7話 クエスト受注 ➁
「一番良いクエストを頼む」
グリフは決め顔で受付嬢へそう向けた。
「えっ、一番良いクエストですか?」
だが受付嬢は僅かに困惑し、尋ね返す。
困惑の理由は至ってシンプル。
グリフがいわゆる未熟者だから。
「一番良いと言うのは……つまり報酬が高くて、難易度の高いクエストをご所望というお話で良かったんですよね? グリフ・オズウェルド様?」
「そうだけど……なにか文句でも?」
「い、いいえ。それでは少々お待ちを――」
「頼んだぜ」
世界最強ギルド【蒼穹の聖刻団】の賢者グリフといえば、冒険者ギルド界隈やクエスト受託所でもちょっとした有名人だった。もちろん悪い意味で、
「ちぇっ、どいつもこいつも失礼なんだから」
賢者という非常に高性能で期待性も高い人気職に就きながら、いつまで経っても火力の小さい初級魔法しか扱えないという底辺賢者のグリフ・オズウェルド。
そんな人物が世界最強ギルドに所属していた事もあってか。どんな強豪ギルドでも一人くらいは落ちこぼれがいるのだと陰口を叩かれた挙句、その悪評ばかりが一人歩きして、いつしかグリフの名は巡り巡ってあちこちの町や都へと拡散していたのだった。
(見てろ! 絶対に見返してやるからな!)
対してグリフは改めて胸中に強く決める。
今はもう追放されたが、ここから見違えるように成長しいつの日か他を圧倒出来るような大賢者に成り上がり嗤ってる奴の鼻を明かしてやると、
「その為にもまずはアイツの力を――」
そうグリフは己が目指す目標を再度明確にし、後ろのテーブルで大人しく待機している召喚者フィオナの方へと振り向いた。
……すると?
「うおおお! これはなんとも旨い酒だな! がぶがぶ飲める! よもやこのような濃厚な酒に巡り合えるとは、相伴に預かり正解であったな!」
「おや、べっぴんの姉さん。アンタ、酒の味が分かるとは中々いける口だね? よし、おじさん達気に入ったぞ! さあ景気づけにドンドン飲んでくれ!」
「こっちにはつまみもあるでよ!」
「うむ! かたじけない!」
「……うんんん?」
幻覚かな? グリフは錯覚する。
だが残念な事に頬を捻っても変化は無く、紛れもない現実だとすぐに実感させられた挙句。
「んくんく……ふう。何度飲んでも良い味だ」
「おうおう、随分と色っぽい飲み方だねぇ」
「まったくだぜ。俺もあと十年早けりゃ――」
「おいおい。お前は女房と子供いんだろうが!」
召喚した主である自分を放置し談笑。
ちょっと目を離した隙に、別ギルドの宴会にちゃっかり参加するフィオナの姿に――
「お前なにやってんだあああぁぁぁっ!?」
プツンといったのか大激怒。
クエストを受注する際の僅かな間を突き、今や中年のギルド一団と意気投合し自由に飲み食らっているテーブルへと早足で近付いていった。
「うん? 小僧よ貴様はなにをそんなに怒っているのだ? 腹ごしらえは戦前の定石ではないか。どんな猛者でも食料が尽きれば戦えぬものだ。戦争でも備蓄を失った方から先に倒れてゆくものだぞ?」
「戦争なんか起こってねぇよ! それより俺の名はグリフだって言ってんだろうが! 何度も何度も小僧呼ばわりすんな! それに――」
「……それに?」
「なんでもない! それ以上酒飲むな!」
と、口先では偉そうに言いつつも。
飲酒のせいかほんのり顔を赤くし、さらに女性らしい色気を無意識に漂わせるフィオナに対し態度の割には思わず目のやり場に困るグリフ。
「まあまあ……グリフさんもそういきり立たずに、この姉さんと一緒にテーブルに座んなって。『蒼穹の聖刻団』を追放されて苛立ってんのは分かるけど、キレ散らかしても何も始まんねぇだろ?」
「…………えっ?」
するとグリフは挙がった話題。
初対面の男性から名を呼ばれた事や追放の件について思わず疑問符を浮かべる。
「どうして、それを……」
「あん? 今更なに言ってんだ。すっかり浸透しちまってるよ? あんたが追放されたって話は」
「………………」
