20話 最強VS最硬②
筋肉だった。
【スーパーマッチョクラブ】
それは“意思があれば誰でも強くなれる”を座右の銘とした超が付く強豪ギルド。また界隈内でもかなり異質なギルドとして名が通っており、その要因として特筆すべき点は大きく2つ。
一つ目は加入のしやすさ。
大半のギルドはメンバーに信頼のおける人物。もしくは実力などを見込んでスカウトした者が加わるのが大半だが、このスーパーマッチョクラブに至ってはいわば“自由加入”。
強くなりたい。
誰かを守れるようになりたい。
自分の身くらいは守れるようになりたい。
そんな意思や覚悟が確認出来れば即加入。
実力やその他の理由など一切問わない。ただ力を渇望する気持ちがあれば無条件で加入できる。
また離脱する際も同様に自由に脱退可能。
日々のトレーニングに付いて行けなくなった。クエストが怖くなった。他ギルドから勧誘されたなどなど余程の理由でない限りは個人の意思を尊重。まさしく“来る者を拒まず、去る者を追わず”を地で行くスタイルが特徴だった。
そのため。
「グリフ様……なんだか向こうのメンバー数がおかしいように見えるんですけど。ここから軽く見えるだけでも30人はいるような気が――」
「ああ、昔から自由加入で有名ギルドだったからな。これくらいは普通だぜセリカ。でも安心しな、大半は修行の一環として参加しているだけで戦闘振りを見るのが役割だ。そうだろ?」
「うふぅん♡ 流石はグリフちゃんね♡ ウチの事をよく分かっているじゃない。そうよ、後ろのこの子達の多くは新入り。加入直後の厳しいトレーニングを耐え抜いた子達なの。それでもっていい機会だから戦いを観察させようと思って連れてきたってワケ♡ だから安心して金髪のお嬢さん。実際に戦うのはほんの一握りだ・か・ら♡」
セリカが疑問を浮かべたように。
通常ギルドメンバーは多くても10人ほどだが、彼らに至っては別次元。加入条件自体が緩く人気もあるためかその総数は軽く100を超え、また同じくその点が知名度に拍車をかけていた。
――そうして。
「さぁてと♡ 前置きや雑談はこれ位にして、そろそろ本題へ移りましょうか♡」
二つ目。
最後はこのスーパーマッチョクラブを語る要素として、彼?の存在が不可欠だった。
「本題?」
「ええ、戦う前にどうしてもやっておきたい事があってね。そちらの美人さん、確かフィオナさんと言ったかしらぁ? さっきの大立ち回り見事だったわあ♡ もう惚れ惚れしちゃうほどに♡」
「ほぉ? 余に何か用か?」
ギルド長。
その名もミスター・マッチョマン。
彼の存在こそが異質そのものだった。
証明としてその口調・外見が何よりの証拠。
「ええ、そうよ♡ なにしろいくら実力の及ばないライバル相手だったとはいえ、あれだけの数を瞬殺するなんて。それも飛び道具や魔法すらも無傷で凌ぐなんて痺れたわぁん♡ アタシ達もここに来るまで幾つかのギルドをつまみ食いしてきたけど、どいつもこいつも弱くって……」
まず口調。
いわゆるオネェ口調と云うべきなのか。
声自体は立派な男性のそれなのだが、語尾がやたらと耳に残るねっとりとした話し方。もしこの話し方で背後から声をかけられようものなら鳥肌必至。全身の毛が一斉に逆立つことだろう。
「でも……アナタは全然違うわぁ♡ なにしろ強いもの。それに戦い方も魅力的だったわぁん♡ そこいらの小生意気な連中と違って、アナタは相手をわざと煽って全力で向かうように仕向けた。そんなの中々出来る事じゃないわよぉん♡」
