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不思議の扉  作者:        
5/6

5.エピローグ

「……じゃあ、私の役目は全うしたから、帰るね」


 この後、少しの沈黙が流れた。

その沈黙の間、僕は彼女の”役目“についてを考えていた。

 彼女は現れた時から不思議であった。

まず、そこで何をしているのかと僕に尋ね、一緒に歩かないかと提案してきた。

ふと考えてもみると、おかしな話である。

まず、なぜ彼女はこんな森にいる?

そして、なんで僕に会えたのだ。

森を彷徨っていて、たまたま会ったのならまだしも、彼女は困惑一つせずに僕に話しかけてきた。

それはまるで、全てを図っていたかのようだ。

彼女と会ったことも、親睦を深められたのも、悩みを打ち明けられたのも、全て彼女が起こした”必然“なのだろうか。

だとすれば、この疑問達にも解が出る。

全て、彼女の企みという解だ。

今時点では、仮定でしかないが。

 そう考えていた時だった。


「仮定じゃないよ、正解だよ」


 彼女が何か喋り始めた。


「私は優吾君の心も読めるよ。

 だから、優吾君が考えていることも全て分かる。

 今までの言動全てが、私の企みだよ」


 そう言われると、何かこれまでの違和に合点がいくような感じがした。

 違和というのは、彼女のこれまでの発言にあった。

彼女はこれまで、僕が今一番欲しい言葉をくれた。

あそこの岩に座ると、学校や人間関係について質問してき、僕が不登校になったあの日の回想を終えると、自分が自分を見直せるのはすごいと言ってくれた。

これらは全て、僕が必要としかしないものだ。

また、それらの発言から僕は、彼女は求めた通りの言葉をくれるということに内心気づいた。

なので、

「君がクラスメイトなら、こんな僕を許してくれるかな?」

と問うた。

そしてやはり、彼女は僕が求めていた通りの答えを言ってくれた。

「許してあげる」と。

彼女は求めた通りの答えをくれる、それはもう、確信になっていた。

 なのに、なぜ疑いもしなかったのだろう。

心を見透かしているかのように思うことはあったっけか。

だが、心が読めるとは考えつきもしなかった。

しかし、彼女に対する疑念が蓄積された今だから考えつくことがある。


 彼女、プエルタは人ではない。


「……えへへ、そうだよ」


 彼女は髪をかき上げた。

その仕草は照れの感情から来ているものではない。

おそらく、驚きの感情からだ。

何となくだが、そう読み取れた。


 髪をかき上げた彼女は、何だか薄くなっていた。

そう、身体が薄くなっていっている。

この場から消える前触れであろう。


「ホントに、帰るんだね」

「……そうだよ。

 一瞬で消えちゃうのは、なんか寂しいじゃん?」


 彼女はそう言うが、こうやって時間をかけて消えていくのも寂しい。

彼女は、僕の心を開いてくれた。

感謝しても、しきれない。


「最後に、1つだけ、教えてあげるね」


 そう言って、右手の人差し指を上げ、手で「1」をで表す。

加えて、続ける。


「私は私と会ったことのある人、あるいは会っている人の記憶を読めるよ。

 あと、その人達の記憶を都合の良いように変えたり忘れさせたりもできるよ。

 ……ここ半年以内ほどなら、君含めて7人はこれを施したかな」


 そして。


「じゃあね、優吾君。

 私の正体には気づいたでしょ?」


 そう言い残した。

彼女とのお別れの時間が来て、今現在でそれが過ぎたのである。

ここに彼女の跡はなく、まるで誰もいなかったかのようだ。

……しかし。


「なんだこれ」


 1枚の紙切れが落ちていた。

彼女が残した唯一の物だろうか。

 そこには文字が刻まれていた。


――――――――――

君は覚えていてね

――――――――――


 それを見ると、僕は感激した。

しかし、あえてそれには浸らず、森を出た。

時刻は、9:33である。





―――――


 ある日の月曜日。

8:00頃に僕が登校してくると、何やらザワザワし始めた。


「おい、あれって中谷じゃないか?」

「マジかよ、むっちゃ休んでたのに」


 いつもより下駄箱が騒がしい。

同じようなことが、5ヶ月前にもあったな。

……だが、こんなことで戸惑うのはいけない。

これから、もっと大きいことをやるのだから。


 僕は教室へと向かった。

もう、誰と会おうと何も思わない。

誰とも会いたくないとも思わない。

 途中、英語担当の先生と出会った。

しかし、先生は僕が来ていることに驚いているようで。

だが、「おはよう」とは言ってくれ、僕もそれに返しておいた。


 教室前に着き、緊張しながらも中に踏み込むと、辺りは静まり返った。

明るい石井でさえ、友人である岡井でさえもだ。

 そして、最初に口を開けたのは、教卓に佇む担任の先生であった。


「中谷、久しぶりだな」


 何も声色は変えていない。

動揺もないのだろう。

ありがたいことである。


「お久しぶりです、先生」


 僕はそう言ってから自席へと向かい、座る。

すると、8:05を知らせるチャイムが鳴り、朝学活が始まった。


 その後、特に何もなく朝学活は進んでいった。

そして、日直が号令を終え、1時間目までの休み時間に入る。

その直後に、僕は席から立ち、あのクラスメイト達が集まるところへ行った。


「あのさ………」


 そう言うと、やはり辺りは黙り込む。

空気が、凍った。

しかし、凍らせたままではいけないと、次の言葉を発する。 


「今まで、ホントごめん!

 自分が悪いのは分かった。

 だから、これからは僕を受け入れてくれないかな?」


 僕は、勇気と声を振り絞って言った。

内心は、このクラスメイト達に届いてくれという気持ちでいっぱいだ。

…さて、どう返してくるのだろう。


「何しに来たんだよ」


 口を開けたのは石井である。

やはり、そう簡単には……。

 そう思っていた頃である。


「今さら言われなくても、お前という存在は認めてるよ。

 これからは仲良くしよう」


 返ってきたのは、予想もしていなかった言葉であった。


「…え……?」


 僕も困惑を隠しきれずこう呟く。

すると、次々に周りのクラスメイト達は僕に対して何か言ってくる。


「早く言えよ〜、

 これからは友達な」

「よろしくな、中谷」


 他にもいろんなことを言われた。

そして、それは全て祝福の声だった。

僕は、それに対して嬉しさを抑えきれず、思わず笑顔を出した。

すると、またクラスメイト達は口々に言っていた。




 僕はこの後から、クラスメイト達と話すようになった。

そして、授業でもいつも通りにいた。

また、クラスメイト達から色々と話しかけられるが、それも全て愛想よく返すようになった。




 これが、友情なのだ。

これが、友の力なのだ。

人は友を作り、他愛もない会話を交わす。

そして、時にはぶつかり合う。

しかし、これも全て人の道理なのである。

ぶつかり合っても、また繋がり合える。

これを、“人の温情”というのだ。


 


――僕はこれから、不登校をやめた――

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