24話 最強VS最硬④
【参考資料】M777榴弾砲(155mm)の砲撃訓練時の発射音。
少なくとも生物が出せる音ではなかった。
ズドオンンンッッッッッッッ!!!!!!
「「「「!?」」」」
「「「「いひいっ!?」」」」
「「「「ほひゃんっっ!?」」」」
「「「「うおおぉぉっっ!?」」」」
最も適切に例えるなら爆音、砲撃音。
最強の魔女帝フィオナの力を込めた一撃。
彼女が殴った際に発生した周囲を吹き飛ばすほどの風圧と轟く地鳴りも脅威だったが…………なにより傍観中の他ギルドメンバーの耳を漏れなく劈き、最も驚愕させたのはその殴打音。
「ああ……足の震えがととと……止まらない」
「けけけ……ケントルさん……いい今のって」
「や……やだ……私ったら少し濡らして……」
「こ、鼓膜が……あやうく破れるとこだった」
「あ……あはは……凄い……パンチだったね。流石の私も震えを禁じ得なかったよ……こ、こればかりはすす……すぐに収まりそうにないね」
もう音だけで分かった。
もはや威力など測るまでもない。測定不可。
聞いただけでも十二分に伝わってくる。
そのイかれた攻撃力が――
「フィオナ様……貴方様はどこまで――」
「ええっと……グリフ君? 生きてる?」
「ぼく いま きせきを みたよ?」
「ああダメだ! 棒読みになってる! おーい! グリフ戻ってこい! すげぇ虚ろな目になってるぞ!? 心どころか魂ここにあらずだぞ!?」
大砲の砲撃音、いやもうそれ以上か。
ともかくあまりにデタラメ過ぎた彼女の一発に対して、敵味方問わずに呆気に取られる中。
「う……うふふふ……良いパンチだった……わね♡ さ……流石はフィオナさん……こ……こんな……熱い一撃を受けたのは……初めて……よ♡」
「……やはりな」
二人の勝負は続いていた。
お互いに決めたルールに則っての戦い。
フィオナの一撃を凌げばマッチョマンの勝利。
逆に凌げずに倒れたならマッチョマンの敗北。
「しかし……本当に大したものだな。竜相手にも振るわぬような勢いで殴ったのだが…………流石は筋肉男だ。もっと腹を突き破るぐらいの力で殴るべきだったか」
「う……うふふ……うそ……でしょ? これ以上の……パンチが……まだあるっていうの?」
フィオナは拳を一発だけ振るう。
対しマッチョマンは自慢の腹筋で受ける。
本来ならその腹筋へ殴りつけた拳は当然。
時には武器すらも粉砕。槍ならば刃が砕け、生半可な練度の剣ならば斬りつけた瞬間に根元からへし折れるというとち狂った硬度を誇る腹筋だったのだが…………今回それに向けて躊躇なく拳を振るったフィオナの反応はというと――
「うむ。だが……この期に及んで手を抜いたのは余の失態。もはや其方の後遺症など一切考えずに本気で打ち込むべきだった。流石は心身ともに鍛えぬいた兵と言ったところか」
平常。
拳を痛めたような様子すら見せず。
それどころか嬉しそうな表情で感心し、
「いつ振りだろうか。余の一撃を耐える者を見たのは…………なにせ滅多におらぬからな。まあとにかく其方は耐えた。これが現実だ」
告げた。
この勝負、マッチョマンの勝利だと。
直接口には出さずとも、フィオナは未だ意識を失わない彼?のその信じられないタフネスさに称賛の声をあげて、静かに戦いの幕を下ろそうとしたのだった…………………………しかし?
「うふっ……お褒めの言葉……ありがとう」
――本当の勝敗は。
「でも……残念――」
「うん?」
「うふふ……そうじゃ……ないみたい♡」
ガクンッッ!
ドシャアアァァァァァンッッッッ!!!