「はっはっは。それは買いかぶり過ぎだ。余はただ血が滾るような戦いをしたいだけだ。ならば相手も本気にさせねばならぬ。でなければ互いに悔いが残る。それに全力を出して負けたのであれば、次はもっと鍛錬するだろう? 真の強さとはそうした敗北に打ち勝つ事で鍛えられるものだ」
「うぅん♡ 素晴らしいっ! 実に素晴らしい考え方だわぁん! やっぱりアナタに目を付けて正解♡ もう惚れ惚れしてイっちゃいそうぅ♡」
そして……彼?最大の特徴。
その肝となる外見はというと――
「ミスター。興奮中に悪いんだけど本題へ話を戻そう。でないと他のライバル達がここに来て妨害されるかもしれないよ? それでも良いのかい」
「あんらぁ……そうだったわねぇ♡ ごめんねケントルちゃん♡ アナタの言う通りだったわぁ♡ 普段ならこのままフィオナさんと強さとは何かについて語り明かすのもアリだけど、なにせ今はイベントの真っ只中♡ 肝心の本題へ移るわね♡」
四文字で纏めるなら【筋肉兵器】。
「フィオナさん。単刀直入に言うわ。この戦いが終わったら指南役としてアタシ達のギルドに加わらない? 好待遇で迎えるわよ。好きなだけ報酬を望んでちょうだい♡ お応えするから♡」
「んなっ!?」
「おいおい……ヘッドハンティングかよ!?」
「確かにフィオナ様はお強いですからね……」
もともとこの格好だったのか。
それとも、どこかで脱ぎ捨てたのか。
今その色黒の褐色肌を包むは黒のブーメランパンツ一丁のみ。よって股間部を除くその他全身は丸見え。さらにその肉体から確認出来るのは例を見ないような圧倒的ムキムキ感。
どこを見渡しても“筋肉の塊”。
首から足までもれなく筋肉・筋肉・筋肉。
副ギルド長のケントル・ベルも大概だが、その筋肉比率では彼とは比較にならないレベル。
またその鍛えっぷりについても表現するなら、生物が鍛えられる筋肉の限界。トレーニングの臨界点とでも言い表せば良いのか………………。
「ええ、そうよ♡ グリフちゃんやエルーナには悪いけど。だって……彼女、ただ強いだけじゃなくて、こんなにも美しいうえに威厳まで兼ね備えているなんてなんてもう反則っ! 反則の塊! だからこぉんな伝説級の逸材を放っておくのは眼ん玉の腐ったおバカさんだけ♡ 普通に考えたら誰だって勧誘したくなっちゃうわよ♡」
むしろ筋肉が人の形を成したというべきか。
タマゴが先かニワトリが先かの問答の如く。このミスター・マッチョマンの場合は“筋肉が先か”“人間が先か”どちらが先に生命を宿したのか問い詰めたくなる程の筋骨隆々ぶり。
「うむ……指南役をするだけで好きなだけ報酬を貰えるとは。ということは、毎日ケーキやパイなど甘い物を好きなだけ食べても怒られないのか?」
「ええ、もちろんよ♡」
「発想が子供!?」
「なんというか……フィオナさんらしいですね」
「そういや飛空艇でもたらふく食べてたな……」
「ええ、食費は一切気にしなくていいわぁ♡ た・だ・し、その美しい体型は維持してもらう必要があるけれどね♡ 他にも入用の物があるなら言って。なんでも提供するわ♡ どうどう? 決して悪い話じゃないと思うけど?」
「ふふっ、確かにな。まだ初対面だというのにいきなりの高評価と好待遇での勧誘。きっと、どんな者であっても揺らいでしまうだろう……」
「でしょでしょ♡ さあ返事を聞かせて♡」
筋肉が服着て歩いている。
この言葉が的確なまさしく“筋肉男”。
本当の名前については誰も知らないが、そんな大仰な名称を語るに相応しい肉体。同時に色々と異質な点も目立つが確かな実力を持ち合わせるのが、このミスター・マッチョマンという人物だった。
――そうして現在。
「おい……ま、まさか――」
「グリフ様! これは非常にまずいです! どうにかして早くフィオナ様を引き止めないと!」
