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6話 仮名



【グリフの家 リビング】



 結局。



「いやぁ、朝っぱら押しかけて悪かったな! なにせ期間限定の超イベントだし、しかも文無しだって耳に挟んだからさ。もしクエストで遠征しちゃったら入れ違いになっちまうだろ? だからその前にってこうやってお邪魔したのさ」



「あははは、正しい判断だと思うぜ。危うくアンタの言う通りもう少しでクエスト案内所に出かけるところだったからな」



 グリフ達はクエスト案内所へ向かわず。

 家から出た矢先、玄関先で待ち構えていた黒髪の女性エルーナに押し込まれる形で屋内に逆戻り。そのまま彼らは彼女の話を聞いていた。



「で。さっきも一応言ったし、グリフなら分かると思うけど私がここに来た目的は――」



 そこまで口にするとエルーナは一枚の羊皮紙。

 ある意味ではさっきまでグリフ達が欲していた【ギルド結成の申請書】をテーブル上に広げると、前に座る彼の元へ差し出す。



「言われなくても分かってるよ。戦いが好きなアンタの事だ。蒼穹の聖刻団(かつてのギルド)はとっくに解散。だからアンタがいくら名うての冒険者とはいえギルドに所属していない以上、この最強ギルド決定戦に参加するには一つしかない」



 対し即座に察するグリフ。

 と、言ってもお互いに考えている事は同じ。

 それもさらに言うならば彼女と鉢合わせする直前までちょうど話題にしていた内容だったため、



「「ギルドを結成して、決定戦に参加する」」



 以心伝心。



「あははは、話が速くて助かるよ。そうだ。だから開催時期の情報を掴んで、事前に申請書を発行しておいてもらったんだ。グリフ……命の恩人であるアンタ達となら安心して組めると思ってね」


「ふっふっふ。やはり小僧は隅に置けぬな。役立たずと追放され離れてもなおこうして貴様を想ってくれる仲間がいるとはな。流石は我が主だ」


「うふふ。優しいグリフ様らしいです」



「……恥ずかしいからやめて」



 最強ギルド決定戦への参加。

 そこで大前提としてはギルドの結成。

 そしてギルド結成の為に必須なのは――



「それでギルド長は誰なんだ? アンタか?」



「えっ、私が? あっはっはっは! おいおいなに言ってんだよ。()()に決まってんだろ」



「…………はい?」



①まずはリーダーである【ギルド長】の決定。

②次に結成に必須となる【ギルド名】の決定。


以上の必須項目二つとメンバーの名前を申請書へ記載後、協会へ申請。その後メンバーに罪人などが混じっていないか、メンバーに責任能力があるかの有無を確認する簡単な審査を終えると結成が認可される。



 よってまずはギルド長を決めるのだが。



「そもそも私はリーダーってガラじゃないんだ。それにさ。たぶん私を含めてこの場の全員がアンタこそギルド長に相応しいって思っているぜ?」



「いやいや、ギルド長だぜ? ギルドの看板背負(しょ)って立つ奴がこんな落ちこぼれの賢者なんてカッコつかないだろ? それなら『蒼穹の聖刻団(元・世界最強ギルド)』の副ギルド長を務めたアンタの方が断然良いに決まって――」



 グリフは提案を聞き入れず。

 なにせギルド長といえば顔役。

 実力のあるエルーナ達に比べ、圧倒的に見劣りする自分にそんな大役は荷が重すぎる。不相応だという主張を元に素直に意見を受け入れようとしなかった。




(はあ…………仕方がない)




 そこでエルーナは――




「フィオナさん。それからそっちの金髪の……えっとセリカさんだっけ? どう思う? 私はこのグリフ・オズウェルドがギルド長に相応しいと思っている。実力どうこうの話を抜きにしてだ」



「おいおいエルーナさん。アンタ何言って――」



「いいから。フィオナさん。セリカさん。正直に答えてくれ。ギルド長は誰が相応しい? もちろん自分がギルド長に相応しいって立候補してくれても構わない。でも仮に私かグリフのどちらかを選ぶとしたらアンタ達はどっちに付いていく?」



