24話 禁術の正体
【メザーネの町 ボロドのよろず屋】
真夜中。
「ふひぃ! いやぁ、今日も実に儲かった儲かった! この前の大型バザーの時にこっそり新人の冒険者さんに格安セールをするって広告紙撒いておいて大正解でやしたね!」
町の中央から僅かに逸れた場所に佇む店。
その店主である初老の男性ボロドは一息つきながら、店頭部のプレートを【営業中】から【準備中】に裏返すと、そのまま流れるような手捌きで売上の入った袋を手に取っていく。
「ひーふーみー……よしよし! この硬貨の山だけでも200,000Gはありやすね! 上出来! 上出来ぃ! じゃあ次はこっちの銀貨の袋を――」
そしてあくまでも上機嫌に。
ボロドは袋にギッチリ詰まった儲け分の金銭を机にぶちまけると、一定の枚数ごとに積み重ねていき塔でも作るように硬貨を纏めては束ね、数えていく。
「へっへっへ……まったく笑いが止まりやせんね。これだから盗賊稼業は止められないんですよ。他所様からこっそり拝借してきたアイテムを売るだけでも、これだけの儲けだ! やっぱりアッシもまだまだ現役ってとこですかね! まあもし現場を押さえられたら速攻でブチ殺されるかもしれやせんが……まあその時はその時でやんすっ!」
盗賊ボロド。
それは神出鬼没にして伝説。
決して盗みの痕跡を残さないと噂される達人にして若き頃には逸話を多く残しただけでなく、現在でもその名や活躍を知る者であればまず、いの一番に自分の荷物が盗まれないかを警戒させる程に冒険者界隈では名の知れた人物だった。
「だが、まあ……このアッシがそんな素人みたいなドジを踏むわけは無いですし。それにここんとこはめっきりダンジョンのお宝巡りばっかりでしたしね。ったく、毎日あちらこちらの国に侵入しては宝物庫を漁っていたあの頃が懐かしいでやんす…………えっとそれでこっちの枚数が――」
しかしいくら彼でも重なる齢には勝てず。
卓越した技術こそ未だに健在だったが、それでも一線を退いたボロドは今よりも好奇心旺盛で活発的だった昔を思い溢しながら、今日もこうして稼いだ日銭を数えていく。
「この歳になって分かりやすが……若さってのはマジで財産ですよ。なんでも出来る。過ちさえ犯さなきゃどんな事にだって挑戦できる。まあ、だから若者達の誰もかれもが自由で刺激のある【冒険者】に憧れるんでしょうけど……でも夢や目標をもち信念を貫けるのは素晴らしいことでやんす」
若さを憂う。
歳を重ねた人間ならではの思考。
「たとえ危険が伴おうとも、未知なる宝や経験を求めダンジョンや世界を冒険する。傍から見れば勝手気ままですが、生き方としては憧れやす。だから今の若い方にはもっと頑張ってもらいたいでやんすね……老いたアッシらの分まで――」
タイミング的には丁度、銀貨を数え終えた頃。
ボロドは引き出しの中に入れていた店の帳簿へ数えた銀貨の枚数を記載しながら、今の若き冒険者達の繁栄を願うように発するのだった……。
「必要なら武器や防具、アイテムだって提供しますし」
人生の先輩として。
冒険者としての先輩として。
蓄えた知識や情報。築き上げた人脈などのおかげで、今もこうしてあらゆる面で若き冒険者、まだまだ雛鳥である彼らのサポートが出来るのだと独り言ながら語っていくのだった。
老いた自分達の役割は支援のみなのだと。
どこか温かい笑みを浮かべながら告げた。
「まあ、でも結局のところ――」
しかし直後。
「そんな夢とか、憧れとやら愚かな妄想に身を任せた馬鹿な若い連中から金をふんだくって、旨い飯食うのがアッシらの商売ですけどね! 結局は全てお金ですよ! 未来より金! 若者の将来なんかよりも我が身でやんすからねっ!」
台無し。
この間抜けさんがああぁぁっっっ!
良い話で終わるとでも思いやしたかっ!?
「いやぁ、本当に今日も【初心者応援セット】が完売できてよかった! ぼろ儲けですよ! なにせ盗品とかを横流しするだけで良いんだから! こんな楽で面白い職は無いでやんすよっ!」
とでも言いたげにボロドは生業の本質を暴露。
悪びれる様子など無しに、身も蓋もへったくれも無いような発言を続けて自身の経験則からの商売人……いや人の世を生きる者としての教訓。
「いくら若者だろうと、死んじまったら金を使えませんからね。だったら生きている内に金を巻き上げてやった方が効率が良いっ! なによりウチで仕入れた商品や情報で、見事ダンジョンを突破したならしたで、この店の評判もあがりますしね。どう転んでも美味しい話ってわけでやんす!」
生きるというのはそれだけ厳しいのだ!
