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8話 幼き日の思い出①



 ――少女は姉のことが大好きだった。



「ま、待ってよ! おねぇさま!」



「あははは! そんなにゆっくりだと置いていっちゃうわよ! ほら、この前に教えてあげたコツを思い出して。貴方ならきっと出来るから!」



「そ、そんなのムリだよ! そんな簡単に出来るなら誰も苦労しな…………ふんぎゃっ!?」



「えっ!? ちょっと大丈夫!?」



 不器用な自分と違い、何でも器用にこなすだけでなく。それを鼻に一切かけず、どんな時でも優しく接してくれる姉に少女は憧れを抱いていた。



「んぐにゅにゅ……痛いよぉ。鼻が痛いよ。おねぇさま助けて、このままじゃあ死んじゃう」



「あらあら。もう、しょうがない妹なんだから。でも無事でよかった、さあ診せてみなさい」



「んにゅ!」



 名家の産まれということもあってか。

 両親の教育方針が非常に厳しく甘えられない影響でこうして羽を伸ばせる、唯一の心の拠り所が姉の彼女1人しかいないという所も大きく。



「はい、これで良し! にしても……貴方は本当に箒の使い方が苦手ね。もし今の様子をお母様かお父様が見ていたらお仕置きよ? そのためにも早く使いこなせるようにならないと」



「ぶううぅぅぅ……そう言っても操縦が難しいんだもん。それに別に箒に乗れなくたって、立派な魔法使いになれるもん! お母様もお父様も『かくしき?』に捉われすぎてると思います!」



「もお、またそんな屁理屈言って。そんな態度をするなら今度の試験で助けてあげないわよ?」



「それは困ります。このままでは酷い点を取って、ご飯を抜かれて餓死する未来まで見えます」



「んもぉぉぉ……それが分かってるならなおさら頑張らないと。貴方もやれば出来るんだから」



 まるで親の後をペタペタと追う小鴨の如く。

 事あるごとに少女は姉にくっついて行動し、困った時も勿論すぐに泣きついて助けを請う始末。



「むむぅ、おねぇさまは別に良いよねぇ。なんだってこなせるから。それに比べて私なんか何の取り柄もないもん。箒のコントロールは見ての通りだし、勉強だって別に好きじゃないしさ」



「いいえ、そんな事ないわ。いつも言ってるけど、あたしだって最初から何でも出来たわけじゃないの。貴方と同じように悔しい思いをしながら、何回も勉強し直す内にこなせるようになったの」



「嘘だね。そんなのあり得ないよ」



「嘘じゃありません。だからきっとこなせるようになるわ。だって、貴方は私の自慢の妹なのよ? だから私に出来た事は貴方にもきっと出来る」



「ほんと?」



「ほんとよ、だから自信を持ちなさい。どんな難題だって初めは一緒。自分は必ず出来る、成し遂げられるって信じる所から始まるんだから」



 対して、姉も同じように。


 まだ未熟な妹と違って既に勉学や魔法の腕に関しては頭角を現してこそいたが、将来の当主としての重圧が常にかかり続けているせいで、彼女もまたこなす日々の中に息苦しさを覚えていた。



「じゃあじゃあ、もう一回教えて! 試験の前に今度もう一回乗り方を教えて! 今度はきちんとマスターするから! お願い、おねぇさま!」



 よって、こうして息抜きにと妹の面倒を見るのが彼女の大きな救いになっており、その成長を見たいという高揚感も息抜きに一役買っていた。



「ええ、どうしようかっなぁ? なにしろ一回はもう教えているしなぁ。どうしようかな? 修行の為にも敢えて教えないでおこうかな?」



「あ、じゃあ良いです。その代わり今日こうしてお屋敷を抜け出した事をお母様にチクリます」



「うそうそうそうそ! 嘘よっ! うっそっ! んもう……貴方ったらたまにゾッとするような事を言うんだから……というか、それだと貴方も一緒に無断外出の罪に問われるんだけどね?」




「……………………あっ」




「もぉ、本当にしょうがない妹なんだから」



 どこを切り抜いても仲良しな姉妹。

 妹は姉を慕い、姉は妹の成長を待ち望む。

 互いが互いの心の支えにして、それぞれ今の窮屈な生活の緩衝材にもなり日々を過ごしていた。




「でもいいわ。じゃあ今度また教えてあげる! その代わりお母様には絶対内緒だからね?」



「分かった! 内緒にする!」




 だが……だからこそだったのか。

 この時点では互いに予想もしていなかった。




「じゃあ、そろそろお屋敷に戻りましょうか」


「うん!」




 この心安らぐ一時が決して永遠ではなく、脆く儚いものだったなどとは思いもしなかった。



「じゃあ私はおねぇさまの箒の後ろに乗るから、お屋敷に着いたら起こしてください」



「もお、いつまで経っても甘えん坊なんだから……分かったわ。ただし落ちないように、その固定具(ベルト)だけはちゃんと締めておいてね」



「はーい…………グーグー」



「寝るの早!?」



 それも勝手な都合で。ほんの一瞬で。

 理不尽な理由で今まで築き上げてきたこの平和がいとも容易く崩れ去ってしまうような、夢や希望などない恐ろしい闇が迫っていたことなど。




「クークー……おねぇ……さまぁ」


「もう……本当に甘えん坊さんなんだから」




 まだ幼い彼女達には知る由も無かった……。




ここまで読んでくださりありがとうございます。

もし良ければブクマ・評価等していただけると幸いです(´▽`*)


次話は2/12に投稿予定です。

投稿時間については本日のPV数を見て、変更するかもです。

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