 あえてフィオナ達へ質問をぶつけた。

 自身の推薦を冗談か何かだと思い込んでいる半笑いのグリフを納得させるべく、エルーナは真剣な眼差しを向け尋ねていく…………すると。




「ふむ……余は小僧を選ぶ。元より貴殿と小僧どちらか選べと問われずとも小僧を推す気だった」



「……私もフィオナ様と同意見です。まだ会って間もないエルーナ様には大変申し訳ありませんが、私もグリフ様に付いていきたいです」




 迷いなき正直な返答。


 返答に戸惑う様子さえも一切見せなかった。

 ただ意見が一致しているのを確認するようにフィオナ、セリカともに一度だけ目を合わせ発言。



「お……お前ら」



「これで分かっただろ。ギルド長に最も必要なのは()()なんだ。無自覚だろうけど人を惹きつけるカリスマがアンタにはあるんだよ。いざという時に逃げ出さず勇気を出して立ち向かう。それも誰かの為に身を削る博愛の精神。それが転じてこうして人を惹きつけ信頼も得ているのさ」



「…………………………」



 エルーナからすれば分かりきっていた結果。

 この満場一致の結果を見たうえで彼女はグリフへ説いていく。かつての副ギルド長として、ギルド長というリーダー役に必要な素質についてを。



「逆に実力の有無はそこまで肝心じゃない。アンタも蒼穹の聖刻団(あのギルド)で理解しただろ? 強くても我欲に溺れて権力でメンバーを従わせようとするようなギルド長はダメだって」



 実戦での戦闘力は二の次。

 それよりも自然と人を魅了する生き方。

 この人に付いていきたい。身を託したい。



「人は常に優しさに飢えているんだ。元々アンタの事は気に入っていただけど、あの時に()()()()()()以降はさらに急上昇さ。だから今度はこの救ってもらった私の命をアンタに預けたい。ちょっと大袈裟だけど、これが私の本音だ」



 たとえ利益を度外視しても一緒に冒険したい。

 そう“滾らせてくれる”人物が彼だと告げた。



「小僧」

「グリフ様」



「分かってるよ……親友にここまで言わせておいてまだゴネるような奴は男じゃねぇもんな。まあでも後から後悔はしないでくれよ? ギルド長って一回決めたら変えるの面倒くさいんだから」



「あははは! それに関しては安心してくれ! 私に二言は無い! それよりも誰もがお前をギルド長に推薦して良かったって思う時が来るさ」



「……ホントかよ」



 エルーナの本音。

 さらにセリカとフィオナからの後押しとあっては無下にするわけにいかず。半ば強引ながらもグリフはギルド長になる事を承諾するのだった。



「よし、それじゃあこれでギルド長は決定だな! この調子でギルド名もパパッと決めて申請に行こうぜ。ああ、ちなみに申請時の費用とか、それから旅費や参加費も私が出すから安心してくれ!」



「……助かるぜ。金の余裕が本当にないんだ」



 そして最後に控えるはギルド名。

 こちらも一団として行動するうえで欠かせない重要な要素。自身の名を語るうえでも必要となる名前を決めようと話題が移り変わっていく――




「ところで……」



「うん?」




 その矢先だった。




「どうしてエルーナは()()()()()()()()()()()()()って知ってたんだ? あれか。ボロドの旦那に聞いたとかか? ったく……いくら凄腕の情報屋でも個人の財政状況まで調べられちゃ世話無いぜ。流石にこれはプライバシーの侵害で文句を――」



 ふとグリフはエルーナに尋ねてみる。

 なぜ彼女が自分達は文無しと知っていたのか。

 いくらお互いに会いに行ける距離とはいえ、最近は顔を合わせる機会も無かった――



「いや違う違う。ボロドからじゃないよ」



「えっ……じゃあどこから?」



 ――にも関わらず。

 こんな情けない金銭面を知られていたのか。

 その情報の出所を探っていく。すると?




