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12話 帰国



 ……戻ってきた。



(みんな……)



 セリカはそうかつて身を置いていた場所。


 謎の武装集団が起こした火災により跡形もなく崩壊し、今では焦げた建材の一部しか残っていないすっかり変わり果てた教会の跡地を眺めていた。



(神父様、今までありがとうございました……そして貴方様が命を(なげう)ってでも誰かを護ろうとしたその意思は必ず私が引き継ぎます)



 ギルディア王国への入国時。

 グリフが予め国王クロード・ギルディアへ謁見許可を求めるよう書簡を出していた事もあり、さらに門番達へも国王直々の伝令が下っていたのか、入国審査もスムーズに完了。


 よって残すは王控える城へ赴き、謁見を済ませるのみとなっていたのだが……流石に入国直後に軽々しく会いに行けるというワケでも無く、



(あの時……路上で飢え死にしそうになっていた私を温かく迎えてくれたあの時のように、今度は私が子供達の心の拠り所になってみせます)



 ひとまずグリフ達三人は国王クロードとの謁見の準備が整うまで待つよう門番の兵から指示があり、ギルディア国内での待機を余儀なくされていた。



(だからこそ、みんなもう少しだけ待っていてくださいね。捜索許可が下り次第に強い人達を連れて、必ず貴方達をあの暗い牢屋の中から助け出しますから。どうかそれまでは辛抱を――)



 そして、謁見の準備が整うまでの待機時間中。


 グリフとフィオナが少しでも情報集めをと城下町の住民達への聞き込みに向かった間。セリカだけはどうしてもと無理を言い、今もこうして黒焦げの廃墟と化した教会へ真っ先に赴くと終始感傷に浸っていたのだった。


 今は亡き優しかった神父と子供達に囲まれ幸せだった、かつての日々の風景を思い出しながら、一人静かに悲愴な面持ちで子供達の無事を祈って――




 すると?




「……なるほどな。ここがセリカと子供達の住んでいた教会だったのか」


「うむぅ、見たところ痕跡を見るに立派な教会だったようだ。今はすっかり焼けてしまっているが……まったく酷い事をする輩がいたものだな」



「グリフ様、フィオナ様――」



 重苦しい表情を浮かべるセリカの元に二人。


 城下町での聞き込みを終えたのか、入国直後に一旦別れていたグリフとフィオナは戻るや否や、セリカから聞いていた教会の悲惨な姿を目の当たりにして発していき、



「待たせたな。今さっきクロード王との謁見の準備が整ったってさ。まあ思う所はたくさんあるだろうけど今は国王から探索の許可を貰うのが最優先だからな。感傷に浸るのは後にしようぜ」



 聞き込み中にて兵士から伝達があったのか、謁見の準備が整った件についてグリフは自分達の声に反応し振り返ったセリカへ告げていき、



「それに、あの優しいクロード王ならアンタの事情を話せばきっと何かしらの形で手を貸してくれるだろうぜ。なんだったら俺からも頼むしさ」


「ふふ、小僧の言った通りだ。これは余が情報を集めていた際の話だが、この国の民はよく笑っていた。そして民草が笑顔で生活しているという事は()()()()()()という事だ。ならばこそ試しに玉砕覚悟で頼みごとをしてみるのも良かろう」



 準備が整ったと言うだけには留まらず。

 ただでさえ時間が逼迫(ひっぱく)する中で、ただ謁見するのみで済ませて無為に貴重な時間を浪費するのではなく、王国側にも協力要請を仰ぐように提案するのだった。



 対して当人のセリカは二人が告げるまま――



「分かりました……お二人共ありがとうございます。では早速クロード王の元へ参りましょう」



 正直なところ。心中では一刻も早く子供達を助け出したいという焦りも拭いきれずにいたが、それでも円滑に捜索を進めるべく表情そのままに王城向けて足を進め始めた…………その瞬間!?



「――にしても、小僧よ。やはりここは随分と楽しそうな国だな! 我々が身を置いていたあのメザーネの町や王都バトラントもまた違った風景とは違った雰囲気を持っているではないか!」


「ああ、そうだな。なにせ今は笑いの絶えないような国になっているからな。市場とか人がにぎわう場所に行けばこっちまで微笑みたくなるぜ」



 ……あまりにも分かりやすく(表情)に出ていたのか。



「……えっ?」



 唐突な二人の発言に思わず困惑するセリカ。


 しかしグリフ達からすれば実際に教会の焼け跡を目の当たりにしたうえで、セリカの表情から思い出し難い惨劇の記憶が蘇り、今もなお思い詰めているであろうと察したのか、



「そうであろう、そうであろう。ならば目的を達した後はしばらくこの国に滞在しようではないか! 何せここには余の知らぬ娯楽や書物が眠っていそうだからな! 残る価値は充分あるぞ!」


「おいおい、観光に来たんじゃねぇんだぞ?」


「しかしだなぁ……小僧よ。ほれ、この張り紙を見るがよい! さっき掲示板に張ってあったのを拝借してきたんだが、近い内に【力自慢大会】を開催するそうではないか! よって、これは最強の女帝である余への挑戦状であると――」



「目的忘れてませんっ!?」



「…………………………」



 まるで暗い表情ばかり浮かべていては成功など到底掴めないとでも言いたげに、二人は他愛の無い冗談を交えてセリカの重苦しい表情を少しでも(ほぐ)そうと働きかけていくのだった。




 ――そうすると?




「ふっ、ふふふふ。もうフィオナさんってば本当に次から次へと興味を持つんですから。さっきの入国時も子供みたいにはしゃいで――」



「はっはっは! 何をいまさら! 当然ではないか! 余にとってこの世界の全てが新鮮なのだ。まあ中でも特に食文化については紅茶までならまだしも、ケーキや生クリームなどという非常に甘味な物がある事に余は感動して――」



「あれ、なんか嫌な予感が……」



 グリフ達の優しさを汲み取ったのか。



「そうだ、小僧! せっかくこうして異国へと来たのだから()()()()()()()()()()()()を――」


「いや今から王様に会うっつったよね!? なんだあれか!? お前の頭はニワトリか何かなの!? 三歩歩けば忘れて心変わりする感じ!?」


「むむっ、失敬なっ! 貴様いったい誰の頭をニワトリ呼ばわりしておるのだっ!? せめて例えるのであれば()()()()()()()にでもして――」


「いや鳥の段階から何も変わってないんだけど!? ってか、俺が言うのもなんだけど鳥頭は否定して!? 相棒として情けなくなるから!」



「ふふふ! お二方とも本当に面白いですね」



 セリカはこれからの子供達の救出を必ず成功させる為にも気持ちを落ち着かせんと、眼前で軽い冗談を交える二人に添うように表情を和らげると、楽しそうに会話に参加していくのだった。



 目的地であるギルディア城を目指しながら――


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