8話 新生
『新生・蒼穹の聖刻団』
結局グリフ達のギルド名はそれに決まった。
非常に安直。グリフとエルーナが過去に所属していた“蒼穹の聖刻団”に新生を付けただけとなったのだが、別段これ以外のアイデアは出ず。
また、かつてそのギルドから追放されたグリフからすれば色々と複雑な気持ちを抱かざるを得なかったが、結成から間も無いギルドであれば再度申請することでギルド名の変更が可能という仕様を生かし一時的だが満場一致で決定。
「あらあら。面白い女性がいらっしゃいますね」
「あははは。いやはや賑やかなものですなぁ」
「もしや飛空艇は初めての方なのですかな?」
ギルド長の決定。
ギルド名の決定。
そんな申請時の書類に必要な項目を決めた後、グリフ一行は申請所へ赴き晴れて結成。
「まさか! 子供ならまだしも今どき飛空艇の一つも乗った事のない御人などいるわけ無いでしょう!?」
「ましてや聞くところによりますと、あの方達は冒険者の一団とのことです。ならばなおさらクエストなどで乗った事はあるでしょうに……」
「ふむ……では何故あの“赤紫色の髪の女性”は、あんなにはしゃいでおいでなのでしょう?」
「「さあ?」」
結成認可後、矢継ぎ早にグリフ達はエルーナの案内の元。
今回の目的である最強ギルド決定戦開催の地【グランディアーナ王国】行きの便。日々多くの人々を運ぶ“飛空艇”へ搭乗し、あとは静かに目的地への到着を待つのみだったのだが……。
「うおおおおおおおおぉぉ! 小僧! 空だ! 余は空を飛んでいるぞ! それに見るがよい! さっきの乗り場の人間がまるで豆粒のようではないか! 素晴らしい! この飛空艇という乗り物は実に素晴らしい発明品だな!?」
「あ……はい、そうですね。すごいですね」
――興奮の嵐だった。
「ふふふ。フィオナ様ってば離陸してからずっとあの調子なんですから。子供みたいですね」
「…………恥ずかしいから即刻止めてほしいんですけど。貸し切りとかならまだしも、他の乗客からもガン見されてるし。ほら、特にあの辺なんか俺達と同じ参加者だぜ? あとで変な噂でも立てられたらどうすんだよ? 洒落になんねぇよ」
「おーい! 貴様達もこっちへ来るがよい! 余と共にこの大空の旅を楽しもうではないか!」
純粋無垢。
いつもは落ち着いた物腰のフィオナだが、事ここに至っては例外。初見の物、特に自分の常識を打ち砕く新感覚との遭遇に対しては大興奮。
「グリフ様。呼ばれてますよ」
「勘弁してくれよ。俺まで同類だと思われるじゃねぇか。飛空艇なんかこれまでに何回も乗った事あるのに。別に物珍しくもないだろうが――」
その時の彼女はセリカの言葉通りまさに子供。
グリフに召喚される前。フィオナが元いた世界には空を飛ぶ手段が無かったのか、こうして未知の領域に足を踏み入れた体験に心躍らせる。
「むむ!? あれはもしや……我らの住んでいるメザーネの町ではないか!? ほら小僧! あれだ! あの町だ! ほらほら、特別に余の双眼鏡を貸してやろう! 見たらすぐに返すのだぞ!」
まずは視界。青空と雲。
これまでは手は伸ばせても届かなかった存在。
けれども今では至近距離。掴めずとも目前いっぱいに広がっており、雲に関しても高度をもう少し上げれば届きそうな距離まで迫ってきている。
「いらねぇよ。知ってるよ。ってか首都バトラント付近にある町なんだから、離陸後に見えても不思議じゃないだろうが。頼むから後々の噂とかも考えて今は大人しく――」
「うおおおおおおおおおおぉぉぉぉっっっ! 小僧小僧! 今の! 今の見たか!? 今一瞬だけあの大きな湖の中に馬鹿でかい魚影が――」
「聞いて!? せめて耳を傾けて!?」
次に響く音。轟々と巨大な機体が空を切る音。
他にも浮力として重要な役割を担う船体のプロペラが大小問わずビュンビュンと回転する音。
これもまたフィオナの興奮を増していく要因。
「うーむ。次はあの一風変わった町を見たいのだが……このまま進むと船体の下になってしまうな。はてさて、どう見れば良いものだろうか」
そして風。爽やかで涼しげな風。
陸地特有の土の香りや草独特の青臭さ。また森などで香る木々や葉の香りが混じる風とは別物。
何も無いからこその透き通った心地良い風。
「そうか! 余が船の表面を這ってそのまま船底にへばりつくように移動すれば良いだけ――」
「止めろ! 自殺する気かお前は!?」
「いくらフィオナ様でもこの高さは――」
「ふっふっふ。大丈夫だ安心せよ。もし落ちたとしても猫の如く華麗に着地してみせよう。予めこんな時のために猫の知識を付けておいたのだ!」
「それ多分肉球いると思うんですけど!? どうやって着地時の衝撃殺すんだよ!? 体の構造的に不可能なんですが!? ってかそれ以前に猫でもこの高さ死ぬわ! ミンチになっちまうわ! お前はもっと常識を学んで来い!」
