25話 番人
明けましておめでとうございます。
【望みの魔宮 最深部】
「今……なんて言いやがった?」
……少女のような姿だった。
「聞こえなかったのか? 残念だが貴殿の願いは叶えられない。妾はそう申したのだ。確かに経緯はどうであれ、現状としては上層階の魔物達を駆逐し、この最深部までやって来たのは事実だ。それは認めてやろう」
ディアスが黄金の腕輪を手に取った瞬間。
「おいおい、あんまりふざけるなよ。最深部へ到達した奴の願いを叶える。それがこの【望みの魔宮】ってダンジョンの売りだろ? それをいちいち難癖つけやがって……てめぇ、いったい何様のつもりだ? 良いから早く俺様の願いを――」
「ふっ、まったく……口の減らない男だ」
突如、彼女が場に出現した。
願いの力を守護する者。願いの番人として、
「若人よ。一つ助言だ。あまり品の無い言葉は多用しない方が良いぞ。言葉とは人間の底を図る天秤に似ておる。どれだけ身の回りを取り繕っても、結局は言葉遣いでその人間の底などある程度は容易く測れるのだ。ただの小物か強者かをな」
その【盲目の番人】は語った。
風貌として目隠しをするように目元を布で覆い、一見年齢としては10にも満たないような小柄な体に背丈に合っていない大きなローブのような衣服を纏った風変わりな外見をしており、
「何が言いたい?」
「ふふっ。わざわざ口に出してやらねば自覚出来ぬのか? つまりだ。貴殿は“小物”だという事だ。『望みの内容』も陳腐。おまけに発言にも品が無い。他の連中はどうかは知らぬが、少なくとも妾からすれば貴殿に好感は持てんな」
「て、てめぇ…………」
さらに発言も外見同様、これまた異質。
少なくとも背丈では頭二つ分以上の差はある筈のディアスに対し、気後れする様子など一切見せずに強気に発言を繰り広げ、あまつさえ嘲笑と煽りすら交えていくまで口達者に言葉を振るった。
さらに、流石は番人というべきなのか――
「ヌル、この願いの番人を自称する女を後悔させろ。この俺様を誰と心得て、偉そうな口を叩いているのか。お前の力を持って思い知らせてやれ」
「リョウカイ……マスター・ディアス」
ギショォォォォォォンッ!
「マスター・ディアス……へノ侮辱……ヌルは許さナい。それに……オマエみたいな弱そうな奴……ヌル……いつでも斬れる……忘れるな……ヨ」
……大人顔負けの迫力。
「さあて。どうするね? 番人様とやら。このまま俺様がそいつに命令を出せば、その可愛らしい顔と胴体がお別れする羽目になるが……悪い事は言わねぇ。謝罪するなら今の内だぞ?」
そう、ディアスは本当にあとすんでの所。
自身を小物と侮ったのみならず嘲笑を含めた番人へ、彼は機嫌を損ねた代償として怪物ヌルを差し向けると、その喉元めがけ上腕部から伸ばした刃を突きつけさせ番人の動向を伺うのだった。
ヌルの殺気と刃に気圧され謝罪するか。
己を嗤った事を反省し、命乞いをするのか。
はたまた涙ぐみ、黙って願いを叶えるのか。
「さあ。答えを聞こうか? お嬢さん?」
いざとなれば俺様にはヌルがいるから大丈夫。
ディアスはそんな誰から見ても圧倒的優位な立場にあるよう己を誇張。笑みを浮かべて得意げに番人へ煽り返していき、心中ではどんな反応をするのかを期待しながら返答を待つのだった。
けれども――
「ほほぉ。よもや貴様が妾に刃を向けるか……だが、所詮は無駄だ。妾に脅しの手は通じぬ。それにこのまま別に斬り捨てても構わぬぞ。なにせ、もしその時は貴殿が願いを叶えられぬだけだからな。好きにするが良い」
「…………ちっ、戻れヌル。どうやらこの番人様の仰る通り、安っぽい脅しは一切通用しねぇようだ。くそっ……せっかく面白い顔を見れるかと思ったのに、残念で仕方ないぜ」
「ふふっ、賢い決断だな」
眉一つ。
ピクリとも動かずに弾き返した。
番人は自身の細い首元まで血痕残る刃が迫ってたにも関わらず、怯えるどころか逆に微笑むとその凄まじい肝の据わり具合をディアスに思い知らせ怪物ヌルを退かせたのだった。
……そうして。
「で……一体どうしろってんだ?」
期待を大きく裏切られたディアスは呼吸を一つ挟むと、話題の切り替え。
「てめぇはさっき俺様はこの最下層へ辿り着いた事を認めると言った。ってことは……要するに俺様の願いを叶える気はあるって事だよな?」
自分を小物呼ばわりした件は一旦流すと、彼は本来の目的である『願いの力』へと話の方向を戻していき確認も併せて番人へと尋ねていく。
「ふっふっふ。いくら小物とは言え、そこまで愚かでは無かったか。さよう、貴殿の申した通りだ。たとえ殺人鬼や狂人や外道であっても、この最深部へ到達した者には等しく『願いの力』を授けるのがこの魔宮の本質だ。貴殿とて例外では無い」
チッ。ディアスは舌打ちを鳴らす。
そして続けて、だったらグダグダと無駄口叩かずに俺様の望み【王座復権】を叶えやがれ! と声には出さず内心のみで毒づきつつも話を進めた。
「じゃあ早く教えてくれよ。どうやったら俺様の願いを叶えてくれるんだ? まさか踊ってお前を楽しませろとか馬鹿な話じゃないだろうな?」
「ふふふっ。それも良いが……まあ、そう慌てるな。なあに、望みの番人である妾がこれから出す【試練】に合格すれば叶えてやろう」
「……ああっ? 試練だと?」
「そう、試練だ。だが安心せよ、小難しい課題を与えるワケではない。単純だ。現在この最深部へ向かっている一行と戦って勝利せよ。同じ『願いの力』を求める挑戦者同士で戦い合うのだ」
「……はあっ?」
すると……望みを叶える手段は明かされた。
しかし、あまりに唐突過ぎて理解出来なかった。
よってディアスは大きく首を傾げると、
「……この場所に向かっている一行だと?」
この番人様は何をほざいてやがる?
