異端の氷精 1
最初に感じたのは、空気の味だった。
科学の進歩は生活を快適にする反面、自然等を減らしていくため昨今の空気はかなり澱んでいたりする。対策案として森林中心のメガフロートも建造されているが、それでも『ここ』の空気ほど上手くなるのにはどのぐらいの年月がかかるか、あるいはその前に……。
そう、ここは明らかに『次元』が違う。ただ、俺はすでに心当たりが一つだけあった。
ここは異世界でも、別次元でもない。ここは間違いなく『地球上に』存在する場所だ。ただ、それを『認知』できるか出来ないかの話だ。
ここは『幻想郷』。失われ『幻想になったもの』が集まる場所。
そして本来認知できないのは、幻想郷を守る者によってかけられた『博麗大結界』によるものなのだが……。
まさにその大結界を抜けて、俺は今幻想郷の森に立っていた。
だが俺はその結論が出ていた上で、それでも認められなかったのだ。だから俺は分かっていても口にする。
「……あいつらどこ行ったんだ? まああいつらだって馬鹿じゃない、村がある方にいっただろうし、俺も探してみるか。」
静寂の森で俺は一人そう呟き歩き出す。
「何より遭難なら警察に頼る方がいい。餅は餅屋、ってな。」
……もし幻想郷なら、そんな組織ないのに。
全くもって現実を受け止められない自分に、男らしくない思考に、口にするたびにふつふつと怒りをわかす。
元を正せば俺が突っ込んだのが原因だ。あの時、幻であっても現実であっても近づくべきじゃ無かった。無かったはずなんだ。だけど……『昔の光景』が自ずと背中を押していた。
だがやはり早計だろう。まだ決定的な証拠がない今、ここがどちらかなんて––––
「ブオオオオオオ!!」
……前言撤回。俺は背後からのその雄叫びに駆け出した。
それは聞いただけでわかる。明らかに『この世のもの』ではない雄叫びだった。言うなればそれはもう『化け物』だ。
チラッと背後を見ると、それは異形の二足歩行の『妖怪』だった。なんの妖怪か判断はつかなかったが、かなり高い奴だってことは理解できた。
「…馬鹿野郎ッ! 何現実逃避してんだよ俺!!」
武器になるものはない。ワンチャンで投擲物としてスマホがある程度だったが、そもそも物理法則が通じるかわからない。
「…ッ! クソッタレ!!」
そして最悪なことに、進行方向は森を抜け、『湖』だった。
もう逃げ場はなかった。
運がいいのは、それほど早くはなかった妖怪と距離がある程度あったことだが、それもほぼ誤差程度だ。
さて、どうする? 馬鹿野郎な俺は死ぬべきか?
そんな中、脳裏で二人の部活メンバーの顔がよぎる。
「……俺は恥だらけの人生だがよ、」
俺は拳を構え、覚悟を決める。
「…ダチの安否がわからないうちは死なねーし、ゼッテー死なせねーんだよ!!」
「相変わらず、人の身で無茶するんだねネツ。」
パチン、と指のなる音と共に、異形の妖怪は足元からじわじわと『氷ついて』いった。
「ウ、アア……マ、マサ、カ……オマエ、ハ」
どうやら意思疎通ができた妖怪は、俺の前に立った『氷の羽を生やした空色髪の少女』を見て怯え、涙を溜めていた。
「オ、マエ…『レイカ、ノ、アクマ』!!」
「『あたい』の大切な友達なんだ。消えて。」
次の瞬間、その妖怪は氷塊となり、彼女が手を握ると砕け、崩れた。