「くっ……やっぱり無理だったか」
「「「えっ? ま、マッチョマン様!?」」」
「「「うそ……耐え切ったと思ったのに」」」
マッチョマンの敗北。
倒れた。耐え切れなかった。
身長は200を超え、体重は筋肉だけでも160を優に超える人間離れしたその巨体は崩壊。音をあげ地面に勢いよく衝突。膝から崩れ落ちた。
一見マッチョマンと比べても一回りも二回りも小さい女性。フィオナのたった一撃で――
「うふ……うふふ♡ 本当に……最高の勝負……だったわ♡ まさか……アタシの筋肉が敗れる時が来るなんて……思いもしなかったけど♡」
うつ伏せから仰向けになるのが精一杯。
末端はどうにか動くが、もう起き上がれない。
なにせ彼女の一撃のせいでスタミナは全消費。
「でも……アタシは折れないわ♡ だって……鋼鉄の精神がアタシの座右の銘ですもの♡ まあ……フィオナさんからすれば猿に木登りでしょうけど。強い=必勝とは限らない♡ 問題は挫けないこと♡ 1度や2度負けた程度でアタシは“負けない”わ♡ 今回負けたなら次。次負けたならその次。勝利を掴むまで永遠に諦めない♡」
おかげで仰向け状態のまま。
マッチョマンは満足げに笑みを溢しながらフィオナへ勝利への執着。その持ち前の鋼鉄の精神を証明するような言葉を嬉しそうに向けていき、
「そうか。ふ、ふふふ……あははははは!」
「あんらぁ……笑うなんて酷いわぁん♡ せっかく人様が腹ん中を全てぶちまけてやったっていうのに♡ いくらアタシでも怒っちゃうわよ?」
「あははは……いやぁ、すまぬな。あまりに天晴な心意気だと感心しまったものでな。痛快過ぎて思わず笑ってしまった! まったく……これではどちらが勝者か分からないではないか!?」
「あらあら♡ 嬉しいことを言ってくれるじゃない♡ 勝負に勝って試合に負けたってやつ?」
「ははははっ! 悔しいがそういう事だな! だが次はこうはいかんぞ。今度はもっと強くなって余の前に現れよ! それこそ余が本気。切り札である獲物を使わねば勝てないと危機感を持つほどにな。期待しているぞ」
「うふふ……難しい注文ね……アナタの領域に達するまで果たしてアタシの寿命が持つかどうか……でも努力してみるわ……アナタの全力と真っ向からぶつかり合えるその日を夢見て……ね♡」
「ああ、余もここまで痛快な戦いは久し振りだ。そして其方のような兵と出会えたのは大きな収穫であった!」
発した。
次会う時までもっと強くなってみせると。
フィオナと対等に渡り合える時を目指すと。
そして――
「また……戦いましょう……ね――」
「……ああ。もちろんだ」
フォォォン……と。
マッチョマンは消失した。
子守歌でも聞いた子供のように安らかに、最後の最後まで自分を倒した好敵手の姿を眺め、ゆっくりと目を閉じて意識を失うのだった。
「……マッチョマン」
よって。
「……君はよく頑張った」
決定戦のルールに基づき、ギルド長を失った【スーパーマッチョクラブ】は敗北。
ギルド長敗北の時点で勝敗が決する規則上。
たとえ副ギルド長のケントル・ベルを含めた他メンバーが何人残っていようともお構い無し。頭目を討ち取られた時点で交戦は終了となる。
「……本当によく頑張ったね」
当然それは副ギルド長も承知済み。
勇ましく戦い、華々しく散った相棒を誇りに、
(……また強くなろう。私達と共に――)
一人じゃない。
どこまでも鍛錬に付き合うよ。私は。
だから次は勝とう。必ず……必ずだ。
そうケントルは結果を真正面から受け入れ、マッチョマンの鋼鉄の精神に寄り添うのだった。
……だが?