「グリフ、こうなったら手段を選んでいる場合じゃない! 背後から抱きつけ! そしてこう言うんだ! 『俺にはお前が必要だ! 毎日お前のこのおっぱいを見ないと死んじまう』ってな!」
「よしっ! って出来るかぁぁぁっ! 余計に離れるわ! そんなセクハラ発言かましたらむしろ余計にギルドから出ていきたくなるわっ!」
「えぇ……良い策だと思ったんだけど。ぶっちゃけ、私ならグリフにそう言われたら留まるけど」
「自分の常識を疑って!?」
「うふふ♡ ちょっと、グリフちゃん達ぃ? 気持ちは分かるけど……少し静かにしてもらえるかしらぁん? 見ての通り大切な交渉中なの。それを寒い三文芝居で水を差すのはダ・メ・よ? さぁフィオナさん。貴方のお返事頂けるかしら♡」
絶賛スカウト中。
フィオナの無双振り。その心意気に惚れ込んだのかマッチョマンは彼女を言葉巧みに勧誘。言い値の報酬を条件に熱心に話を進めていき、後は返答を待つのみとなった。
すると肝心のフィオナの返答は――
「悪いが、この話断らせてもらう」
「「「えっ?」」」
あっさりと拒否。
発言上では揺らぐどうこう口にしてはいたが、特に悩む様子も見せずにフィオナはマッチョマンの勧誘をあっさりと蹴ったのであった…………。
「……理由を聞かせてもらえるかしら?」
「なに、簡単な話だ。元より余が仕える者はそこの小僧一人と決めている。だからどれほど魅力的な好条件を提示されても余は一切靡かぬ。余の身は小僧の所有物なのだ。余の一存で離れぬなどあり得ない」
「あらぁ。それはざんねん♡ では交渉は決裂ってことで♡ じゃあ遠慮なく――」
よって。交渉成立せず。
マッチョマンが次に取った行動は、
「ふふ……うふふふふふ」
グググググググ……。
ミキミキミキ……メキメキッ!
「ほぉ? 確かに今までの連中とは別格のようだ。宿す気配や魔力がまるで違うな。戦う前からこれ程の強さを余に感じさせるとは……流石は小僧が警戒していたギルドの頭目だけはあるらしい」
「うふふ……お褒めの言葉ありがとう♡ ケントルちゃんっ♡ 悪いけど、手出し無用でお願いね♡ 彼女とは全力で戦いたいから♡」
込める。
力を。筋肉を。
力む音がハッキリと聞こえるほど、
「うん、分かった。君に任せるよ。その代わり私達の分まで力の限り戦ってきてくれ。スーパーマッチョクラブの代表として恥じない戦いをね!」
「うぅぅん♡ 流石はケントルちゃん♡ アタシの一番弟子なだけあるわ! ありがとう! ちなみに他の子達もお願いね♡ このフィオナさんとの戦い……きっと私の生涯に残る激闘になるわ。だから横槍無しに正面からぶつかりたい♡ そんな私のワガママ……聞いてくれるかしら?」
「「ふふ。そんなの今更な質問でしょう!」」
「「マッチョマン様! 見守っています!」」
「「ド派手な戦いを楽しみにしています!」」
メキリメキリと浮き上がる。
黒い超筋肉の上に幾つも太い血管が。
「うんうん♡ ありがとうっっ! それじゃあ……始めましょうか。フィオナさん♡」
「うむ。余も待ちくたびれていたところだ」
鉄球の如き両拳を天高く構え戦闘態勢に移行。
なにしろ相手は最強の魔女帝。半端な力で挑めば容易く返り討ちに遭ってしまう。
そうマッチョマンはその暴力的な自前のムキムキボディに流れる全ての細胞・魔力を漲らせ、
「い゛く゛そ゛っ! コ゛ル゛ル゛アァァァァァァ!」
挑戦……そして開戦。
【スーパーマッチョクラブ】ギルド長。
ミスター・マッチョマンは未知なる実力者。
魔女帝フィオナ・スカーサハへ先程までとまるで違う荒々しい口調で戦いを挑むのだった。
己の生涯で最高の戦いになると信じて――




