変化していく関係性
「ん……」
小さく唸りながら、もぞもぞと身体を動かす。
ここは……ベッド?
あたりは明るく、どうやら昼間のようだ。
起床時間からほど遠い時間なのに、どうしてこんなところにいるのだろう?
「やっと目が覚めたね」
どこか安心したかのような声に身体を起こすと、すぐに止められた。
「無理に起きなくていい。君は急に気を失って倒れたんだ。どこか痛むところは?」
ベッドの横の椅子に腰かけていたユーゴの問いに、首を横に振る。
「言われてみれば、だんだんと気が遠くなった記憶があります。倒れてしまったのですね……すみません。あなたが運んでくれたのですか?」
「ああ。平気そうでよかったよ」
ほっと安堵したかのように息を吐く姿に驚き、自分の目が見開かれていくのがわかる。
彼が他人を心配するなど、想像だにしなかったのだ。
だが、彼は眉間にしわを寄せ、不機嫌そうに口を開いた。
「頼むから突然倒れたり大怪我をするようなことはやめてくれ。援助金が打ち切られたらどうしてくれる」
ユーゴの言葉にあきれ返ると同時に、自分の価値がそこにしかないことを再認識する。
結局、私に心など求められてはおらず、この身体は魔力の依り代でしかないのだ。
そう考えながら視線を落とすと、泥がついたままの骨ばった彼の手が小刻みに震えているのが目に入った。
「寒いのですか?」
ベッドからそっと手を伸ばして、彼の手を握る。
やけに冷たい。風邪でもひいたのだろうか。
彼の手は私が触れた瞬間にぴくりと動き、すぐに震えを止めた。
「いや……違う、怖かったんだ。君の顔色が見る間に青白くなって、身体も冷たくなっている気がして。このまま死ぬんじゃないかと思った」
「そうね。私が死んでしまったら、あなたもお金がなくなって困るし、民も竜の封印継続ができずに困るものね」
私の存在価値は、世界を守って死ぬことにこそある。
だから、こんなところで死ぬわけにはいかないのはわかっている。
だけど……
ふ、とため息をついて自嘲気味に笑い、再び口を開いた。
「私にとっては死ななきゃいけない日が早くなっただけだし、そのまま消えてしまったほうが楽だったかもしれな……」
「バカなことを言うのはよしてくれ!」
「え……?」
めずらしく感情をあらわにして大声をあげるユーゴに、身体がびくりと震えた。
草花関係にしか怒りを示さなかった彼が、突然声を荒らげてきたことに驚いたのだ。
「ああ、僕は一体どうしたんだ」
彼も自分の行動に疑問を持ったようで、混乱してしまったかのように頭を抱えて唸っている。
「ユーゴ……?」
「なるほど、そうか、わかった。君に勝手に死なれては、僕が困るんだ。有能な助手をやっと見つけたのだから」
彼は答えを見つけたのか、こくこくと頷き、満足げな笑みを浮かべた。
「有能な助手。そう思っていてくれて、嬉しいわ」
魔力の依り代ではなく、助手として見ていてくれたことに胸が溢れてくる。
優しくてふんわりと温かいこれは、きっと“嬉しい”という気持ち。
ふとユーゴを見やると、彼はなぜか驚いたように目を丸くしている。
彼は、本当に風邪ではないのだろうか。
瞳もどこかぼんやりしていて、熱を出したときのように顔が赤くほてっているようにも見えた。
「ユーゴ、本当に大丈夫?」
「君も……笑うことがあるんだね」
彼は、ボソリと呟くように言う。
「え?」
「いや、なんでもない」
よくわからなくて聞き返したにも関わらず、彼が返答をくれることはない。
普段とはどこか違う様子が不思議で顔を覗きこもうとしたら、ズレたメガネをかけ直したユーゴに、そっぽを向かれてしまったのだった。