「そ……そんな」
「マッチョマン様が負けたなんて」
「嘘だ……絶対に勝つって言ってたのに」
「今回こそ優勝できるって思ってたのに」
メンバー内の一部ではまだ自陣の敗北を認められない者がいるのか、
「わ、わたし達も参戦しておけば……」
「優勝して初めて評価される戦いなのに」
「それもこんな予選で……しかもいくら【蒼穹の聖刻団】の元メンバーがいるとはいえ急ごしらえのギルドに負けちまうなんて……話題性が――」
予選であっさりとギルド長を取られ敗北。
そんな観客側からすれば決して輝かしい戦果とは呼べないこの結末に納得がいかず、ざわざわと騒ぎ立て狼狽えていくメンバー達。
新参者なのか。
それとも古参メンバーなのか。
とにかくケントルを除く他メンバーが口々に負け惜しみ。マッチョマンの勝利を信じて疑わっていなかった影響か、思わぬ結果に不平不満を漏らし始めた………………すると。
「み、みんな……無念な気持ちは分かるけど、私達は負けたんだ。だから撤退の準備を――」
「で、でもケントルさん。いくらなんでも」
「こんな結果は流石に…………なあ?」
「「ええ、ちょっと難しいというか」」
「き、君達……」
ケントルが事態の収拾に困る中。
そういった手合いの者に対しては“彼女”が適任だった。
「狼狽えるなっっ!!!」
「「「「「えっ!?」」」」」
「「「「「なっ!?」」」」」
声を荒げたのは戦った張本人フィオナ。
彼女はそう一喝すると、さらに続けた。
「貴様らの大将ミスター・マッチョマンは実によく戦った! 結果はどうであれ、彼奴は後悔も負け惜しみも一切口にせず己を貫き通した! 敗北は終わりではない! 成長だ! 永遠の勝利など絵空事! 肝心なのは敗北から何を学びどう立ちあがるか! それを彼奴は見事に体現した! だから大いに喜ぶがよい! 貴様らのギルドは今以上にさらに強くなるっ!」
「「「「つっ!?」」」」
「「は、敗北は終わりじゃない? 成長?」」
「「「敗北から何を学ぶ……のか?」」」
「そうだ! そして彼奴はその方法をよく知っている。確かに今は失望されるかもしれん。だが成長とは期待を生む。よって貴様らが一丸となって成長すれば、今失った者達を再び滾らせるなど造作も無い! だからこそ学べ! この敗北の屈辱を! そして強くなれ! この魔女帝フィオナを完膚なきまで叩き潰せるようにな!」
「「………………そっか」」
「「強く。強くなればいいんだ」」
「「マッチョマンさんと同じように……」」
「「自分達も引けを取らないくらいに……」」
彼らがいちいち気にする魔法石の向こう側にも含めてなのか。そうフィオナはマッチョマンの誉れ高き姿勢を称え、今後を期待させる発言を向けて他メンバー全員を諫めるのだった。
「……ありがとう、フィオナさん。おかげで赤っ恥をかかなくて済みました」
「礼には及ばん。むしろその労いの言葉は奴にかけてやれ。それが相応しい」
こうして。
「さあ、待たせたな。余の1対1で戦いたいという身勝手な願いを叶えてくれたことを感謝する」
「ったく、一瞬はどうなるかと思ったよ」
「ヒヤヒヤしてずっと目が離せませんでした」
「はっはっは、それは悪かった。さあ小僧も何かあるならば言うが良い! 余を信頼しワガママを通してくれたのだ。罵るなり好きにせよ!」
「えっ? ああ……それじゃあ一つだけ」
「うむ! ドンと来るが良い!」
【新生・蒼穹の聖刻団】撃破数51
【スーパーマッチョクラブ】撃破数0。
「その、お前でも“負けた事”ってあるのか?」
「……………………………………」
「あっ……いや、何でもない! 今の質問は忘れてくれ。そうだよな。お前みたいな奴が負けるなんてあり得ないよな! 冗談だ冗談! さあ気を取り直して再開しようぜ! どうせお前の事だ。まだ他のギルドと戦いたいんだろ?」
「ふふ……そうだな」
「だ……だよな! よし! エルーナ、セリカ。もうほぼ決勝戦進出は確定しているけど、次の対戦相手を探しに行くぞ! 準備してくれ!」
「はいはい。今度は活躍出来る事を信じるぜ」
「実質、フィオナ様の独壇場ですからね……」
そうスーパーマッチョクラブの撃破数が加算され過半数を超えたことで安全圏。たとえ時間切れになっても決勝戦へ進出出来るグリフ達だったが、最大の功労者であるフィオナの意向により、
「小僧……先の問いの答えだが。少し時間をくれるか。少なくとも今この場で軽々しく答えられるような話ではないのでな。いずれ【その時】が来れば貴様に打ち明けよう。それでも良いか?」
「…………分かった」
ただ座して待つのは性に合わない。
戦えるのであれば最後まで戦い尽くしたいという彼女の意思を優先し、グリフ達一行は新たなライバルとの出会いを求め移動。引き続きバトルモーティア島中を巡ることにするのだった。
フィオナに対する疑問を残しながら――




