4話 参加条件①(☆)
挿絵回&復刻キャラ回です。
出発の準備が整った頃。
「……ダメだ」
グリフはかぶりをふった。
「ダメ? 参加できぬという事か? だがこの広告紙を読む限りだと特に問題は――」
「フィオナ様の仰る通りです。参加の必須条件も女性が一人以上って書いてありますし。私とフィオナ様が参加すれば特に問題ないのでは?」
対しフィオナとセリカは首を傾げる。
二人とも手元の広告紙。最強ギルド決定戦の開催および参加を煽るような宣伝文が刻まれたそれに目を通しながらグリフへ向けて疑問を発し、
「ふむ。開催日時は今から一週間後か……セリカよ。余は未だにこの世界の地理に疎いのだが、ここメザーネからこのグランディアーナ王国という地へ向かうにはどれくらいかかるのだ?」
「到着までの日数ですね。そうですね……行き方は色々ありますけど、どれも長く見積もって約5~6日ってところでしょうか。中でも一番早いのは王都バトラントの飛空艇ですね。乗り場でグランディアーナ王国方面へ向かうものを見つけて乗るだけ。費用はかかりますがこれが最速。日数としては大体2~3日で着くと思います」
「おお! 昨日の馬レースの時にも飛んでおったあの馬鹿でかい船の事だな! なるほどなるほど。あれを使えば2~3日か。うむぅ……ならば小僧よ、やはり問題無いではないか。参加条件も満たしておる。なおかつ開催にも間に合う」
経路は幾つかあるが開催には充分間に合う。
そんなセリカからの返答も相まってか、なおさらフィオナはグリフの「ダメだ」という返答を素直に飲み込めずに詰め寄っていくのだった。
そこでグリフは――
「うーん。確かに二人とも言いたい事は分かるんだけど……それ以前に広告紙には“どんなイベント”を開催するって書いてある?」
「「えっ?」」
女性二人からすると不意な質問だった。
しかし同時に非常に単純な質問でもあった。
「小僧よ。貴様は一体なにを言って――」
「えっと……最強ギルド決定戦ですよね?」
しかし二人共その質問の意図は理解出来ず。
よってただ漠然と手元にある広告紙の主題部分だけに目を落とし答えていく。ふと何かのクイズでもやっているのかと新たな疑問点を産んでしまう程に……そこでグリフは様子を見兼ねてか、
「そう。最強ギルド決定戦だ」
続けて答えを口にした。
「確かに俺達は冒険者の集まりだ。現にセリカが加わってからも依然としてクエストは受注できるし。終了後には冒険者として報酬を貰っている。だから多分そこは概ねお前達の考えている内容と同じだと思う。でも肝心なのはここからだ」
まさしく一言で解決するような内容を。
そして誰をも納得させるその返答は――
「俺達はそもそも“ギルドじゃない”んだ。だから最強決定戦だろうが最弱決定戦だろうがそもそも参加出来ない。まさに門前払いってわけだ」
自分達はギルドではない。
その言葉に全てが集約されていた。
「「ギルド……ではない?」」
「ああ、そうだ。言ってしまえば俺達はフリーの冒険者の集まり。かなり悪い言い方をすれば放浪者みたいな感じだ。だから冒険者自体はなろうと思えば誰でもすぐになれるんだ」
特にギルド名を決めたり、まして名乗ったわけでもないが、てっきり自分達は既にギルドという一団として動いていたと誤認識していたフィオナとセリカ。そこでグリフはその誤りを正すべく、
「でもギルドは違う。ギルド申請所……そうだな。最寄りだと同じバトラントの申請所にまず申し込みをしないといけない。それが終わって次の審査を通過すると正式に結成が認可される。言ってしまえば自分達はこんなギルド作りました! よろしくお願いします! って公表する感じだ」
簡単にギルド結成までの手順や違いを説明。
冒険者の集まりはあくまで非公式の集団。
そして冒険者ギルドとの明確な違いは恩恵。
「例えば案内所でクエストを探している時だ。二人も何度か見かけてると思うんだけど、時々『冒険者ギルド限定クエスト』って刻印された依頼書が貼られていたのを見たこと無いか?」
「ふむ……そう言われれば確かに見覚えが」
「……あります。詳しくは読んでいませんが」
「そうだ。あれは簡単に言えばボーナス付きのクエストだ。内容にもよるが追加報酬だけじゃなくて希少な素材が一緒に貰えたり、それ以外にも現地まで向かう費用を負担してくれたり、挑戦時にはポーションなどのアイテムを支給してくれたりと色々なサポートが受けられるんだ」
追加報酬。回復アイテムの支給。
そんなフリーの冒険者のままでは授かれない恩恵について、彼は身近な所から話していき、
「うーむ……聞けば聞く程に魅力的であるな。だが不思議だ。そんな特典があるなら、なぜ小僧はこれまで申請しなかったのだ?」
