8話 腕試し ①
以下がそのクエスト内容だった。
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《クエスト名》火炎魔竜を撃退せよっ!
《難易度》★★★★★★★★★★☆☆
《成功条件》火炎魔竜サラマンダーの撃退。
《成功報酬》500,000G(※ただし討伐に成功した場合は1,000,000G+追加報酬)
《クエスト概要》大変だ大変だ! とんでもねぇ化け物がウチ含めた周辺の町や村々の家畜を次々と襲ってきやがる! 誰でもいい! どっかの火山から飛んできたあの凶暴な【火炎魔竜サラマンダー】を撃退してくれ! 報酬は弾むから!
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そして……賢者グリフは思った。
「なんでこんな難関クエスト受けたんだろ……」
ふと我に返り、今回受注したクエストの詳細と地図が記された羊皮紙片手にぼやく。
いくら自分の隣を意気揚々に歩いている召喚者の女性フィオナを試すためとはいえ、己の力に絶対の自信を持つ彼女の口車に易々と乗ったことに後悔していた。
「小僧よどうした? 貴様さっきから文句ばかりではないか。どんな強敵が待っているのか知らんが、余に任せておけば大丈夫と言っただろう!」
変わってフィオナは後ろ向きなグリフとは違い、男性顔負けの潔さと自信に満ちた表情で力強くさらに歩を進める。
よりにもよって対象がただでさえ狂暴なドラゴン系に加え、さらに並大抵の冒険者では歯が立たないとされている【火炎魔竜サラマンダー】だというのに……。
「お前……魔竜の怖さ知らないからそんな事言ってんだろ? ヤバいんだぞ! 俺達が今から戦うこの火炎魔竜サラマンダーっていう奴は!」
逆にグリフは、呑気そうに道中の景色に目をやるフィオナへ少しでも緊張感を持たせるべく、
「まず注意すべきは灼熱の息だ。火炎魔竜って名前どおりその辺のドラゴンとは違って、アイツの吐く光線みたいな真っ赤な吐息技は命中した相手の体を一瞬で灰に――」
自分が知る知識を連ねていく。
大きさ。見た目。どんな技が危ないか。
過去にどれ程の冒険者が敗れたかなど。
「それから高報酬の理由だけど――」
他にも豆知識。
強くて倒せない=素材が市場に出回らないという点から、その燃え盛る特殊な鱗や柱のような立派な骨。強大な魔力の結晶である竜瞳。また槍の刃部分の材料などに用いられる鋭牙と、いずれも高値で取引されるという特徴。
さらに肉の味についてもピリ辛で絶品とまさに捨てる所が無いという細かい点に至るまでフィオナへ向けて一気に説明した……………………すると?
「なるほど、中々に興味深い教示であった。流石は余の主人だな。称賛に値するぞ」
「……な、なんだよ。やけに素直だな。でも今さら褒めた所でクエストの変更は出来ないぞ! お前にはこれからそんな狂暴な奴と戦ってもらうんだからな! 謝ったって駄目だぞ!」
思いがけない唐突なフィオナの褒め言葉に不意を突かれたのか、グリフは頬を赤くしつつ、照れ隠しと言わんばかりに彼女に強気な脅しを向けていく。
「あっはっはっは! 安心せよ。余はそんな下らぬ真似はせん! 元よりこれは主人である貴様が余の強さを測る為に取り計らった試験だ! よって全身全霊を持って魔竜へ挑もう!」
「あっ……そうですか。分かりました」
しかし、あっさりと弾かれ撃沈。
対しフィオナは立派な鈎柄を備えた大鎌状の武器を軽く振ると、グリフに実力試験への意気込みを伝えるのだった。
そして……それを聞いているグリフまで安心させるような自信たっぷりの笑い声をあげ、場の空気が若干和んだかのように思われた――
「それよりも小僧。一つ気になったんだが」
「なんだよ? 気になった事って」
