、大阪の満員電車や観光シーズンの京都市営バスと同じくらい混雑していたのだ。その時にある男性から手招きされ、私は恐る恐るついていく。すると突然抱きしめられ、
「俺といれば大丈夫だよ」
と頭も撫でられる。彼は周りにいた仲間に「彼女を守ってるんだ」とも言っていた。上を見ると、彼の顔が近づいてきてキスされる。
彼の名はパトリックと言うそうで、私より5学年上だった。なぜ知っているかと言うと、年齢の話になり
「20歳か、若い! 俺はいま24歳だよ。来月25歳になるけど」
と言っていたからだ。私を大学までタクシーで送ってくれ、降りる時に手を引いてくれた。日本でこのようなエスコートをされたことがなかったので、私が恋に落ちるのに時間はかからなかったのだ。それからパトリックに連絡先の交換を持ちかけられ、私たちは電話番号を交換する。私がFacebookの交換をお願いし、Facebookも交換した。
その日のうちに守ってくれたことへのお礼としてメッセージを送ったけれど、既読マークのみがついて返信はない。忙しいのだろうと思い、何もせず放置していた。それから大学の授業が始まったけれど、私は毎日パトリックのことばかり考えながら過ごす。あわよくば彼女になりたい、毎日一緒にいたいなんて考えていた。
また数日後に「元気にしてますか?」とメッセージを送ってみる。しかしそれも既読マークだけついて返事はなかった。要は既読無視ということで、返事がないことが答えだったのだ。
私が住んでいたのはエドモントンで、パトリックが住んでいたのは同じアルバータ州にあるコールドレイクという都市だった。パトリック本人は
「またエドモントンに来るよ」
と言っていたけれど、車で3時間の距離なので簡単には会うことができない。私は留学生なのでゆくゆくは日本に帰国することになり、付き合えたとしても国際遠距離恋愛となる。そういう事情もパトリックは分かった上で、私と遠距離恋愛するだけの価値はないと考えたのかもしれない。
またパトリックのFacebookに元彼女との写真が載っていたけれど、彼女は髪を金髪に染めていて前髪なしのザ・白人女性という感じの人だった。それで私みたいな東洋人は彼のタイプではなかったのかもしれない。