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2話 その賢者、追放につき ➁



 ギルド長ドノヴァンより、追放命令を受けた翌日。



「ふざけやがってふざけやがってふざけやがってふざけやがってふざけやがってふざけやがって!」



 グリフは荒れていた。

 自室から廊下にも聞こえる声量で何度もふざけやがってを連呼しつつ、ドノヴァンの命令通りに『蒼穹の聖刻団』本部から出て行くための身支度を整えながら、



「何が役立たずの賢者だ! 俺だってまだまだ成長出来る余地はあるんだ! それをお払い箱とか……絶対に強くなって思いしらせてやるっ!」



 円卓の場で堪えていた激しい憤りを露わにし、財布や愛読していた古文書などの書物をポーチや袋へ力任せに次々に詰め込んでいくのだった……。




 と、そんな時。




「うだらあっ! グリフ! グリフいるか!?」



「うわっ!?」


 

 突如。

 ドカッ! とまるでそのまま蹴破ってくるかの如く。

 勢いよくグリフの自室の扉を開かれたかと思えば、一人の女性が部屋に飛び込んできた。



「誰!? って……なんだエルーナかよ」



 グリフは驚きつつも来訪者の姿を確認する。


 殴り込んできた女性の正体は、副ギルド長のエルーナ。

 腰まで伸びた長く艶のある黒髪に、眩しいまでに磨かれた銀鎧が特徴の容姿端麗な美女。



「ドノヴァンの馬鹿に聞いたぞ!? 私の遠征中に勝手にお前に向けて追放命令を下したって!」



「……まあな、役立たずなんだとよ。俺は」



「なにっ!? 誰がそんな馬鹿な事を――」



(……そっか、そういう事か)



 その瞬間、グリフは察した。

 どうやら自分の追放計画は()()()()()()()()()()()()で着々と算段が立てられていた事を。グリフはエルーナの反応を見て思考をそこへ行きつかせた。



 恐らく【絆】を何より重視する、情に厚い彼女の性格を鑑みての判断だったのだろう。



「皆だよ。アンタを除いた皆が俺を厄介者と認定したんだ。ドノヴァンの目前とはいえ、誰も異論を述べる奴がいなかった。だから俺は出ていくんだ。居場所を有能な新入りに取られるからな」



「だ、だけどさ……私はちゃんと知っているぞ? 確かにお前は戦闘面はからっきしだったけど、だからって別に出ていく程の事じゃあ――」



「……………………」



 グリフはエルーナの言葉に気を少し楽にする。

 元々仲良しなのもあったが、今もこうして情けない自分の美点を探しては懸命に励ましてくれるから。



「ほら……お前がいてくれるとさ。私がボケをかました時とか鋭いツッコミしてくれるじゃん?」



「俺の存在意義ツッコミ!?」



 よって、グリフは出来る限りこの優しすぎる副ギルド長(エルーナ)とは会わずに去りたかった。

 一度でも顔を合わればどうしても離れづらく、彼女に依存してしまうから…………だからこそ、



「それに、裏方の面でも――」



「もういいよ、エルーナ。権限が一番強いギルド長からの命令が下ったんだ。俺はこの『蒼穹の聖刻団』を出ていく。今さらアンタの弁護があっても誰も聞く耳なんて持たないだろうし、俺もお断りだ」



「だ……だけど。アンタの補助スキルは――」



「調合。錬金。鑑定。索敵。今度来るっていう新入りの賢者は全部持ってるぜ。それに加えて他の補助スキルを完全習得(マスター)してるんだってよ。さらに呪文についても強化魔法に高位呪文、珍しい即死呪文とかまで備えてるって話だ」



 グリフはあえて突き放した。


 自分にはもう留まる意義も価値も無い。

 正直に言えば“俺にはもう構わないでくれ”という意味も含んだ返事だったのかもしれない。



「だから冒険はかなり楽になると思うぜ」



 荷物を纏めながら言葉を続ける。


 けれども実のところ、賢者とは彼の発言通り。

 高みまで到達すれば前線で戦士たちの株を奪えるほどの瞬間火力を持ち、なおかつ仲間まで補助できるというまさに【究極の職業】と世間で謳われるほどだった。


 そこで、グリフも諦めてこう告げた。



「だから安心してくれ。次に来てくれる奴は()()()()()だから。生意気に知識と魔力は成長しても初級魔法しか使えない俺とは違うからさ」



「…………………………」



 対しエルーナも悟った。


 もう自分にはグリフを止められないと。

 実権的な意味もあったが、なによりもその諦めに満ちたグリフの瞳を見てエルーナは言葉を失ってしまった…………ただし。



「さて。じゃあ最後に()()を片付けて――」


「うん……待てグリフ。それは何だ?」



 けれども。

 そうしてそそくさと残りの荷作りを済ませるグリフにエルーナは顔をしかめた。


 彼が抱える物品へと視線をやって、



「ああ、この()()()()か? ドノヴァンが退職金代わりだって突きつけて来たんだ」



「なっ!? そんな石板が退職金代わり!?」



「ははは……ひでぇ話だろ?」



 そうグリフは苦笑いを浮かべながら、退職金代わりと渡された石板に目を落とす。


 過去にどこかのダンジョンで拾ってきた代物らしいが、あまりにも風化が酷いうえ使い道も不明という理由で、ドノヴァンは同じ役立たずの烙印を押したグリフへのあてつけと強引に渡していたのだった。



