27話 因縁
【望みの魔宮 最深部】
……見慣れた顔では無かった。
「追いついたぞ……ディアス!」
「なぜだ……なぜお前がここにいる!?」
だが互いにその面構えは覚えていた。
賢者グリフと暴君ディアス。直接こうして顔を突き合わせる機会は数回しか無かったにも関わらず、目にしたならば嫌でも思い出す程の因縁。
「聞いた時からそんな気はしてたが……まさか本当に黒幕だったとはな! あの時情けをかけてもらったってのに……お前はどこまで人を犠牲にすれば気が済むんだ!? この外道!」
「ぐっ……よそ者の分際で、この俺様に向かって外道呼ばわりするか! 身の程を知れ! そもそもお前ら『蒼穹の聖刻団』さえいなければ今も俺様はギルディアの王として悠々と覇道を歩めたというのにっ! そうだ……お前らとクロードの妨害さえなければこんな目に遭うことも――」
そして証明するように数秒でこの有様。
優しいグリフにとっては珍しくなんとしても殺すべき外道とまで認識されており、逆にディアスからしても過去に己の野望を打ち砕き、永久追放されるまでに至った憎むべき相手の一人として、
「黙れ……なにが覇道だ……誰が王だって!? 寝ぼけんなディアス! 私利私欲の為に多くの人達を犠牲にしてきたお前が偉そうに【王】を語ってんじゃねぇ! そういうのは真に国民を想い、憂う事が出来る奴だけが語れる話だ! お前みたいな自身の贅沢しか考えられないクズじゃなくて、クロードみたいな優しい奴に相応しい称号だ!」
「て、てめぇ。言わせておけば好き勝手に……」
開幕早々、憎悪の念をぶつけ合うのだった。
同時に絶対に退けぬ戦いだと自覚して――
「ぐ、グリフ……様?」
すると、両者が鋭い目でいがみ合う中だった。
「……大丈夫だ。安心してくれセリカ。もうすぐ終わる。すぐにでもあの外道を叩きのめして、お前の“背中の呪い”を解除してやる。そして必ず生きて地上へ帰ろう。それが俺達が亡くなった子供達やミールとの約束だからな」
「……はい」
この最深部へと到達する手前。つまり第四階層を踏破する間にて、セリカにかけられた【命奪の儀式】による“寿命を奪う呪い”が予想以上の速度で進行してしまっていたのか――
「小僧よ。賢明な貴様なら心得てはいると思うが……あの情報屋の話が本当ならば――」
「ああ、分かってる。セリカにはもう時間が残っていない……だろ? でもここまで追い詰めた。だからあとは儀式の契約主である奴を叩きのめせば全てが終わる。それだけだ」
気が付けばその手首、足首にまで呪いの刻印が侵食を回っており、既にセリカは肩を借りなければ歩く事もままならなくなっていたのだった。
「ちっ、そういう事かよ。その死に損ないがガキ共ほったらかしで、バルグ砦から脱獄しどこへ逃げたのかと思えば、まさかのお前の所に逃げ込んでいたとは…………意外だったな」
「ああ、俺も意外だったよ。まさかまたこうして生きている間にその胸糞悪い面をもう一度拝む羽目になるなんてな……けれど今度こそ終わりだ、ディアス。彼女を救う為にもお前を絶対に倒してあの鬱陶しい呪いを解除してやる」
「けっ……見え見えの正義面に吐き気がするぜ。だが一つだけ先に言っておいてやる。その女に施した【命奪の儀式】は恐らくお前が思っている以上に厄介な術だぞ? なにせその背中に刻まれた紋章が完全に全身を覆い尽くした時点で残りの寿命を全て奪い取って殺すんだからな――」
そんな中でディアスは内輪で勝手に話を進めるグリフ達。中でも特に計画の大きな妨げとなり、正規軍に追い詰められる原因を作った脱獄少女セリカの様態を見て、何となく状況を把握するとそう幾つか吐き捨てていき、
