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不思議の扉  作者:        
3/6

3.扉の在り処

 ある日の休日、優吾はある一件のメッセージを見つめていた。


「中谷へ。

 結局、お前が聞いてくれていた扉の詳しい情報について、俺が聞いた中での進展はなかった。

 場所も証言も体験談も、何もかもだ。

 いわば、成果ゼロって感じだ。

 大変、申し訳ない。

 ……しかし、森にあることは確定している。

 みんな、道に迷った記憶はないだろうし、行ってみたらどうだ。

 また連絡してきてくれてもいいぞ」


 俺が岡井に依頼した翌日の5時頃に、岡井から送られてきたメッセージだ。

おそらく、帰ってすぐに連絡しようとしてくれたのだろう。

それはそれは、ありがたいことだ。


 しかし、何も進歩がないというのは……なんとも言い難い。

森にあると言われても……って感じだ。

でも、みんな道に迷わなかったのなら、俺も迷わないで済むのだろうか。

とりあえず……行ってみるか。

あの森へ、その扉へ。


 今は8:30頃。

両親は近場の職場への出勤をしなければいけない時間帯だ。

無論、今日は休日であるが、両親にとっては出勤日である。

 ……しかし、決して平日も毎日出勤しているわけではなく、水曜日と金曜日は休みであり、休日も確保できている。

加えて、日曜日も休日であり、両親の職場は同じである。

なので双方、過剰に働きすぎているわけでもないのだ。


「優吾〜、私たち行ってくるから、留守番よろしくね〜」


 そんな両親が今、職場へと向かい始めるらしい。

両親が車に乗ったことを確認すると、僕は玄関近くの窓に移動し、走行していく車を見つめていった。

そして、この家の近隣から離れたことを確認すると、僕はすぐに自分の部屋へと向かい、おもむろにカバンを取り出した。

そして、そこに水やら乾パンやら様々な物を詰めていって。

その過程で、あることに気がついた。


(…いや、こんなに荷物いるか?)


 今からあの森へ行こうと考えていた。

しかし、冷静になってみよう。

今から電車に乗って学校近くまで行って、あの森へ向かって、扉を見つけて、って感じで終わりになる。

でも、乾パンとか水とか必要あるのかと思ってしまう。

最低限として必要なのは、水分と電車に乗るための定期券だけだ。

森に遭難したら……とか、別に考えなくてもいい。

荷物が増えて、歩きにくくなる方が嫌だろう。


 僕はそう考えると、カバンに詰めていた荷物を全て取り出し、周りに放る。

そして、水と定期券とだけをカバンに詰め直し、スマホ片手に家を出た。




 電車に乗ると、中はガラ空きだ。

この車両は2両編成らしいが、向こうにも人はあまりいない。

それにこの近辺の駅では、一番前の車両の一番前のドアしか開かない。

理由は、改札がなく、無賃乗車をされる可能性があるため、切符なりICカードなりを車掌に見せる必要があったからだ。

 というのも、この地域は資金難であり、ただでさえ人が降りない駅に改札を設置するほどの余力がないのだ。

なので、3、4年前までは交通系ICカードの利用ができなかった。

しかし、とある人の頑張りにより、それは今になっては解消された。

そのおかげで、学生達は駅を利用しやすくなったとか。

……しかし、田舎であることには変わりないのだが。


 僕は座席に着き、そんな事を考えていた。

電車が発車すると、車内は少し揺れた。

座席に着いているので、バランスが崩れることはない。

僕は真隣にある窓に目を向け、移りゆく街並みを眺める。

少し進み、踏切のあたりまで来ると、そこには踏切待ちをするクラスメイトがいた。

少しドキッとしたが、こちらの存在には気づいていないようだった。

 そんな時間を過ごしていると、学校の最寄り駅に着いた。

電車が止まると、僕は一番前の車両にいる車掌さんに定期券を見せ、車内から降りる。

そして、その電車がこの駅を離れるまで見守った。


(……さて、扉を探しに行こうか)


