31話 再会 ➁
……思わぬ来客だった。
「おーいグリフ! 私だ! エルーナだ!」
「……どうしてここに」
グリフが家内の掃除をしていた最中のこと。
掃除の邪魔になるからと外出を強要された召喚者フィオナがメザーネの町中を巡っていた際。妙に見覚えのある黒髪の美女が【大きな荷物】を抱え自分の家を探しまわり、住民達へ次々と話を聞いていた場面に遭遇した。
「すまん……話そうか話すまいかで悩んだんだが、最後はどうしても一目会いたいとせがまれてな。だからこの家に案内したというワケなのだ」
「なるほど……それで俺の家に――」
「まあまあ、グリフ。あんまりこの人を責めないでやってくれよ。ただ単に私がワガママを言って無理やり家に案内してもらったんだからさ!」
そして結局のところ。
既に町の住民から聞いた情報もあってか。
町中を出歩いていたフィオナ自身がグリフと同じ家に住んでいるという目撃情報までバッチリ知った影響で、散歩していた彼女はエルーナに取っ捕まった挙句に半ば強引に案内役を任されたのだった。
「いや、別に怒ってるワケじゃないけど……」
と、まあこうしてグリフは突然のエルーナ訪問に驚きつつも事の経緯を把握していくのだった。
そして同時に彼にとってここ数日で最も会いたかったであろう人物が、こうして自分の元へと訪れた理由についても幾つか察しながら…………だが?
「……それで? なんでウチに来たの?」
「……へっ?」
「いや、その……なんだ。アンタとは確かに仲が良かったし大切には思ってるんだけどさ。俺はもう追放された身だぜ? だからわざわざ――」
グリフはあえてしらばっくれた。
元同僚であり仲の良かった女性である彼女、副ギルド長エルーナ自身がわざわざ自分を探して訪ねてくる心当たりなど【一つ】以外に該当しない。
しかし。その肝心の理由については、彼女が纏めるギルドでありグリフの古巣『蒼穹の聖刻団』メンバーへ口止めをしていた筈だった。
(そうだ……俺は復活させる前に――)
今回、グリフは自分が願いの力を使って眼前で元気そうに座っている“一度死んだ彼女を生き返らせた”という真実を隠蔽。
そして自らの指示で隠蔽用のカバーストーリーとして、自分の手柄では無くあくまで『蒼穹の聖刻団』が助けたという嘘で隠しエルーナの仲間を信じようとする気持ちを踏みにじらぬようにと、蘇生時に彼はメンバーへ告げていたのだった。
……しかし。
「おいおい……今さら何をとぼけてんだよ? ドノヴァンからちゃんと聞いたんだぞ? 私があの《望みの魔宮》ダンジョンで裏切り者のディーンに殺された後。同じく挑んでたお前が最深部で手に入れた願いの力を使って私を蘇らせたって」
「……………………」
「……だからさ、私はお前に一言礼と謝罪を言いにお前を必死に探していたんだ。生き返らせてくれた事への礼と、私なんかの為に貴重な【願いの力】を棒に振ってしまった事への謝罪をな――」
……あれほど言うなって口止めしたのに。
グリフは真っ先にそう感じた。
もしやエルーナ自身が恐ろしい表情でドノヴァンに問い詰めたのか、はたまたあり得ない事だが自分を追放した罪悪感のような感情から出た行為なのか漏れた原因こそは掴めなかったが、少なくともグリフは漏洩した事に眉をひそめながらも、
「謝罪なんて要らねぇよ。礼だけで充分だ。俺にとってアンタはかけがえの無い人物だった。だから【願いの力】を使ってでも笑って生きていてほしいと思った……それだけだ。後悔はしてない」
「グ……グリフ――」
ハッキリと告げていった。
自分にとってエルーナという存在がどれ程大きな存在だったのか。
口止めに失敗し当初の予定とは少しずれたが、こうして彼女が自分の前へ訪れてくれた事がどれ程嬉しいのかを口にしていった…………そして。
「まあとにかくだ! またこうして会えて良かったよエルーナ。本当にアンタの死体を見た時は全身の血が凍りついた感じがしたからな……だからもうあんな気分にさせないでくれよな!」
「……どうしよう、私の知らない間にグリフが《女たらし》のスキルを習得していたんだが……お前ってばいつからそんなカッコいい男に――」
「……へっ?」
素直に再会を喜ぶのだった。
ただし自分の発した言葉について、なぜかエルーナが頬を赤く染めて恥ずかしがったりと可愛らしい反応を見せたり、照れ隠しからの女たらしという発言には理解を示せずにいたが……。
「それで……少し気になってたんだけど今『蒼穹の聖刻団』はどうなってんだ? また懲りずにドノヴァンの奴が新人の賢者枠でも探して誰か優秀な奴でも勧誘しようとしてるのか?」
そんな鈍感振りを見せた直後。
グリフは続けざまに副ギルド長であるエルーナへ現在のギルドの動向をそれとなく尋ねてみた。
「俺が見た限りだとあの魔宮ダンジョン最深部に眠ってた宝は相当な量だったからな。だから懐もホクホクしてるだろうし、新たにもう一人雇うくらいなら金銭的にも余裕で雇えるはず――」
別に今更謝罪されたところで戻る気などは更々無く、あくまでグリフにとって世間話の一環程度に過ぎなかったが密かに気になっていたギルドの現状についての詳細を求めていくのだった。
すると?