「うっ……面倒なところ突いてきたな。そうだな……一番の理由はまず結成時にはメンバーが【4人以上】必要って点だな。まあこれは結成後に人数が減っても問題無いって仕様を生かして、酒場とかで適当に一人補充するって裏技がある。ただし一定期間は行動を共にしてもらうけどな」
「なるほど……それで後の審査というのは?」
「ああ、別に内容はそこまで厳しくないんだけど……仮にも世界公認の冒険者集団になるわけだからな。主にメンバー内にお尋ね者はいないか。責任能力があるか。あとは力量を計る意味でこれまでにどんなクエストを受けてきたかとかだな。まあ正直に言ってこれ自体も半日とかからない」
「ほお、ならば早速――」
説明途中で先走り気味になるフィオナ。
未知の強敵と戦うのが大好きな彼女にとって、最強ギルド決定戦は相当魅力的なイベントなのだろう。けれども彼女のそんな昂る様子を見てか、
「ただし。問題はその【申請】部分だ。実はその申請書ってのが発行までに最速でも一週間以上かかってしまうんだ。たとえどんなに優秀な連中の集まりでも同じ期間待たされる。って事は?」
「そうか……それで――」
「今から申請しに行っても私達がギルドとして一番早く認められるのは恐らく大会が既に始まった頃。観客として入国するのならともかく、参加者としては間に合わないってわけですね……」
「そういうことだ」
グリフはフィオナの足を止めさせた。
今からどう足掻いても間に合わない。
少なくとも参加期間までの結成は不可能だと。
「実に残念だ……せっかく兵どもと武器を交えられると期待していたのだが――」
「他に手は無いんですか?」
意気消沈するフィオナに代わってセリカ。
グリフの蓄えた貯金をギャンブルにつぎ込んだ謝罪。そのお詫びとして広告紙に記された優勝賞金:10,000,000Gという超高額が素直に諦めきれないのか彼女は尋ねる。
「そうだな……まあ実を言うと申請書自体は有効期間内なら“誰かが持っている”のを譲ってもらう事も可能だし、逆に一時的に仲間に加えてもらってそのまま結成って手段も無くは無いんだが」
「……あまり現実的な方法ではありませんね」
「ふむ。どのみち申請書が必須というわけか。余はてっきりギルドとは単純に冒険者が集まって“今日から俺達は○○ギルドだ!”といった具合に即結成出来るものだと――」
「ははは……俺も昔はそう思ってた。だが今も言った通り申請書さえあれば、審査もかなり緩いし結成自体は気軽に出来る。ただ気軽に出来る分、逆に厳罰に処されるような事をしたらギルドの知名度にもよるがほぼ強制的に解散。それから数年は結成を認可されないとかの制限もあるけどな」
「「厳罰?」」
「ああ」
すると参加は無理だが、豆知識として、
「例えば絶対に立ち入ってはいけない聖域。いわゆる【禁足地】に無断で入ったり、絶滅寸前の希少種モンスターを狩ったりとかだな。他にも色々あるけど基本的にマナーレベルの話だから故意でしない限り気にする内容でもないけど」
補足程度にグリフはギルドという集団として活動するうえでのルールを簡単に告げていった。
またそれと同時に区切りを付けたかったのか。
「よし、これで話は終わりだ。いずれにせよギルド結成が間に合わない時点で関係ない話だ。俺達は俺達で日銭を稼ぐだけだからな。さあ、それじゃあ予定通り稼げるクエスト探しに行こうぜ。早くしないと他の冒険者に取られちまうからな」
「うむぅ……魅力的な催し物だったんだがな」
「こればかりは諦めるしか無いようですね」
「そうそう。今はお金を稼ぐことが先決だ。それにどうしてもって言うなら観客側になるのもアリだぜ。とうぜん旅費分を稼いでからだけどな」
グリフが話を切り上げたのを皮切りに行動。
「二人とも忘れ物は無いな?」
「うむ! 準備万端だ!」
「食料もいっぱい用意しておきました!」
「よし! じゃあさっそく出発だ!」
惜しむ様子を見せつつも全員は参加を断念。
思考を切り替えて玄関のドアを開いた――
「おっ! 丁度出てきやがったな!?」
その直後!?
「お―いっ! グリフゥゥゥゥゥゥ! 私だ! エルーナだ! これこれ! 前みたいにこの最強ギルド決定戦に参加しようぜぇ! 申請書もバッチリここに発行してもらってるからさぁ!」
まさしく神懸かり的というべきなのか。
または運命の悪戯とでも呼べるのか。
「おや? あの者はいつぞやの――」
「……懐かしい顔だ」
一向が玄関を潜って屋外へ出た瞬間、大声をあげて迎えたのは一人の女性。かつてのグリフの同僚にして最強の前衛職【超級闘士】に就く美女エルーナが手を振っていたのだった。
その片手に件の申請書を握りしめて――