「むむぅ……だが前に修行で“断崖絶壁”から頭から飛び降りても全くの無傷だったんだが――」
「「化け物!?」」
常識外れ。奇想天外。
フィオナならではの規格外過ぎる発言が次々と発しながらも、当人はいくつもの新感覚を五感全てで捉え飛空艇の旅を続けて満喫するのだった。
すると、そんな時。
「どうしたどうした。私がいない間に随分と賑やかじゃないか。なんか周りのギルド連中も笑ってるみたいなんだけど…………何かあったの?」
「フィオナが投身自殺したいって」
「でも飛び降りても無傷だから死なないと」
「どういうことっ!?」
情報集めに広い船内を巡っていたエルーナが帰還。
だが直後にあまりに脈絡の無いグリフとセリカの意味不明な言動に困惑。寝耳に水どころか溶岩でも流しこまれた様に目を丸くする。
「それでどうだった? 何かめぼしい情報は――」
「ああ、あったぜ。前回の時もそうだったが、やっぱり今回も腕っぷしに自信のあるギルドが多い。有名どころだと耐久特化の【深樹の魔法士団】。自作の強力な武具で戦う【ヘパイストスの鍛冶屋】。鍛えた肉体を主流に戦う【スーパーマッチョクラブ】とかだな。いずれも前回私達が煮え湯を飲まされたギルド連中だ」
「うわあ……出たよスーパーマッチョクラブ。名前ふざけてるくせに戦うとメッチャ苦戦したんだよな。中でもあのムキムキギルド長の体当たりなんて鋼鉄の盾ですら粉々だったからな……アレ絶対に人間の域を超えちゃってるよ」
まずは参加ギルド。
顔の広いエルーナならではなのか。ほんの半時間と経たぬ内に情報屋顔負けの量を仕入れてきた彼女はそうグリフ達に伝えていく。
どのような巡り合わせになるか不明だが、いざ鉢合わせすれば厄介極まりないと予想出来る強豪ギルドの名前をいくつか挙げていき――。
そうして。
「で、本題だ。私も気になっていた例の【優勝賞品】の正体についてなんだけど…………」
「……待ってたぜ」
「うむ。早速聞かせてもらおう」
「エルーナ様、お願い致します」
「ああ、ただしあくまで触れ回っている噂だ。確証はないからもし違っていた場合は勘弁な」
エルーナは続けた。
広告紙にも記載がある優勝賞品。
願いが叶うという【望みの力】について。
「分かった。それで?」
「うん、どうやら本当らしい。詳しい時期まで掴めなかったがグランディア―ナ国領内の離島に突如出現したんだと。例の【望みの魔宮】が――」
「そうか……やっぱりか」
「よもや、またその名を耳にするとはな」
「エルーナ様の予想通りでしたね……」
全員予想はある程度付いていた。
ただ確信は持てなかった。
だがエルーナはこの情報。本人が口にした通りあくまで噂だが、船内の冒険者や観光客諸々含め一人だけでは無く、何人もの口から同じ情報が出てきた事で内心では確信に近いものを抱き、
「決定戦がどういう形式になるのかは不明だ。でもこの噂が本当なら私は当初の目的通り“あの時”の恩返しが出来る。グリフ、アンタが私にくれたこの命の恩返しをね」
「別にいいって言ったのに……」
「ふふふ、小僧よ。良き親友を持ったな」
「グリフ様の人望ならではですね!」
彼女はそう、かつての恩返し。
以前に仲間の裏切りで絶命した際、グリフが【望みの力】で自分に新たな人生をくれたその大恩に報いる為により一層優勝を心に誓った。
「さてと……まあ立ち話もなんだ。もう昼時だし、残りは船内の食堂で飯でも食いながら話そうぜ」
そして。
ここからは長引くと判断してなのか。
エルーナはその重要な2点のみを先に挙げて、グリフ達へ伝え一旦話題を切りあげていくと、
「安心しな。飯代も私の奢りだ。皆でのんびり飯を突きながらこの後の予定も含めて話し合おう」
「うむ! 了解した!」
「エルーナさん。ご馳走になります」
「……本当に何から何まで悪いな。エルーナ」
「良いって事よ。元々は私から参加しようって誘ったんだし。それに最近は一人で冒険してたからな。こうやって誰かと旅するのは久しぶりだ。特にグリフ……アンタと冒険出来るなら本望さ!」
「お……おう」
そのまま全員を食堂へ誘導。
人の絶えない甲板から屋内へ移動。
「さて! 腹が減っては戦は出来ぬからな! いつ激戦が始まっても良いようにこのフィオナ。食って食って食いまくってやろうでは無いか!」
「エルーナさん。アイツの頭の辞書には遠慮って二文字は無いから気を付けてくれ。気を抜くと数日分の食費まで消えるから適当に会計してくれ」
「あははは……肝に銘じておくよ」
こうしてグリフ達一行はエルーナが集めた残りの情報共有含めて、彼女の案内に続くようにして船内にある大型の食堂へと足を運ぶのだった。




