テレビ
高校の時、生徒会長だった近藤はすんなりといい大学に行った。
でも、そこで音楽にはまって結局、中退。
今は大阪市内の大手パン工場でバイトしているという。
「なんだかんだで続けて来て、話が合わないで、今日、解散ライブだったんだよ」
と近藤美幸は言う。
「これからどうするの」
「しばらく一人でやる。もうやってるねん、実は。はい、これCD。全部、私がやってんねんで。はい、あげる」
「うわぁ、ありがとう。今、私も音楽ソフト使って遊んでるねん。参考にするわ」
「ええええ、作ってるんだ。今度、素人の集まりのイベントあるねんけど来る?」
「行く行く。いつなん」
「月末。来たらええわ。あんたも何か作ってみ」
「いや、無理無理無理」
「リズム作って歌乗せれば誰にでも作れるよ。やってみたらいいのに」
「できたらね。とりあえず見に行くわ」
その日は美織は素直に帰った。
なんで歌入りソングが作れるのよ。
リズムを作りながらテレビを見ていた。
リズムパターンをつなげて曲みたいなのができた。
やった、一曲完成。
あ、チャンネル変えよ。あれ、テレビ壊れた?
とりあえず、テレビを消した。
深く考えずにノリで作った曲にどんなリズムが合うかな、と乗せてみる。
壊れる、壊れる、壊れる、テレビ、テレビ、テレビ。
訳が分からないがいいリズムができた。
一応、動画で取っておこう。
美織は深く考えずに撮影した。
次の日、なんばのカフェで近藤と会う。
特に用事はなかったのだが、積もる話もあるからお茶しましょ、と約束してたのだ。
「西納さん、すごいじゃん、めっちゃいい会社行ってるやん」
「そんなことないよ。今、なんとなく人生暇で」
「いやいや。エリート街道だ」
「あの、曲、できたんだけど。こんなのでいいかな」
美織はテレビの曲を近藤に聞いてもらった。
「何、これ。エレクトリアル・パンクやん。かっこええやん。素人でここまで出来たら最高やん。ギター乗せたらもっと良くなるで。乗せたろか」
「え、良かった」
「ええよ。ええよ。今度のイベント、一曲だけ一緒にやろ」
「えええ。曲になってるの」
次の日、美織がノートパソコンを持って近藤がよく行く心斎橋のスタジオ・222に行った。
「こんなん考えてきてん」
近藤はジャカジャカ、ギターを乗せる。
かっこいい。自分が作ったリズムだと思えない。
近藤が歌を歌った。
壊れる、壊れる、壊れる。
テレビ、テレビ、テレビ。
すごく上手く、ハマっている。
「近藤さん、すごくいいよ」
「あんたの曲やん」
美織はこの1曲だけでイベントに出ることにした。
と言ってもほとんど近藤の仕事だが。