俺様以外にこの【望みの魔宮】へ降りた人間なんかいるワケが無いだろ。情報は可能な範囲でシャットアウトしていた。仮にどこからか漏れた情報を掴んできた連中も全て始末した。
(……まして、さっきの第四階層を突破できるような強豪ギルドに漏れていたような様子も兆候も無かった。それにいくらヌルがボス格のゴリアテ・デッドを始末したとはいえ、今頃はまた手強いアンデッド系が湧いているに違いない――)
つまり、あり得ない。
どうせただのハッタリだ。
どこのどいつか知らないが、あの面倒なアンデット系モンスターの群れを突破できるような連中が次から次へと現れる筈が無い。現れて堪るものか。
――よって要するに虚言。
「ちなみに……それはどんな連中なんだ? 風貌は? 人数は? 把握している範囲で教えろ。そんな試練を出してくる以上は分かるんだろ?」
なら確かめてやる。
意味の分からない試練内容に苛立ちを覚え始めるディアスはそう鎌をかけるように、果たしてコイツは願いを叶える気があるのか、確認の意味も込めて問いただしていった……すると?
「ああ、3人だ。そしてその中には貴殿にとって因縁のある者も混じっているようだ。現に何度も貴殿の名を口にし、殺気立っているぞ」
「はあっ!? 3人……3人だとっ!?」
おいおい……おいおいおいおいおい。
3人!? たった3人如きであの第四階層を突破出来るワケ無いだろ!? どんな強豪だよ!? あり得ないあり得ない。
(まあ俺様みたいに強力な切り札でもいれば話は別だが――)
「そうだ。3人だ。元々は10を超える人数だったが……第四階層へ降りる前に別れた。そして今は女2人、男1人の計3人が第四階層を見事突破し、この最深部へ降りてきているようだ」
「…………………………」
コイツ……マジで言ってんのか?
いや、いずれにしろ馬鹿馬鹿しい話だ。
因縁の相手? 誰の事を言ってやがる?
(ったく、アホ臭い抗弁ばっか垂れて――)
ディアスは番人が発したそんな苦し紛れの言い訳にしか見えないような返答に、
「ふっ……ふふふふ……くくくく……」
馬鹿にしやがって。嘲笑ってやる。
テメェの言葉はただの妄言だってな。
こみ上げてくる笑いを一度抑えるべく、顔を伏せていたディアスは改めて、大笑いを浮かべ真面目に語る番人を嗤ってやろうと顔をあげ、
(こうして【力】を取られたくない一心で、みっともなく時間稼ぎしているアンタの方がよっぽど小物だってな! 自分の発言に挙げ足取られる気分を味合わせてやる!)
嗤おうとした…………だが!?
まさにその笑声溢す直前!?
「ディィィィアァァァスゥゥゥッッ!!!!」
「へっ?」
「フフフ……丁度来たようだな」
……咆哮が轟いた。
「……さあ面白くなってきたではないか。お互いこの最深部へたどり着いた猛者同士、存分に死合うがよい。勝者には文句なしで【望みの力】を。敗者には屈辱を。両者、己の願望を叶える為に死力を尽くし、妾を満足させてみよっ!」
そう……今まさに否定しようとした存在。
あり得ないと思っていた事が現実に――
「ディアスッッ! これ以上お前の思い通りにはさせねぇ! 俺達がお前を食い止める!」
「なっ、んなっ!? まさか貴様は!?」
降りてきた。
それも番人が口にした通り、互いに因縁ある相手。
かつての民を苦しめ暴君として君臨していたディアス・ギルディアと、彼を捕縛し国外へ追放したメンバーの一人である賢者グリフ・オズウェルドが再び相見えるのだった――
ここまで読んでくださりありがとうございます。
諸事情により次話は1/7(火曜日)に投稿予定です。
そして2020年もよろしくお願い致しますo(^-^o)(o^-^)o