 ……と、言いたいところだが。

懸念される点がひとつ。

それは、クラスメイトと会う可能性だ。

 というのもこの時期、学校は所有のグラウンドを開放している。

なので、休日ではたくさんの学校生のみならず、OBの家族なども訪れる。

そして、森に向かう道中にて、グラウンドが反対側にある場所があり、柵では囲ってあるものの、歩行者の姿は見れる。

そこで自分の存在に気づかれたら、変な絡みをされるだろうか。

 そんな不安を抱くが、そう思っていても仕方ないと言い聞かせ、僕は歩き始めた。


 少し歩くと、何やら地域の人がゴミ拾いの活動をしている場に出くわした。

なので、その辺りを見てみると、歩道には多くのゴミがあった。

紙ゴミやらプラゴミやら缶ゴミやら、色々だ。

この人達は分別作業も並立して行っているため、まさに多忙を極めていると見受けられる。

すると、忙しい中、ゴミ拾い中のおばあさんが、僕に話しかけてきた。


「どこへ、行くんだい?」


 おばあさんは、僕を心配しているかのような目を向けてきた。

その目と自らの目が合うと、僕は、


「……散歩……です…」


そう小さく呟いた。

聞こえているのか、分からないが。

しかし、聞き返してもこないので、僕はその場を速やかに去っていった。

 ふと後ろを振り返ると、そこには黙々と作業をするおばあさん達がいた。

それを、少し不気味に思った。

だが、かと言って何かをしようということもなく。

ただ進む足を速めていった。


 例のグラウンドから歩行者が見える地点へと着くと、僕は足を止めた。

そして、こちら側からグラウンドを覗いた。


(やっぱり……クラスメイトがいる…)


 推測通りである。

やはり、この時期のグラウンド開放時に人がいないわけがない。

そして見るに、クラスメイトの中に、涌井や岡井は混じっていないだろう。

柵で囲ってあるせいでよく見えないが、私服が赤で有名な石井だけは分かる。

今日も今日とで明るく活発だ。

 石井との個人的な思い出などない。

……そう言えば、僕に5ヶ月前、

「何しに来たんだよ」

と言ったのは石井だったっけか。

それは曖昧だが、逆に言えばそれ以外は何もない。

小学校も違うし、言ってしまえば直接的な関わりもない。

いわば、”ただのクラスメイト“という関係である。


 僕はグラウンドを見るのをやめ、森への道中を歩いていく。

……それにしても、グラウンドを見ていると、なんだが羨ましくなってくる。

友好的な関係が僕にも欲しい、そう考えてしまう。

これは嫉妬心だろうか。

……いずれにせよ、どうでもいいか。

 僕は、自らの感情を抑え込み、進む足を速める。

それは、この場から去りたかったからだ。

その理由は、言うまでもない。


 歩みを進めていく内に、気づけばもう、あの森近くの川の近辺に着いていた。

近辺と言っても、ここは森近くの川を見下ろせる橋の上である。

しかし、ここは絶景を見下ろせる橋でも何でもない。

なので、迷いなくトボトボと森へと歩き出した。

 

 さわやかな風が吹き、僕の頭をなびかせる。

広大な自然が、僕の方を向いて踊っている。

木々の上を通過する鳥達が、僕に向かって何かを言っている気がする。

森は、不思議な効果を持っているみたいだ。


 森へ着くと、とりあえず内部を散策し始める。

扉がどこにあるかわからないと言えど、探さないことに始まらない。

今は、9:33。

できるだけ早く帰りたいというのもあるので、早く見つかるのを祈るだけである。


 僕は森の内部をトボトボと歩く。

しかし、その歩く速さはどこか遅いように感じる。

というのも、


(……中々に、怖い…)


僕自身が恐怖心を覚えているからだ。

 森の中は決して暗くない。

むしろ、木漏れ日が当たって心地良いくらいである。

しかし、不気味なのだ。


 幽霊や怨霊と言った霊は出ないだろうか。

帰り道は分かるだろうか。

遭難はあり得るだろうか。

そう考え出すと、歩く速さは徐々に遅みを増してくる。

そして、ついには立ち止まってしまった。


(…………)


 僕の中で沈黙が流れると、とある素朴な疑問が生まれてくる。

なぜ自分は扉を探すのかと。

考えてもみると、確かに分からない。

明確なゴールはなんだろう。

扉を見つけて、交友関係を広くして、そこからクラスでも必要とされる存在になることか?

