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5話 歓迎式



 まさに大宴会。

 豪華絢爛な催し物だった。



「うーん! 実に見事な料理の数々だ!」

「流石は世界最強のギルドが催すだけはある」

「下手な成金が開く宴会よりずっと豪華だ!」



 ギルド『蒼穹の聖刻団』本部:宴会の間。


 今宵、一団は他の冒険者ギルドとは比較にならぬ規模を誇るこの豪邸(本部)にて、新たな仲間である賢者ディーンの歓迎式もとい豪勢な式典を執り行っていた。



「この酒も素晴らしい……一晩中味わえそうだ」


「まったくです。これも豪快なギルド長のドノヴァン様の采配あってこそ。本当にこのような式典の招待に預かれて我々は幸せ者ですな!」



 世界最強ギルドの催し物につき、場に用意された食事も酒も招かれたゲストの数も他の冒険者ギルドの祝い事とは格が違い、もはや王城の社交界かと見紛う華やかさ。



「そういえば肝心のドノヴァン殿は?」


「ああ、彼でしたらあちらですよ。副ギルド長のエルーナと()()()で揉めてるようで……」


「例の件と言いいますと、まさか前の賢者の?」

「えぇ。あの初級魔法しか扱えない無能な――」



 数日前より綿密に準備されていたその豪華さはゲスト達全てを魅了。


 中には一団と親交のある上位クラスのギルドのメンバーだけでなく、各国の有力者達までもギルド本部に招かれており、いずれも随所に金をかけた式典を満喫。



「まあ、俺はあのグリフって賢者を追い出して正解だったと思うけどな。そもそもウチのギルドでもあんな役立たずがいたら遠慮なく追放だぜ」


「あら? リーダーもそう思います?」


「当たり前だ! それよりも皆もっと食おうぜ! せっかくドノヴァンさんが俺ら【春風の翼】を招待してくれたんだ! 新しい賢者さんの紹介も終わったし、たっぷりご馳走になろうぜ!」


「「「「さんせーいっ!」」」」



 そうして現在。


 今回の主役にして、ギルドへ新たに加わった新人賢者ディーンの紹介を終え、既に会場内は自由行動。各々が会話に花を咲かせたり、用意された贅沢な食事に舌鼓を打ったりと余韻の時を楽しんでいた………………はずだったのだが?




「なあ、エルーナ……いいかげん機嫌直してくれよ。確かにお前の承諾なしにグリフを追放したのは悪かったよ。でも仕方ないだろ? アイツは俺達にとって()()()だったんだからさ」




 ――しかし?



「黙れドノヴァン。お前とはしばらく口も利きたくない。むしろお前の面見るだけで吐き気がしてくる」



 約一名。

 副ギルド長のエルーナだけは違っていた。


 笑い声や賑やかな談笑が広がる中、隅っこの卓で座っていた彼女だけはやたら怪訝そうな表情を浮かべての立腹。今もこうして式典用の背広に身を包んだギルド長ドノヴァンと口論を繰り広げる始末。



「おいおい……せっかくの祝いの席なんだぜ? お前も副ギルド長らしく楽しそうにしろよ。この歓迎会を主催した俺の顔を立てると思ってさ」



「ケッ、なにが歓迎会だ笑わせんな。長年苦楽を共にした仲間を勝手に追放しといて、今さら誰を歓迎しようってんだ? あんまりふざけたこと抜かすといくらお前でもただじゃおかないぞ」



 ぴしゃりと跳ね返すエルーナ。



「で……でもよ――」



 対しなだめるどころかさらに機嫌を損ねたドノヴァンは焦りながら言葉を模索する。


 しかし、彼が適切な発言を見繕っている間に、



「別に新規の仲間加入なら構わない。でもお前がやったのは言ってしまえば()()()()だ。グリフを追放して、あそこでニコニコとお話してるイケメン秀才の賢者様と取り換えたんだ」



 エルーネは分かりやすく指を指して発する。

 めでたい祝賀会にもかかわらず、終始自分が顔をしかめている原因の()()()()()。 


 今も中央のテーブル傍でゲストやメンバーに囲まれ、豊かな表情で談笑する賢者ディーンを、



「そ、それは――」



「私が思う仲間という単語の真骨頂は“絆”だ。どんだけ優秀な奴が集まっても背中を預けられないようじゃ話にならない。私にとってグリフはそういう信頼のおける奴だった」



 賢者ディーン。

 晴れやかな空を思わせる青髪に女性にモテそうな端正な顔立ち。色男という言葉が良く似合う彼の姿にエルーナは目をやった後、グラスの酒を口に含んでさらに続ける。



「……確かにグリフは私達からすれば()()()()()だったかもしれない。でも私はアイツのそういう欠点も含めて親しみを覚えていた。なにせこのギルドを結成した当時からの旧友だったからな」