「ああ……【アレ】はもう“解散”したよ」
「…………えっ?」
エルーナは遮ってさらりと告げた。
世界最強の冒険者ギルドとまで謳われた誉れ高い『蒼穹の聖刻団』は既に解散したと。
「かい……さん?」
「そうだ。望みの魔宮から帰還した直後だ。全員お前とそこにいる……えっと、フィオナさんだっけか? ともかく二人の発言に面を食らって全員本部に戻ってからは士気も下がりきっててな。馬鹿なドノヴァンは最後まで反対してたが、皆の意思を尊重する意味で私が解散を提案したんだ」
続けてフィオナは理由を並べた。
追放されるまでは所属していたグリフにとってもわかりみが深い解散に至った経緯の詳細を、
「あのギルドは【名声】に溺れ過ぎたんだ。名声、名誉なんていうのは所詮他人が決める評価に過ぎないってのに……私達はそれに甘んじて調子に乗っていた。だからいつしか“絆”っていう大切な物を捨てて外面だけを綺麗に保とうとした」
「……そうだな。追放時に散々聞かされたぜ」
「それに破滅の兆候だって既にあった。その最たる例としてはギルド長であるドノヴァンと私の支配権が日増しに強くなっていって、今じゃあドノヴァンの命令や指示に対して誰も反論出来なくなっていただろ? あれが分かりやすい破滅の第一歩だった……お前も分かるだろ?」
「ああ……もうギルドメンバー内にドノヴァンに逆らえる奴なんか一人もいなかったからな。ガイールもジェシカも皆ドノヴァンの命令にただ従ってた。心中ではどう思ってたかは知らないけど」
「そうだ。まさにその通りだ。私達はあくまで仲間だ。確かに士気を高める為に導くリーダー役は必要だったが、それぞれが持つ権限的には皆が平等だったはずなんだ。なにせ“同志”が集まってギルドを結成したんだからな。志しを同じくする仲間の間に優劣なんてものがあるワケが無い」
内情を分かっていながらもズレ始めていったチームの方向性や意識の変革を止められなかった。
そんな追放されたグリフにしても想像がつきやすい解散理由であり、その後に続けて並んだ内容も仲間思いのエルーナらしい発言の数々だった。
「……だから解散させた。どうせあんな士気の下がった状態じゃあまともなクエストだって達成できないだろうし、危険なダンジョンへ挑戦しようものなら墓石と棺桶が必要になるだろう」
「統率も出来なくなって、メンバーのやる気も失われたギルドは崩壊する……か。いかにもこれまで色んなギルドの末路を見てきたアンタらしい……」
グリフはエルーナが思い耽ったような重い表情で語ったギルド解散の理由について納得した。
もはや冒険者ギルド云々の問題ではなく、一つの集団が活動する為に必要な団結力や意思といった要素が欠落してしまい散り散りになった事に。
「と、まあ……それで各々のメンバーは自分のやるべき事を決めて散っていった中。私も晴れて現在はフリーの冒険者になったワケなんだが、一つだけお前に渡さなくてはならない物があってな」
「俺に……渡さなくちゃならない物?」
「ああ……って言っても、さっきまで私の抱えていたあの荷物の正体なんだけど――」
「あの玄関にある馬鹿でかい袋か」
するとエルーナはここで話題を一転。
解散理由について述べた後、解散したメンバーの各々のその後は多く語らず僅かな情報だけに絞り、自分が運んできたズシリと重みのありそうな荷物へ注目するようグリフ達へ告げると――
「そうだ。それで中身なんだが、実は未払いになっていたお前の【退職金】がたんまり入ってる」
「……へっ? 俺のたいしょく……きん?」
「そうさ。そうだなぁ……一応中身の方は魔宮ダンジョンでお前が譲ってくれたっていう宝物の一部に加えて、ドノヴァンの蓄えから強引に引っ張ってきた宝物で確かな金額は分からないが……たぶん総額としては【5,000,000】Gくらいかな」
「ごひゃっ!? は、はいぃぃっっっ!?」
エルーナはまたしれっと伝えるのだった。