「そうだな……なんていうか。ほら、私って馬好きだったじゃん? だから馬レースの開催日はなるべく顔を出すようにしてるんだ。お前も覚えているだろ? あの王都バトラントの馬レース」



「ああ、そういやそうだったな。冒険中とかに珍しい馬型モンスターが出た時“あの馬をペットにするうぅっ!”って一目散に飛び込んでたもんな。それに馬レースもよく一緒に…………うん?」



「そうそう。それで賭けも兼ねて()()に余ってる金握りしめて見に行ったんだ。それで――」



「………………ほぉ?」



 瞬間。

 グリフの脳裏に嫌な予感がよぎった。

 いや、まさかな。そんなワケ無いよな。


 まさか自分達の恥の出所が…………うん、そんな事はあり得ないよな。きっと違う所から漏れたんだよな。と、グリフは懸命に自身に言い聞かせながら続くエルーナの言葉に耳を傾けていくと、




「最終レースが終わった直後さ。普段なら勝敗問わず色んな声が沸きあがるんだけど……いやぁ、あの時は凄かったね。なにせそこのフィオナさんが“あっはっはっは! これは参ったなセリカ! 見事に負けてしまったぞ! さて小僧にはどう弁明をすべきか! 明日から一文無しだぞと正直に言うべきか!?”って大声で叫んでたの。それも間近の席だったから丸聞こえだった」




「……………………」




 グリフは思い知った。

 現実とは残酷なのだと。




「しかもその隣にいたセリカさんも“だ、大丈夫です! 黙っていればきっと見つかりません! それに……いざという時は泥棒に荒らされたふうを装えばきっとグリフ様も許して――――”って悪巧みしてたのを聞いて金欠だと知ったのさ」




「……へぇ。二人とも? 嘘だよな?」



 悪い予感というのは的中するのだと。



「……………………余には黙秘権がある」

「……………………記憶にございません」



「おい! もうどっちでも良いからせめてこっち向いて話してくれません!? お前らどこに語りかけてんだ!? その天井やフライパンの上にグリフさんいるのか!? いねぇだろうが!」




 さらに悪夢は重なるものだと。

 そうグリフは身に染みて感じた。




「はあああぁぁぁ……まあ、もういいよ。失った金追いかけたってしょうがない。それでギルド名だったけ? どんな名前にする予定なんだ?」



 だがあくまで今更な話。

 グリフは大きな溜め息を吐きつつも心機一転。



「あはは。おいおいグリフ。お前、私のネーミングセンス知ってるだろ? だから今日は私以外のアンタ達に名前を決めてもらう前提で来たんだ」



「……そうだったな。昔に特注武器の名前を決めようとした時、色が似てるってだけで『ナスビブレード』とか『なんかすっごいカッコいい大剣』って名付けようとしてたレベルだもんな……」



 エルーナ訪問前にしていた説教諸々含めて。もう一度フィオナ達を問い詰めたところで空の金庫は満たされないと早々に切り上げ、元々話していたギルド名についての話題に戻していき、



「うーん……かと言ってなぁ。別に即興で浮かぶものでも無いんだよな。前の『蒼穹の聖刻団』だって丸2日かけてようやく満場一致になったくらいだし。すぐ決めろと言われても厳しいぞ?」



「だよねぇ……ちなみにもしも良い感じのギルド名が浮かばなかった時用に、一応私なりに案はあるんだけど。どうする? あくまで仮名ってだけで、結成直後ならギルド名の修正は出来るしさ」



「…………そうだなぁ。今ここでパッと浮かぶわけでもないし参考程度に聞かせてくれるか? ただしおかしな名前だったら即却下するけど」



「了解。じゃあ仮のギルド名は――」




 唐突な内容に悩むグリフを見兼ねてか。

 エルーナはそう予め考えていた名前を発するのだった。

 自分にとって思い入れのあるギルド名を――



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