そう言わんばかりの勢いで彼は大きく独り言を口にした。
「まあ、でもどの道アッシだってこの稼業に命を張っているワケですしお互い様ですがね」
ただし小心者のチンケなコソ泥やチンピラと違い、ヘマをして死んだ時は潔く死ぬ。ボロドは稼いだ硬貨の束を前にそんな堂々とした態度で発しながら、机に残った硬貨を片していき、
「さあてと……それじゃああとはこの売上を金庫に隠して、飯食って寝るとしやすかね」
と、いつも通りの行動。
売上の入った袋を片手にボロドは本棚裏に隠してある金庫へ仕舞うべく、棚脇に備えつけた取っ手を掴み、本棚をずらそうとした――
「よいしょっとっ!」
その瞬間。
ポトンッ。
「いてっ。うん? なんでやんすか。いきなり何かが本棚の上から……ってなんだ、こりゃあ?」
一冊。
本棚を大きく動かしたせいか、今まで棚上に隠れてたと思われるその【一冊の本】がボロドの頭上めがけて落ちてきたのだった。
「う~ん。随分と古ぼけた本でやんすね。たぶん商品じゃなさそうだ。となると……アッシの私物でやんすかね? まあ読めば分かりやすか」
いったいいつから本棚の上に乗っていたのか。
その点はもはや家主のボロドですら掴めなかったが、少なくともホコリとすすに塗れてしまい題名がまったく読めない所から、相当長い間放置されていたであろうと理解出来る一冊だった。
「えっと……どれどれ」
……しかし。
「×月×日……今日はいよいよ例の国の……おーおー、懐かしい。こりゃあアッシが盗賊稼業で名を挙げ始めた頃の【手帳】じゃないでやんすか。少し前にまとめて燃やしてたと思ってたんですが、一冊だけこんな所に紛れてたんすねぇ――」
本の正体は即座に判明。
「ふむふむ。いやあ懐かしいでやんすねぇ……確かに若い頃はこうやって集めた情報だったり、盗みの計画を書き起こしてましたね。ある時から証拠として残っちまうから止めましたけど……」
過去に処分し忘れた自分の手帳。
本人の口にした通り、あるページについては大国の警備兵の巡回状況。交代する時間。侵入口。宝物庫までの最短ルート。保険用の逃走ルート。他にも用意しておくアイテムなどなど、
「にしても。今思い返せば、アッシもやっぱり未熟な時があったんすねぇ。まあコイツも読み終わったら焼却処分行きですけど……でも中々に感慨深いもんですねぇ。過去の自分を顧みるってのは――」
また独り言を溢しながら、ペラペラと捲りかつての若い自分が書き残した内容を懐かしみながら目を通していった………………すると!?
「それから……今日は一つ気になる情報を耳にした。【命奪の儀式】という奴隷契約の儀式のついてだ……って、ありゃりゃ! どこかで聞いた事がある儀式名だなと思えば、こんな所に記してあったんですね。随分前だから忘れてやした」
読了まであとわずかという時だった。
「命奪の儀式ねぇ。確か、先日にあのグリフさんが連れてきたセリカって可愛らしいお嬢さんにかけられた契約でしたね。まあ実物を見るのは初めてでやしたが」
偶然ボロドは見つけた。
記憶が曖昧になっていた過去の情報。
契約時に寿命を奪われるだけでなく、仮に契約主の元から逃げ出しても一定期間離れたままだといずれ“契約の呪い”に吞まれ殺されてしまうという恐るべき【命奪の儀式】について――
「いやあ、でもまさかこんなタイミングで資料が見つかるとは……まあ良いでやんす。正確な情報を提供するのがアッシの仕事ですし、誤った情報は無いと思いやすが念のため情報の確認を――」
すると誤った情報を売っていないか。
はたまた自分の記憶に誤りが無いかどうか。
ボロドは見つけた手記を頼りに確認していく。
「なになに……命奪の儀式。その名の通り寿命を奪う契約。残念ながら契約の紋章、つまり刻印についての情報までは正確に入手できず……ええっと……だが聞いた話によると、骸骨に悪魔の翼を生やしたようなデザインらしい。なお次に契約内容とその呪縛についてだが――」
ふんふん、やはり間違いない。
あの時グリフさんに教えた情報に差異は無い。
ボロドはそうページを捲りながら、自分が知り得る範囲で伝えた情報が正しかったことを再確認すると途中から流すように目を通していくと、
「ふわあ……いよいよ最後でやんすか。まあ特にここまで誤った情報も見受けられませんでしたし、今日はとっとと読んで寝るとしやしょう。別に燃やすのは明日の朝でも充分間に合いやすし」
あくびを一つ交えると、彼は呑気に最後のページに焦点を当てていき内容を確認していくのだった…………しかし!?
「えっと……ただし、この呪いによって奪われた寿命については――――――――へっ!?」
まさに最後の一文だった!
かつて自分が刻んだはずのある一文。
「た、大変だっ! 急いで【この事】をグリフさんに知らせねぇと! 畜生! あろうことかこの情報屋ボロドが客相手に誤った情報を伝えちまった! グリフさん! 今すぐ行きやすっ!」
内容としてはまさに【儀式最大の特徴】。
その部分を誤認してしまっていたボロドは駆り立てられるように、慌てて店を飛びだしていくのであった。
過去の情報を見直した事で発覚した呪いの本質をグリフ達へ知らせるべく――