次の瞬間。
「さっきのクエスト受注所で酒盛り中だった男衆の発した【追放】とはどういう意味だ?」
「なっ……………………」
思わずグリフの足が止まった。
なぜならそれはグリフにとって最悪の質問。
仮に自分は無能すぎてギルドから追放されたと打ち明ければ確実に馬鹿にされると危惧し、あえて黙っていた急所を突かれたから。
「その単語が出た途端だ。貴様がどこか浮かない顔をしたように余には見えたのだが――」
(ぐっ……こいつ、妙な所に気付きやがって)
だが同時にグリフは考える。
もしもフィオナへ適当な言葉を立て並べ、この場をうまく凌げたとしても戦闘が始まればすぐに自分の役立たずっぷりがあっさりと露呈する。
賢者という魔法のエキスパート職に就いている癖に初級魔法しか扱えないという情けない体たらく振りに呆れられるのが目に浮かんでくる。
(つまり、黙っても同じってワケか……くそ)
まさにグリフが考えた通りだった。
結局はどう足掻いたとしてもフィオナに己の弱さがバレるのは先か後かの違いしかなかった。
(よし……こうなったら)
ならばこそ。
グリフが取った行動は――
「……無能な賢者だったから追放されたんだよ。いつまで経っても小さな炎の玉とか、申し訳程度の氷結魔法しか扱えない俺は見限られた。それで仲間達からは役立たずの烙印を押されて、古巣を追い出されて今に至るってことだ」
隠しても無駄だと。
正直にフィオナへ告げた。
「…………そうか。それで貴様は余を――」
「そうさ。だから俺はお前の力を借りる為にこの世界に召喚したんだ。今の俺一人の状態じゃあダンジョンに潜っての探索すら出来ないからな。まったく……主人として情けねぇ話だろ?」
もうこの際だから全部ぶちまけてしまえと自虐も織り交ぜながら、彼は召喚者フィオナへ向けて胸中を次々に打ち明けていった。
何と言われようと知るか。
笑いたければ好きなだけ笑え。
見下したければ好きなだけ見下せ。
発言の途中からグリフはそう吹っ切れたように淡々と進めていくと、誰でも嘲笑いたくなる話を聞かせたフィオナの反応を待った………………ところが。
「……そうか」
肝心の彼女の反応は――
「小僧。一つ良い事を教えてやろう」
「……良い事?」
決して嗤わなかった。
むしろ無能さを嘲笑うどころかグリフの方へ足を戻すと逆に、
「断言する。余の召喚は誰にでも出来るわけではないのだ。まずは余の召喚時、触媒に使ったというあの古びた石板についても記された文字の解読然り。必要な材料を揃えるに至ってもそうだ。さらに付け足すなら消費する魔力の量についても――」
「誰にでも……出来るわけじゃない?」
どういう風の吹き回しだったのか。
召喚されてより今までグリフの事を小僧小僧と小馬鹿にしていたフィオナだったが、この場に限り彼を苛立たせるような発言は決してしなかった。
いや、それどころか――
「つまり、余を召喚できる人間は“選ばれた才を持った者”に限られるという意味だ。だからあまり己を卑下し過ぎるな。余の召喚に成功しただけでも大した功績であると自信を持つがよい」
その功績を素直に褒めた。
自分を異世界から呼び出す為にかけた労力や蓄えた知識。儀式に費やした魔力は決して無駄ではなかったとフィオナは主人であるグリフへ自信を持たせるべく告げるのだった。
「えっ……それってどういう――」
「さあ小僧。そんなわけだ。とにかく弱音を吐いてないで早く件の魔竜の元へ行くぞ! このまま平原を歩いているだけでは腕がなまってしまうからな!」
「あっ! おい待てよ! なんだかよく分からんが勝手に一人で乗り込もうとすんなって! せめて灼熱の息の対策くらいは考えていかないと!」
残念ながらもう一度その称賛の声を聞く事は叶わなかったが――




