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「フィリップ様、そろそろ休憩してお茶になさりませんか?」
「そうだな」
最近は軽く運動をするようになり、夢中になっているとつい時を忘れてしまう。フランはかなりいいタイミングで声をかけてくれる。この広くもないが決して狭くはない屋敷は、フランがほぼ一人で管理している。掃除から備品の管理、屋敷に届く書類の整理まで完璧にこなすし、3食バランスよく彩りに優れた食事を出してくれるし、かなり優秀なやつだと思う。
「本日はホシカというハーブティーです。疲労回復の効果があります。では失礼いたします」
「なぁ、君も少し休まないか」
何故か分からないが、フランと話をしたいという気になって呼び止めた。
「…では、私の分もこちらに持って来させてもらいます」
しばらく考えた後、フランはそう言って自分のハーブティーも持ってきた。
「君はどこ出身なんだ?」
「ソウドです。」
「なぜイレドの、しかもこんな所に来ることになったんだ?」
「私は早くに親が亡くなり、館に仕えている一家に育てられました。大きくなってからは自立し、いろいろな館を転々としてきました。しかしついこの間、育て親から貴方の館で仕えないかと言われてここに来た次第です。」
「お前なら引く手数多だったろうに、こんな所に来てしまうなんて不運だったな」
私は元とはいえ王太子だし、そんな人物の世話役を任せられる人材は少ないだろう。一度来てしまったからにはこのまま問題が起きない限り私が死ぬまで仕えることになるだろうな。
「いえ、フィリップ様も親切ですし、ここでの暮らしは嫌いではありません」
「そうか…」
きっぱりと言い切ったその表情からは嘘か真かは分からなかったが、こんな境遇のフランにはじめは酷い態度を取っていたことをすこし申し訳なく思った。
「では次はこちらの番でもよろしいですよね?私はここに来るまでイレドの情勢についてはよく知らなかったし、貴方のこともほとんど知らないのですが、何があったのかお話し頂けませんか?」
珍しくフランの目が興味深々といったようにらんらんと輝いているような気がする。まぁ、表情は崩れてないから気のせいだと思うが。
普通世話役の立場でこんなことを聞く奴なんていないだろうと思うし、王太子だった頃なら即辞めさせていたが、今は話してもいいし、むしろ聞いてほしいとさえ思っていた。