当人にとってはもう忘れていた退職金という思いがけぬ単語から始まり、続けて5,000,000という大金の2つの衝撃をまるで挨拶でもするかのような軽さで発しグリフを驚愕させていった。
「……こんな金で私達がお前を追放した贖罪になるとは思っていない。だがこの金は本来お前が受け取る権利のある金だったんだ。だからどうか収めてほしい。まあ……額面については解散の時に分配していたから少ないかもしれんが――」
「いやいや逆に充分過ぎる額なんですけど!? っていうかそもそももういいやって諦めてたし! こうして貰えるだけも充分嬉しいんですが!?」
本当に……どこまで義理堅い人間なんだ。
グリフはそう心中でエルーナに対する信頼度をさらに跳ね上げると、改めて彼女が持つ器の大きさに対してまだまだ自分は足元にも及ばないなと思い知らされると、
「んで……アンタはこれからどうするんだ?」
解散後の彼女の動きについて尋ねる。
行くあてはあるのか。何か困っていないか。
自分が手助けできる事は無いのかと、今なお大恩あるエルーナを慕い続ける形でグリフは今後についてをそこはかとなく問うていくのだった……すると彼女は。
「私か? そうだなぁ……まだギルド本部の後始末が残っているから一度は王都バトラントに戻るにはなるだろうけど、もしかしたらそのまま首都に残るかもしれない。なんやかんやであそこは色んな物が集まってて居心地が良かったからな」
「……そっか」
良かったらこの町に移住しないか?
思わずそう口に出しそうなグリフだったが、首都バトランドであるならば距離としても5マイル程度の為会おうと思えばいつでも会えるだろうと思って口を止めた。
「えっと……それから実はもう一つ伝える事があってさ。こっちはグリフじゃなくて――」
「……うん? 余の顔を何か付いているか?」
そうしてエルーナは礼の言葉、ギルド解散、退職金。さらに己の今後についてグリフへ伝えるべき話を一通り伝え終え一段落ついたかと思えば、最後に傍で黙聴していたフィオナの元へ席を立ち近づいていくと、
「……フィオナさん、私の大切な友人であるグリフをどうかよろしく頼みます。時々ひねくれた発言をしたりする奴だけど、貴方も知った通り情の深い優しい人物なんです。ですからどうか――」
「アンタは俺の母親か!?」
「うむ! 確かに任された!」
……託すのだった。
自分なんかよりも圧倒的に強いと直感で判断したのか、エルーナは『蒼穹の聖刻団』から離れてしまった優しき賢者グリフを底知れぬ気配を持つ女帝フィオナへ…………そうして。
「ぐぬぬ……頼むから張り切り過ぎて変な事しないでくれよ。俺には俺の時間ってもんがあるんだからさ。あんまり邪魔ばっかしたら怒るぞ?」
「またまた、グリフってばそんな事言って強がって……こんな美人さんと一つ屋根の下の暮らしてんだからもっと喜んでも良いと思うんだけど……まあ、頼むから“変なこと”だけはするなよ? 女性って言うのはお前が思っている以上に繊細な存在なんだからな。もしムラムラしても――」
「襲う前提で話進めないでくれる!?」
「よし! ではこれからは魔法の指南だけでなく風呂もトイレも寝る時も常に傍について貴様を監視しておいてやろう! 光栄に思うが良い!」
「お前、人の話聞いてた!?」
ギルド追放から難関ダンジョン攻略まで。
ここ数日で幾つもの経験と慌ただしい日々を送った追放賢者グリフだったが、フリーの冒険者としての始まりとしては、こうして親友や仲間と冗談を交わし幸せに笑顔を向けあう微笑ましい結末で幕を下ろすのだった――
ここまで読んでくださりありがとうございます。
自分でも予想以上に長くなりましたがこれにてひとまず【一章】は完結となります。
詳しくは活動報告に記載していますが、現在は二章の執筆に取り組むためのプロット作りに奮闘しておりますので、書き溜めが出来次第また投稿を再開していきます。