「ああ、わざわざご丁寧に説明をしてもらわなくても知ってるさ。悪いがこっちには凄腕の情報屋がいるからな。色々と教えてもらったよ」
「ふん……その情報屋って奴の話が“どこまで正確”か知ったこっちゃねぇが、とにかくだ。その時が来ちまったらいかなる魔法でも解除できねぇ。まあ奇跡でも起これば話は別だがな」
一度全身を呪いの刻印が覆えば死亡する。
その時はどれだけ上位の治癒魔法であったとしても呪いから救い出す手立てなど一切無く、いくら喚き散らそうが天に祈ろうが、確実に寿命を奪い尽くし殺すのだと念を押していくのだった。
そうすると――
「さあて……問答はそれくらいで良いだろう。それよりも早く両者ともに死力を尽くして戦い合い【望みの番人】である妾を楽しませよ! さすれば勝者には文句なく『願いを叶える力』を与えてやろう! ましてや因縁があるならばなおさらだ。この場で終止符を打つが良い!」
我慢が出来なくなったのか。
はたまた場違いな感触に耐えかねたのか。
「…………だとさ。まあお互いおしゃべりはこの辺で切り上げようぜ。どの道またこうして顔を合わせちまったからには殺し合うしかねぇんだ。そうだろ? 俺様だってお前とそこの死にかけの女を殺したいし、お前だって俺様を殺したい。しかも今回は『願いを叶える力』って素晴らしい優勝商品が並んでる。だったらやる事は一つだろ?」
戦え。栄光を手にしたくば強さを証明せよ。
幼い少女の姿を模した望みの番人は、そうグリフとディアスの会話に水を差し、言い争うのみで戦闘へと発展しない両者へわざと嗾ける発言を向けていく事で場の空気を刷新すると、
「…………今さら許す気が無いが、このまま素直に投降するっていう選択肢は無いんだな?」
「ふん! ここまで来て素直に投降する俺様だと思っているのか? ヌル、命令だ。アイツらを全員殺せ。そこらに転がってる兵士達と同じように切り刻んで実力の差を見せつけてやれ!」
「了解…………全員抹消スル」
望みの番人の思い通り。
全員が釣られるように動き始めていく。
「よし。あの薄気味悪い包帯の怪物は余が請け負おう。少しは骨がありそうな奴だからな。それに奴には罪無き幼子の魂を喰らった罪の重さを思い知らせねば余の気が済まんのでな」
「ギギギ……ヨ……弱そう……なオンナだ。それに……そんな変な槍じゃ……ヌルの相手になら……ない……逃げルのなら……今の内……ダゾ?」
「……やれやれ。どうやら過大評価し過ぎていたようだ。よもや外見で実力を量るような小物だったとはな。仕方ない、少し遊んでやるとしよう」
まずは召喚者フィオナと棺の怪物ヌル。
共に明らかに人間離れした身体能力を秘める者同士が先んじて一歩前に出ていき、フィオナは究極の槍【黒雷の魔死槍】を、ヌルは味方をも惨殺した上腕の刃を出して身構える。
そして――
「グリフ……様」
「セリカ、もう少しの辛抱だからな。だから気を強く持ってあと少しだけ待っていてくれ。依頼通りに必ず俺達が助けてやるからな! 必ずだ!」
「はい……」
フィオナ達に乗じてこちらも幕が上がり、
「けっ、女の前だからって下らない正義感面でカッコつけやがって。絶対に嬲り殺しにしてやる。永久追放されてからの俺様がこれまでに味わった屈辱の分もたっぷり込めて、絶望させてやるよ」
「絶望するのはお前だ、ディアス……たとえ死にかけになったとしても俺は絶対にお前を倒す。それだけだ。それだけが俺の責任の取り方なんだ」
今まさにその激しい戦いの火蓋が切られようとしていたのだった――
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次話は17日(金曜日)に投稿予定です。