「……………………」



「けど、私はこのギルドに辟易(へきえき)したよ。なぜ誰もグリフを引き止めなかった? そもそも本当に仲間だと思ってたんならこうはならなかったはずだ。ドノヴァン、お前も含めてな」



 非常に厳しい言葉の数々を――



「そんで? 追放から舌の根も乾かない内に歓迎式だと? いつから【蒼穹の聖刻団(ここ)】はそんな薄っぺらなギルドに成り果てた? そもそも私達は他人が向ける評価(メンツ)とやらに固執する為、冒険を始めたワケじゃ――」



「おいおい……お前ちょっと酔い過ぎ――」



 しかしいくら副ギルド長とはいえ、留まる事なく悪し様にギルドの苦言を呈するエルーナの言動に流石のドノヴァンも痺れを切らしたのか、



「ほ、ほら……あんま酒ばっか飲んでると二日酔いになるぞ。とにかく気分を切り替えてこの肉料理でも食えよ! 旨いって評判の肉だから!」



 強引に話題を切り替えるべく行動。


 ドノヴァンは再度どうにかしてエルーナの湧き立つ怒りを抑えんと、近くの卓にあった竜肉ローストの大皿を手繰り寄せると彼女の皿へと取り分け始める。



「そら、これ食えば誰でも上機嫌に――」


「おいおい。入れ過ぎじゃないか?」


「まあまあ、文句言わずにたくさん食えって。この日の為にわざわざ他のギルドから最高の料理人を借りてきて作ってもらったんだからさ!」



 強引に言葉を流しつつ、ドノヴァンは未だ不機嫌な表情浮かべる相方に慣れた手つきでメイン料理の一つである海竜【オーシャンドラゴ】のロースト肉を次々と乗せ、



「よし完成だ! さあ食ってくれ!」


「……ちっ」



 最後の仕上げとして赤ワインをベースとした甘めのソースをかけて形にすると、早速ドノヴァンはエルーナへ食べるよう促した………………だが、残念ながら――



「あ……あのぉ?」



 彼女が肉を口へと運ぶ事は無かった。なぜなら、



「大丈夫ですかエルーナさん? それにドノヴァンさんも。先程まで揉めていたようですが……」


「へっ?」

「うん?」



 まさにエルーナが渋々肉の積まれた皿へ手を伸ばした矢先。

 ()()()が彼女の脇から声をかけ、気を引いたからだった。



「たぶん僕の事……ですよね? 既に他の方から伺っています。元々このギルドにはグリフさんという前任者がいた。でも僕の加入につき追放という悲しい結果で別れてしまったと――」



 そして妨害した声の主というと、



「て、テメェ」

「お、おいディーン。なんで――」



 まさかの話題に挙がったディーン本人だった。

 メンバー達との会話に勤しむ最中、彼はギルドを治める者同士が口論する様子を目にしていたのか、仲裁の意味も含めてエルーナ達へと語りかけていき、



「でも、僕だってこのギルドの為に頑張る覚悟です! ですのでグリフさんの代わりは出来ませんが、信頼を築けるように奮闘していきますのでどうかよろしくお願い致します! では!」




 そうハッキリとした声量で一言だけ。

 自分が加入したこの蒼穹の聖刻団への意気込みをしっかり言い残すと、優しく爽やかな笑みを浮かべながら、そよ風の如く軽やかな姿勢で退いていくのだった。



「ほ……ほらな、今の見たかエルーナ! 良い奴じゃないか! 今はまだ慣れないだろうけどすぐに打ち解けるようになるって。だから今日は楽しく飲もうぜ! 折角の歓迎式なんだからさ!」



 対しドノヴァンは真面目を絵に書いたようなディーンの姿勢に思わず気を良くしたのか、勢いに任せて場を和ませんとばかりに懸命に笑いながら発した。



 だが、肝心のエルーナは――



「……ドノヴァン。わるいけど飲み過ぎたせいか気分が悪くなってきた。私は自室に戻る事にするよ。だから後は気にせず好き勝手にやってくれ」



「お……おう分かった。だが前に言った通り、近日中にはあの超難関ダンジョンと名高い≪望みの魔宮≫を攻略する予定だからな? もしも酷いようならラックレーに薬を煎じてもらって治しといてくれよ!」



「はいはい。分かったよ」



 なにか気分を害したのか。

 結局エルーナはドノヴァンが用意したロースト肉には一切手を付けずに離席。そのまま誰とも会話を重ねる事なく離れていくのだった。



 ……そうして。



(今アイツ(ディーン)が私達へ向けた笑顔。心なしか仮面みたいに見えたが私の勘違いか? それにさっきまでの会話の様子といい、どうも薄気味悪い気配もしたんだが……気のせいか?)



 謎の拭いきれない違和感をそのままに。

 エルーナはまだ賑わいを見せる宴会の間からも離れ、一人自室へと戻るのだった。



ここまで読んでくださりありがとうございます。

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