「ぐぬぬぬぬ……」



 すると、エルーナはこのドノヴァンの身勝手で卑劣な行為が逆鱗に触れたのか、



「あの野郎……待ってろグリフ! もう一回ドノヴァンの馬鹿をぶちのめして今度は退職金をふんだくってきてやるからな! そこにいろよ!?」



「やめてあげて!? 流石のドノヴァンでも【超級闘士(ゴッドハンド)】であるアンタのパンチ受けたらただじゃ済まないから! ってか、ここ来る前に一回ぶちのめしてきたんですか!?」



「あったりまえだ! さっき顔中蜂に刺されたみてぇにボッコボコにしてやったからな! でも今度はあの顔が変わるくらいに粛清して来てやるっ! でないと私の気が治まらねぇっっ!」



「まさかの事後!?」



 バキバキバキバキバキッ!

 エルーナは投げ技(スープレックス)の要領で部屋の柱に腕をかけると、そう引き千切らんとする勢いで沸き立つ怒りを露わにしていく。



「ちょいちょいちょい! ストップ! スト―ップ! エルーナさん! その柱は武器じゃないから! そんなんで人殴ったらミンチになっちゃうから! 一旦落ち着いて! アンタが怒ってくれるのは嬉しいけど、今さら暴力で訴えても俺が追放って事実は変わんないから!!」



 グリフは暴走するエルーナを懸命に制止。


 なぜか自分以上に怒り狂い今にもドノヴァンの元へ殴り込むべく、巨人の類と見紛う怪力で暴走するエルーナを必死に抑えるのだった。



「なあ……グリフ、本当にこれでいいのか?」



「……なにが? 追放の件か?」



「ああ、そうさ。主犯のドノヴァンは勿論だが、ガイールもグラントもジェシカもクレアもハンズもラックレーもマックも……全員がお前の事を役立たずなんて思わせっぱなしでさ。このままで退いちまうなんて……本当に良いのか?」



 度重なる仲間思いのエルーナらしい発言。

 どれほどの癒しがあったか数値では表せないが、少なくともグリフにとっては、



「良いんだ。エルーナがそう言ってくれるだけで俺は充分に救われてるよ。だからそんな顔すんなって、せっかくの美人が台無しだぞ?」



「……うるせぇ」



 充分に心を落ち着かせる効果はあった。



「で……これからどうするんだ?」



「そりゃあ、もちろん俺を追い出したここの連中を見返す為に難関ダンジョンやクエストを単独攻略して成り上がって……って理想を言いたいとこだけど。まずは家を買ってこの石板を調べるよ」



「そのボロ石板をか?」



「ああ。なんだか軽く解読した感じ【何かの儀式】を行う為の手法が記されているみたいだ。だから何が起こるか分からねぇけど試すつもりさ」



 グリフはまだ正体がイマイチ掴めない石板を話題を持ち出すと、荷物袋の中にしまった。



「そっか、幸運を祈ってるよ。つっても……お前って運だけは割といいから別にいらないかもしれないけど」



「まあまあ、そう言わずに祈っててくれよ。アンタの祈りならきっと効果覿面だからさ」



「……バカ」



 軽い冗談を挟みつつ、グリフはまとめた荷物片手に扉の元へ。

 明日からは()()()()の部屋に変わる自室に別れを告げるように室内へ目を何度かやり――



「……本当にもう戻る気は無いんだな」



「ああ。俺は追放されちまったからな」



「私がギルド長(ドノヴァン)に頼んでも?」



「ああ。もうどう転んでも『蒼穹の聖刻団(ここ)』に俺の居場所は無い。だったらせめて去り際くらいはあんま波風立てずにクールに去らせてくれ」



「……そうか、分かった」



 もう説得には一切応じなかった。

 ただグリフは向けられた提案を右から左へ聞き流し、何度もかぶりを振っては優しき戦友エルーナの言葉を受け入れず足を動かした………………すると?




「賢者グリフ! 本日までの我が(ギルド)での務めご苦労であった! この私、副ギルド長エルーナは貴方(きほう)のような素晴らしき仲間と出会いこれまで冒険で来た事を誇りに思う! そして……誠に遺憾な結果とはなってしまったが、貴方と過ごした日々を至高の思い出としこれからも貴方の無事を祈り続けよう! さらばだ同士よ!」




「………………ありがとう。エルーナ」



 まさに最高の賛辞であった。

 もう強引に引き止めるような無粋な真似はせず、ただエルーナは称えたのだった。これまでよく戦ってくれた。ギルドの一員としてよく頑張ってくれたと。



 対してグリフにとっても己の功績を称える彼女の激励は唯一の救いとなった。



「……俺も貴方(あなた)みたいな素晴らしい仲間と出会えた事を一生の誇りにするよ。じゃあな」



 そうして、グリフは振り向かず。

 ただエルーナにそう一言だけ手向けると、返事は聞かないまま部屋の扉を閉じ誰とも顔を合わせぬように、ギルド本部から一人寂しく去って行くのだった。



 長年過ごして来た場所から、清々しい青空の下を往く通行人に紛れるようにして――



ここまで読んでくださりありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] この副ギルドには、恩を返せる機会はくるのだろうか?
[気になる点] > 円卓の場で堪えていた激しい憤りを露わにし、財布や愛読していた古文書などの書物をポーチや袋へ力任せに次々に詰め込んでいく。 > > > > すると、その刹那。 > > > 読み始め…
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