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18話 観戦者


【大噴水広場】



 コロシアムと同じく。



「おお! ついに始まったぜっ!」

「この時をどれだけ待ちわびていた事か」


「前の時は仕事で観れなかったんだよ……」

「今回こそは絶対に優勝ギルドを当ててやる!」


「前回の時もすごかったなぁ……」

「余っている金を全部つぎ込んだんだ! たとえどんな結果になろうとも最後まで見届けるぜ!」


「こればかりは年甲斐もなく滾ってしまうのう」

「しっかりと戦い方の勉強させてもらうぜ!」



 王女リーゼロッテの開会宣言直後。

 国中のどこもがこぞって賑わっていた。



「パパ! ぼくも見たい! 肩車して!」


「おお、お前もついに戦いに興味を持つ年頃になったか! よしっ! それなら父さんと一緒に楽しもう! ただし……賭け事しているのだけはママには内緒だぞ。父さん怒られちゃうからな」


「うん! ママの財布から勝手にお金抜いて、男らしく全賭けしたなんて絶対に言わないよ!」


「よし。帰りにキャンディー買ってやる」



 特に巨大魔法石が設置されている各所。

 今もなおぞくぞくと老若男女含めて集合中。中にはコロシアムへの入場券の抽選にあぶれた。どうやっても入場券を手に出来なかった。さらには入場券関係なく、家族と共にのんびりと観たいなどなど様々な理由で集まってきているが、その理由は全員共通。



「ワッハッハ! しかしまだまだ序の口だな!」


「ええ、兄貴の仰る通り! 初めは前哨戦。参加ギルドの中でも格付けされますからね。弱いギルドが先に潰れていく。見所はその後ですね!」


「そうだ! このイベントはまさに弱肉強食! 肝心なのはお前の言った通り後半! 強者同士の肉の喰らい合いが最高なんだよ! まあ時々序盤から強者同士がぶつかり合う事もあるがな」


「その辺も予想不可なのが醍醐味ですよね!」


 とにかく観戦するため。

 集まった誰もが魔法石の映像にかぶりつき。

 複数の魔法石から映される戦場中の様子に全意識を集中させていた。さらには。



「くそ、今年こそは参加出来ると思ったのに」

「まだまだ強さが足りないって事なのかしら」


「地元の皆にどんな顔して帰ればいいのやら」

「やはり参加枠に入るのは困難を極めるか」


「畜生! メタルゴーレムの試験さえ無ければ!」

「他の試験なら今ごろ参加出来ていたかも……」




 今回参加出来なかったギルド達も混じり観戦。


 参加総数100という予め決められた枠組みから外され、開催前日に落選通知が届いた彼ら彼女らもまた同じく観戦。次回こそは出てやるという決意のもと、口々に己の悲運や愚痴を溢しながらライバル達の戦いぶりを観察していく。




 ――と、そんな中で。




「あいよ、お待ちどうさん! このグランディア―ナ名物。暴れ闘牛ブルホーンの肉をふんだんに使った特製サンドイッチだ! ちと辛いから、このドリンク飲みながら食った方が旨いぜ!」



「はいはい……分かったよ。えっとドリンク入れて600Gってとこか。ほらよ。確認してくれ」



「まいどあり! お互いに楽しもうぜ!」




 猿の亜人である彼。

 ケリー・アルヴィスもその広場にいた。




「ムグムグ……うーん、60点ってとこか。肉の味付けが辛いだけでまだまだだな。まあドリンクの方は旨いし、無くなったらおかわりするか」



 いつもなら魔法石の向こう側。

 仲間達と共に離島バトルモーティアで前衛特化の【上級戦士(バトルマスター)】として武器を振るい、勢いよく格下ギルドを倒していた筈だったが…………。




「いけぇぇぇぇぇ!! そこだぁぁぁ!」

「ああもう! なんで魔法を打たない!?」

「そうだ! 今こそ一網打尽のチャンスだ!」

「くそっ! 良いとこで映像が変わりやがる!」

「負けるな! お前らに1万つぎ込んでんだ!」




「おーおー、どいつもこいつも相変わらずスゲェ熱気で見てやがるなぁ。たまに平穏に生きたいとか、争いなんて不毛とかぬかす奴がいるけど、そういう奴に限ってこういう正式な戦いの場になると案外一番盛り上がったりするんだよな」



 今回は観戦者側。

 純粋に好きなギルドを応援する者。はたまた自身の賭け金とギルド名を記した賭博券を握り熱狂する観客達の姿に、ケリーは呆れるように独り言を呟きながら傍観。



「さあてと、俺もどこにしようかな。魔法石周辺は人が多すぎるからな…………おっ?」



 そのまま見晴らしの良いベンチへ。

 絶好の売り時と判断してなのか、観客達の胃袋を逃すまいと闘志を燃やしていた屋台から買った朝食とドリンク両手に段差をいくつか上がると、



「おう爺さん。悪いけど隣――」



「うおおおおおおっっ! 勝てぇぇぇぇっっ! 勝つんじゃああぁぁ! ワシの推しギルド【キュート&セクシー】は最強じゃああぁぁ! その色香で軟弱な男どもを魅了するんじゃあああ!」



「ああダメだ。コイツも聞いちゃいねぇや。ま、いっか。騒がしいけど他に空いてるベンチも無いし、ここで観戦しようっと」



 映る美少女ギルドへ激しいエールを送る隣人。

 年甲斐も無く目を血走らせ絶賛興奮中のその老人にどん引きしつつも、ケリーは邪魔しないようにと静かにベンチに腰を下ろした。そうして。



(さあてと、それじゃあ楽しみに観させてもらうぜ……俺達のいないたった三人なんかでどうやって強豪ギルドを倒すのか。まあ、せいぜい【閃撃の戦士団】とか優勝候補の【スーパーマッチョクラブ】辺りに負けるのがオチだろうけど)



 他の観客同様。

 ケリーもまたピリ辛のサンドイッチを頬張りながら、自分の目的の為に最強ギルド決定戦を観戦し始めるのだった。



 全ては胸中のモヤモヤを拭う為。

 かつての古巣【煌々たる銀翼】ギルドの惨敗を祈って。



ここまで読んでくださりありがとうございます。

次回からはついに戦闘パートに入りますので、またお時間の余裕のある時に読みに来て頂ければ幸いです。

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