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7話 品定め



【グランディアーナ王国 王城塔】



「おーおー、最強ギルド決定戦開催の告知を出してからというもの。毎日毎日スゲェ賑わいだな」



 リーゼロッテは手元のオペラグラスを覗きながらそう感心した。城内で最も高い塔。王国が一望でき見張りとしても使われるその最上層から、



「海には船。空には飛空艇。そして陸には馬車。きっと今ごろは門番や兵士達も悲鳴あげてるだろうな。どんだけ人来るんだってな」



 流石に人の出入りまでといった細かい点までは確認出来ずとも、王国を囲う城壁外の様子。

 通常時は主に貿易に用いる港区画であれば彼女が発した通り、多くの参加者や観客を乗せていた船が停泊。また大量の来訪者を運ぶ飛空艇も同様に離発着を繰り返しては次々に空を舞っていく。



「国を挙げての一大イベントですからね。それに元々の知名度もありますが、なにより世界中にいる血気盛んな冒険者からすれば最強の名を手にしたがるのは当然ですし、向こうも向こうで自分達のギルドの知名度を上げたいんでしょう」



「ははは。確かにこのイベントには色んな方面の連中が来るからな。記者はもちろん、ゲストとしてはギルド協会の人間。それ以外にもお忍びで別国の貴族や王族。えっと、前回の時は――」



「マタタビーア帝国のニャン皇帝がこっそり来訪されてましたね。あの時は本当に驚きました。門番がすぐに気が付いたおかげで騒ぎや犯罪に巻き込まれる前に王城へお招き出来ましたけど……」



「そうそう。あのモフモフした白猫のな。人が多く集まる所にトラブルは付き物だからな。スリとかならまだ可愛いもんだけど、暴力沙汰になると洒落にならない。だから母上(クソババア)もあの時は慌てて城に迎えていたのを覚えてる」



「……お忍びの意味皆無でしたけどね」



「しょうがないだろ。いくら本人がお忍びだって言っても何かあればこっちの責任問題。下手すりゃ戦争に発展するんだぜ? だったら本人の同意関係なく保護しなくちゃならないだろ?」



「ええ。そのおかげで門番の動員数は前回の三倍。もう城内の警備兵すら割いて門番として廻していた位ですからね…………まあ決定戦が始まったら多少は落ち着くと思いますけど」



「ははは、門番達もそう祈ってるだろうぜ」



 最後は陸。

 城壁の正面部に設けられた大型の跳ね橋には絶える事の無い行列と馬車が並び、文字通り陸海空全てがごった返していたのだった。




 ――そうして。




「ふぅ……さてと。モリーユ」



「はい。なんでしょうか」



 リーゼロッテはそう一拍。

 自国の賑わい具合を一通り確認した彼女はオペラグラスを外し、モリーユへ手渡すと気にしていた“本題”へと話題を切り替えていく。



「首尾はどうだ? イイ感じの美女は集まってるか? いやそれよりも……()()()()()()()()()は集まってきてる? 集まり具合を教えてくれ」



 本決定戦の水面下で現在も進行中の計画。

 その名もTOP計画。正式名称は命名者のリーゼロッテ曰く【強い()おっぱい()プロジェクト()】の進捗について彼女は尋ねた。




「………………あぁ、そのことですか」




 マジで自分は何しているのだろう。

 なんでこんな下らなさ過ぎて、反吐が出そうな計画を任されているのだろうとモリーユは主人の気まぐれな行動に心底呆れつつ、



「そうですねぇ……今私が持っているこの報告書。リーゼロッテ様が強引に追加ルールとして設けた女性参加者の身体測定の結果によると――」



「うんうん!」



「それなりに集まっているみたいですね。中には参加の為にわざわざ有名な踊り子を雇ったり、フリーながらも各所で名を馳せている女性冒険者を加入させたりと様々な女性が集まっています」



「おっぱい! おっぱいの大きさは!?」



 食い気味に顔を近づけ尋ねるリーゼロッテ。

 少なくとも一国の王女が口にする言葉では無いのだが、悲しいことに彼女のその瞳はまさしく興味のあるオモチャを見つけた子供そのもの。



「…………だ、大小さまざまですが、それなりに良いサイズが集まっているとの報告が――」



「いよっしゃあああああぁぁぁぁぁ!!」



 無邪気。キラキラしている。

 それこそ逆に狂気すら覚える程に。

 何がこのバカ女をそこまで滾らせるのか。

 いくら長い付き合いとはいえ理解不可能。



「まあ……実際のところはリーゼロッテ様が決定戦の様子を見る必要がありますけど――」



「うん、分かった! 楽しみにしてる!」



(うーん……この国は本当に大丈夫なのでしょうか。度々思いますが“こんなの”が次代の女王になると考えるだけで身の毛がよだつんですが)



 毎度のことながら。

 モリーユは王国の行く末を案じつつ、自分からひったくったバストサイズの資料を嬉しそうに捲る主人(リーゼロッテ)の姿に哀れみをも含んだ視線を向けていった――



「リーゼロッテ様! モリーユ様! おられますか!?」



「うん?」

「あら?」



 瞬間。



「ハァ……ハァ……ここにおられたんですね……リーゼロッテ様。そしてモリーユ様。女王陛下よりお呼びがかかっております。内容につきましては例の決定戦の舞台となる“離島”の件で話を詰めたいとのこと。ですので至急会談の間へ来るように仰せつかっております」




 下層から上がってきた王城の警備兵だった。

 女王直々の命を受け、急ぎ階段を上がって来たのか少し息を切らしながらも彼はリーゼロッテ達へ女王から受けた内容をそのまま伝えた。




「お……おう、伝達ご苦労さん。よしよし、丁度良かったぜ。私もその件でそろそろクソババ…………ゴホン。じゃなくて私からも母上の元へ向かおうと思っていたところだったんだ」



 まるで宝の地図かの如く。

 リーゼロッテはほんの数秒前まで興味津々で読みこんでいたバストサイズの資料をスッと後ろに隠すと、兵士からの伝言通りに足を進めていき、



「行くぞ。モリーユ」



「ええ。ただし“その資料”は持っていかないでくださいね。もしもそんな悪質なセクハラ材料がネルニア様に見つかりでもしたら打ち首確定ですからね。もちろんリーゼロッテ様含めてですよ」



「大丈夫だ。その時はお前に全部擦り付けて、私は南の島へバカンスしてくるからさ。色々忘れて戻る頃にはお前は生首一つで土の下さ」



「やっぱり今ここで殺しますね」



 と……会話の内容はともかくとして。


 彼女達は女王ネルニアが待つ会談の間へ。

 足先を兵士の上がってきた螺旋状の階段を向けていき、その場を後にするのだった。



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