『闇と漆黒』
「……遅かったか。」
あたりには先ほどまで戦闘があったのだろう、溶け始めた氷の破片が所々に刺さっている。
冬がまだ来ない今、このような能力を発揮できる存在は一人しか思い当たらない。
分かっていたこととはいえ、こうして未然に防ぐことができない『運命』に俺は舌打ちをする。
そんな折、背後からの気配に気付き振り返る。
その瞬間、その『ちっこい闇』が俺の横をすり抜け、同時に右腕に激痛が襲う。
「……流石に声をかけてくれてもいいんじゃないか、『ルーミア』?」
俺は再び正面を向くと、そこには金髪赤眼の、黒を基調とした服の幼女が俺の右腕を食べ終えたところだった。
「いいじゃないかー? 最近食べてなくてお腹すいてたのだー。……でもあんまり美味しくないのだー。」
「失礼な。食べ物にはちゃんと感謝して食べないとバチが当たるぞ?」
「『妖怪』にバチが当たる? …ハハハ! おかしなこと言うのだー、『如月』!」
相変わらず可愛げのない人喰い妖怪『ルーミア』は笑い平らげた。
「……なあ如月、『氷精』はどこだ?」
「…今来たばかりだ。」
「なんだよ、どうせ知ってるよな? ……まあ、いいけどなー。」
と、ルーミアは何かを感じて俺とは反対の方向を向くと、ニヤリと笑い出した。
「…この札の制約じゃ、『人里の人間』以外は対象じゃないもんな?」
その言葉の意味を理解し、俺は苦笑して意気揚々な妖怪に告げた。
「…お前には無理だよ、少なくとも今『幻想入り』した人間は、な。」
「ほら知ってる。まーいいのだ。」
そしてルーミアの周りを『闇』が覆う。
「自分で見て決めるのだ。邪魔するなよ如月。」
そして闇が晴れた時、ルーミアは忽然と姿を消した。
「……お前じゃ無理だろうよ。」
そんな彼女に俺は、小さくそう呟くのだった。