しかし、涌井や岡井からは、必要とされているとまでは言わないが、軽蔑の目では見られていない。

なので、クラス全体でなく、一部で見るなら、このゴールはある程度達成していることになる。

たがしかし、僕はこんなことではないと思う。

あんなに言ってきたクラスメイトを見返してやりたいとか、関係を直したいとかじゃないのか?

それでも、その先に何がある?

見返して何になる?

関係修復して何になる?

そんなものは分からない。

 明確なゴールもスタートもない。

そもそも、全員から好かれるなんて無理な話なのだ。

A君が好きな人がいれば、B君を好きな人もいる。

A君を嫌いな人がいれば、B君を嫌いな人もいる。

A君もB君も好きな人がいれば、真逆にA君もB君も嫌いな人もいる。

人間の性として、好き嫌い別れるのは仕方ない。

………それにしても、だ。

 自分はクラスメイトと話したいし学びたい。

しかし、僕を軽蔑して見てくる輩、僕に嫌味で絡んでくる輩がクラス内にいるという、不安材料が残り続ける限り、僕は安心して学校へ行けない。

クラスへ出向けない。

それが、どれだけ重いことか。

だから、そうだ。

あの輩と仲良くならなくても良い。

だけど、今の関係を保つのは嫌だ。

関係を良くすることは考えず、悪いようにさせないことを考えよう。

“普通”にするんだ。

”良好“でなくても良いんだ。


 自問自答を繰り返した末は、何だか少しだけスッキリしたように感じた。

立ち止まる足を進めるようになり、僕はまた森の中を歩き出した。


 少し歩いても、まだ森は続く。

果てしないその光景に、諦めそうになる。

なので、道に迷わない程度に適度に歩き進めていくことにした。

すると、何やら声が聞こえた。


「……………の?」


 僕はゾクッとする。

気のせいかと思うが、確かに何かが聞こえたようである。

なので、また何か聞こえて来ぬかと、耳を澄ませる。


「……そ……で……な…………るの?」


 ほら聞こえたと、その聞こえた方である後ろを見る。

すると、その後ろから、


「そこで何してるの?」


 声の主が現れた。


ゾクッ


 背筋が冷たい。

凍ってはいない。

 声の主が現れるとまず、その姿に驚いた。

そう、少女だ。

見た目は学生くらいで、年も僕と近いだろうか。

身長も低くなく、平凡と言ってしまえば平凡である。


「……何してるの……って…………」


 コミュニケーションに対する苦手意識のせいで、言葉に詰まる。

しかし、それこそ、彼女にこそ 

「そこで何してるの?」

と問いたい。

そっくりそのまま返したやりたい。

そしたら、彼女はなんて答えるだろうか。

……まぁ、目的は同じだと、ある程度の察しはつくが。


「えへへ、急に驚いたよね、

 ごめんごめん」


 咄嗟に言葉こそ出なかったが、軽くお辞儀して大丈夫の意を伝える。

それを見ると、彼女は笑った。

そんなに面白い光景だったのだろうか。


 僕自身もこの場面に対して、心の中で少し微笑んだ。

すると、彼女は口を開いた。


「…突然なんだけど………」


 何か提案したそうである。

その顔はなんだ。

モジモジしながら頭を掻いているがなんだ。


 僕がそう思っていると、彼女は閉じていた口をまた開いた。


「………一緒に歩かない?」


(…………)


 理解し難い言葉である。

何のためだ。

何のためにそんなことをする。

別に歩いても構わないが、何がしたい?

……と彼女に言おうと思ったが、相変わらずのコミュニケーション苦手っぷりを見せつけ、黙ったままである。


「ねぇ、良い?」


 少し困る。

しかし、断る理由も対してない。

かと言って、承諾したところで何か起こるか分からない。

 未知数であるが、その場の空気的に僕は、思わず首を縦に振った。

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