3話 召喚 ①
世界最強ギルド『蒼穹の聖刻団』追放後。
賢者グリフはギルド本部のあった王都バトラントより南東5マイル。
自然豊かなメザーネの町外れにて新しく居を構えていた。
「……静かな夜だ」
中々に悪くない。
屋外のベンチに腰掛けたグリフは思った。
「……おんや? 起きてやしたんですねグリフさん。どうもお世話になってやす。毎度お馴染みの盗賊ボロドでやんす。夜も耽ってきやしたんで別日に伺おうかと思ってたんでやんすが――」
「おっ、久し振りだなボロドの旦那。相変わらずまだ盗賊やってんのか? アンタくらいの《隠密スキル》があれば色々と生かせるだろうに……」
町の雰囲気についても申し分無かった。
今でこそ日が暮れ町中を出歩く数は少ないが、それでも住民の賑やかさは垣間見えており特に点々と存在する酒場付近や賭場付近。
憩いの場とされる町中央の噴水広場なども深夜でもない限り、住民達が絶える事がない。
「へへっ……これまた厳しいこって。まあアッシはこの道30年のベテランですから。いまさら他の稼業に移る気もありゃせんのです。それよりも聞きましたぜ? グリフさんがあの『蒼穹の聖刻団』から追放されたって。本当ですか?」
「ああ本当だよ。まあ今はその話を詳しくするよりも……どうだった? 俺が依頼した品は?」
また、設備や立地も万全。
クエストを請け負う集会場。さらに町から少し離れれば複数のダンジョンが突出しているなど、フリーの冒険者として生きるグリフにとってはまさにうってつけの場所だった。
「へぇ……それでしたらこちらの袋に――」
そしてそんな恵まれたメザーネの町にて、蓄えた財の大半を費やし家を構えた夜。
グリフは『蒼穹の聖刻団』にいた頃に知り合った初老の盗賊ボロドを呼んでいた。
「まあ、まずは確認してください」
「おう、ご苦労さん……どれどれ?」
そうして早速グリフはボロドが渡してくれた袋を開くと、自分が依頼した品々がちゃんと入っているかどうかを一品一品手に取り確認する。
「よしよし、このアイテムで間違いない。ありがとうボロド。アンタに頼んで正解だったぜ」
すると依頼通りだったのか。
グリフは何度か頷きを挟みつつ中身の詰まった麻袋を預かると、隣で様子を伺っていたボロドに向けて感謝の言葉を送った……かと思えば、
「ですが、そんな【不気味なアイテム】ばっか一体どうするんで? まさか食べたりするってんじゃあないでしょうね? それだと――」
「はいはい、的外れな推測ありがとう。さあて、悪いけどこれからちょっと忙しくなるから今日は報酬を受け取って帰ってくださいな。ボロドの旦那」
「ちぇっ、ちびっとくらい聞かせてくれたって罰は当たらないでしょうに。まあ分かりやした。それではお代の方は『200,000G』でやんす」
「了解。200,000ね…………200,000!?」
今度は驚愕。
分かりやすく目を丸くするグリフ。
その原因は至って簡単、ぼったくり価格だったから。
本来の相場で考えても半分の100,000Gで事足りるアイテムの筈だったのだが、グリフはものの見事にボロドにカモられてしまった。
「だって大変だったんですよ? 今夜までにそれらを集めて来いなんて……ですから、今回はまあ特急料金も込みでここは一つどうか――」
「くそぅ……払えばいいんだろ? ったく、こちとら追放されてから家代に家具代に食料品と金が出ていくばっかりなのに……勘弁してくれよな。はいよ、それじゃあ報酬の200,000だ」
「へへ、まいどあり……って、ありゃ?」
対して、特急料金という名目でちゃっかり水増しした報酬を受け取ったボロド。
しかしそう金銭をふんだくった際、彼はグリフが先まで腰かけていたベンチに残る【妙な異物】にふと目を奪われる。
「うん? どうした。ボロドの旦那」
「グリフさん。ありゃあ【石板】ですかい? 随分と朽ち果ててるみてぇですが。なんでぇ、骨董品集める趣味なんかあったんですか?」
「あ、ああ……その石板か? そうだな……まあそんなところだ。ほら、もういいだろ? 俺からたっぷり報酬貰ったんだから、旦那もおうちに帰った帰った。あと品物もありがとさん!」
だがその問いについてグリフは軽く流してはぐらかすと、そのまま客人をあしらうように依頼の礼だけを言い放ち素直に帰ろうとしないボロドを急かした。
「なんでぇ、なんでぇ。なんか不愛想でやんすね。まあいいか。そんじゃあアッシはこれでお暇するでやんす。じゃあまた何かありやしたら是非ご依頼くだせぇ。特に情報や物品はウチにお任せを!」
そうして不服を述べつつもボロドはグリフから受け取った報酬を握りしめると、初老の齢とは思えない軽やかな身のこなしで町の夜闇に溶け込むように消えていくのだった。
「ハア……早々に稼ぎ口を見つける必要が出来たが、旦那のおかげでこうして材料は揃ったな」
グリフは度重なる出費のせいで軽くなった財布にため息を漏らすと、もう一度麻袋の中を覗いて持ち前の【鑑定】スキルで品々を再確認を始める。
「えーっと……まず《大悪魔の心臓》に《カエルゾンビの干物》で《バイオスネークの毒袋》。それでこれが《竜の魔眼》。で、最後は魔法陣を描くための家畜の生き血で今回は《ニワトリの血液》だな。よしよし……それじゃあ時間もないし、材料が劣化しない内に一つ試してみよう――」
そうグリフはブツブツと独り言を溢しつつもアイテムの確認を済ませると、家の裏側へと足先を変えた。町の住人達に怪しまれないよう、日が暮れてから人目を忍ぶようにして準備した場所へ向けて――
「おっとと……肝心の【石板】を忘れるところだった。これが無いと何も始まらないからな」
ボロドから買った品々。そして――
「さあてと。こんなボロっちい石板を使ってどんな使い魔が出てくるのかは知らないが、ちょっとした魔法でも仕込んでやればクエストとかダンジョン攻略の役には立ってくれるだろう……多分」
彼がギルドから追放される際、ギルド長ドノヴァンから退職金代わりと押し付けられた石板。
それも解読が必要な古代文字にて【召喚の儀式】の手法が刻まれた朽ちた石板を脇に抱えると、他の材料と共に家屋の裏へ。
(……石板には満月って書いてあったからあの月が輝いている間に儀式を終わらせないと。出来るだけ目立たない場所でな)
未だに人が絶えない町中ではなく、家の裏手にある人気の少ない林の中へ姿を眩ますのだった――
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