一体どこまで話が広まっているんだ? と。
もはやこんな面識のない人達にさえ認知され、自身がギルドから追放された事まで知られているなんて…………と人の口に戸は立てられないのかと思い知りつつ、
「……分かったよ。それでアンタ達は?」
しぶしぶ男性達の言う通りに着席。
熱のこもった頭を冷やせとばかりに冷水入りのジョッキを貰い、あくまで受付嬢がクエストを見つけてくるまでの時間つなぎとして質問を投げかけていく。
「オレ達かい? オレ達はトレジャーハンターのギルドさ。最近この辺で発見されて有名になったあの難攻不落のダンジョン《望みの魔宮》に挑もうと遠い所から出稼ぎにやって来たのよ!」
「そうそう! あの望みの魔宮にな!」
「なに? 望みの……魔宮だって?」
グリフは卓に座った男性の発したダンジョン名に、ふとジョッキに伸ばした手を止める。
「ほぉ、難攻不落とな。中々に興味をそそられる話ではないか。もし貴殿らに差し支えなければ余にそのだんじょんとやらを教えてくれぬか?」
対してフィオナは難攻不落という単語に惹かれたのか。彼らの話題に挙がった《望みの魔宮》という初めて耳にするダンジョンについて詳細を求めていく。
「ヒック…………なんでぇ、姉ちゃん知らねぇのかい? あのダンジョンなら俺達トレジャーハンターだけじゃなくても、冒険者なら誰でも知っている話だと思ってたが――」
男性の一人はジョッキの酒を飲みながら不思議そうな表情をフィオナへと向けた。
「《望みの魔宮》ってのは未だに攻略した奴がいないっていう【超高難易度ダンジョン】の事さ。外見は搭の形をしてるが地下に潜るタイプでな。フロア数は5階層。ただし最下層を見た奴はいねぇ」
「そんで。なんでも強豪パーティーに同行した学者の研究によると、最深部を攻略した奴にはご褒美として【どんな願いでも叶えてくれる】って噂があるんだ。だから今じゃあ毎日、腕っぷしに自信のある冒険者が血眼になって突撃しては死体になって帰ってくるって話だ」
「ホント。若い連中って命知らずだよな」
どこから仕入れた情報なのだろうか。
続けて他の男性達も《望みの魔宮》について知り得た補足説明を口にする。
「ふむ、願望を叶える為に危険を冒す……か」
「そうそう。でも誰もその真偽を確かめた事が無い。つまりそんだけ深部にいるモンスターどもが強いって事だ。まあ俺達は上層でお宝探しをして帰るからあんまり関係の無い話だけどな!」
「うむ! 己の実力をわきまえたうえで最適な手段を取るか。実に懸命な判断だと余は思うぞ!」
「ガッハッハッハ! 不思議な姉ちゃんだ!」
「ホントだぜ、喋り方といい品もあるしな!」
「おまけに美人なんて……素晴らしい!」
(……………………)
するとグリフのみ。
なにか思い当たる節でもあったのか。
彼だけは終始無言でただ意識を集中しフィオナと男性達の会話を聞いていた。まだギルドを追放される前に耳にした件の《望みの魔宮》の話を――
「ごほん、グリフ様。大変お待たせ致しました。こちらのクエストが現在我々が用意できる高報酬、高難易度のクエストとなっております。詳細も記載しておりますので一度ご確認を――」
と……話題が盛り上がってきた最中。
カウンターで分厚い文書を捲り、住民達や他国から寄せられた要請内容を探していた受付嬢の呼びかけ。依頼内容の記された羊皮紙片手に受注者のグリフの元へ赴いてきた。
「おおっ、待ってたぜ。じゃあ……ダンジョンの話は一旦ここまでにするとして。いよいよお前の力を試すクエスト発表だぞ。準備は良いか?」
「勿論だ。どんな魔物であろうとも余が軽くひれ伏してやろう。さあ早く相手を告げるがいい」
「はいはい、ちょっと待てよ。どれどれ――」
そうしてグリフは腕っぷしにやたらと自信を持つフィオナの実力を測るべく、受付嬢から預かった高難易度クエストの内容に目を通していく…………のだったが。
「げっ!? まさかこのクエストって――」
「「「「うん?」」」」




