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6話 生け捕り


【グリンモースの森 深部】



 見違えるようだった。



「ハウッ! ハウッ!」



 ザッ、ザッ、と。


 澄んだ青空に朝日が高くのぼる中で、昨夜まではまったく知らない罠に足を傷つけられ、震えながら弱々しい声をあげてフィオナに抱きかかえられていたクラウン・ウルフの子供だったが、



「ハッ! ハッ! ワウンッ!」




「おうおう、朝から元気に走り回っておるな。道中もほとんど自分の足で歩いておったし、あの様子であれば()()()()問題なさそうだな」


「ああ。どこを怪我していたのか分からないくらい綺麗に治ってたしな。セリカからも大丈夫って許しを貰ったし、すぐに一緒に走れるだろう」



 蝕んでいた傷の痛みなど、最早どこへやら。

 充分な睡眠と食事も挟んだおかげで傷は完全に癒え、今となっては命の恩人であるグリフとフィオナの周りを無邪気に駆け回っていき、



「ハウッ! ハウッ! ワウッ!」



「おぶっ!? うぶぶ……ま、またかよ」


「あっはっはっは! どうやら小僧の事もすっかり気に入ったらしい! まあ、そう邪険にしてやるな。こやつも悪気があって人の顔を舐めまわしているわけではないのだ。余も散々舐め尽くされたからよぉく分かって……って、おわっ!?」


「ワウッ! ワウッ!」


「良かったな。まだ舐め足りないってよ」



 傍で屈めば、すぐにこの有り様。


 まだ子供で、警戒するという野生が身に付いていない為かやたらと人懐っこく、隙あればグリフとフィオナに飛びつき2人の匂いを嗅ぎまくったり、手や顔などをやたらと舐めまわったりと色々と激しいスキンシップを取っていく。



 また特に……昨夜も顕著だったが、



「うっ……ううぅぅ……だ、だから耳は……そ、そこだけは弱いといっておろうに……こ、小僧……は、早く止めるのだ……顔を舐める分には構わぬが、耳は、耳だけは止めろと説得を……」


「ハウハウ!」



 当然といえば当然というべきなのか。

 自分を罠から救い上げてくれたフィオナに関しては抜きんでてそのスキンシップが激しく、全身をくまなく嗅ぎまわるのは序の口で、舐める箇所についても単に顔を舐めまわすだけでなく、



「こ、小僧……聞いているのか?」


「……………………。あっ……えっ? ああ……ええっと……な、なんて仰いましたっけ?」


「貴様……いま眺めておらぬかったか?」



 体温が上昇=気持ち良い=つまり喜んでいる。

 この短期間の間で、ある意味ではそんな理に適った恐るべき方程式を本能の内に芽生えさせてしまっていたのか。そのクラウン・ウルフの子供は自分の持ちうるスキンシップの中で、



「ま、まあまあ……なんていうか、そいつも悪気があって、そんな人の耳を舐めまわしてるわけじゃないんだから、素直に受け入れてやれよ」



「ワウンッ!」



「き……貴様ぁ……はううっ!?」



 その()()()()()()など勿論知る由も無く。


 一番彼女の体温が上がる方法……つまりこの“耳舐め”こそが自身が出来る最高の恩返しだと、その無邪気さも相まってか嬉しそうに彼女の場合は顔だけでなくその両耳、中でも“反応が良い”右耳を執拗に狙っていった………………だが、



「うっ……ぐ、くうっ! こ、小僧……そろそろ……そろそろ止めぬといくら余といえども怒るぞ? うくっ……よ、良いのか……もしもこのまま放置すれば、後で死を懇願するくらいに貴様をめちゃくちゃに辱めるぞ? 良いのだな!?」



「…………へぇへぇ、分かりましたよ」



 あくまでそれは透き通った純粋な心が独自に導き出した方程式に過ぎず、まだ『かいかん』や『せいかんたい』といった概念を知らないため、



「ワウ? クゥゥゥン?」


「はいはい……もうやめましょうね。これ以上はちょっと年齢制限(R-18)かかりそうだからさ」



 かなり脅迫染みてこそいたものの。


 きっとこの先の人生でもう二度とこんな絵面は見られないだろうと確信するほど、珍しく攻められ続けていたフィオナからの救助要請を受け、グリフは渋々と彼女にベッタリとくっついていた()()()()()()()()を引き剥がすのだった。




 そして。


 そんな微笑ましい?戯れの時間が終わり、フィオナが息をあげながら起き上がると――




「ふぅぅ……どうやら“来た”らしいな」


「ああ、探す手間が省けて良かった」




 ここへ来た本来の目的を達すべく。


 グリフは周囲に張り巡らせていた《気配察知》スキルで把握し、フィオナは持ち前の鋭い感覚で自分達へ“近寄ってくる者達”の気配を察知すると、正面に並ぶ木々の隙間へと目をやった。



 ――すると。



「グルルル……グウル」

「ガルルル……ガルル」



「うむぅ……やはり歓迎はされぬようだな」


「あったりまえだ。っていうかアレが普通の反応だよ。逆にコイツ(子狼)がまだ幼いだけだ」



 ガサリ……ガサリ……と地面を踏みながら、こちらへ慎重に近づくその存在を静かに待った。

 侵入者である自分達を明らかに警戒する唸り声を聞きながら、姿を見せるのを……そして。



「小僧、気を付けよ。連中、いつ攻撃を仕掛けてくるか分からんからな。決して警戒は怠るな」


「ああ、分かってる」




 ガサ……ガサリ。




「ウグルルルル…………」

「グルルルゥゥ…………」




 現れた。


 変わらず警戒の姿勢は緩めず、距離こそ離れてはいたものの今度は子供ではなく、正真正銘の成体である幻のモンスター金皇狼クラウン・ウルフがグリフ達の前へ。それも1頭だけでなく、



「ふむ……2頭か。恐らく“つがい”だな」


「うーん……見分け方の情報が無いせいでどっちが雄で、どっちか雌か分からないけど、多分そうだな。マジで親の個体が出てきたっぽい」



 今まさに2人が話した通り、2頭も。


 手や頭などの僅かな模様や体の大きさこそ僅かな差はあれども、思わず高値で取引される理由に納得するほどの黄金に似た美しく神々しい毛並み、生え替わった鋭くもキラキラと輝く同色の牙。


 そして……決して人間には靡かないという誇り高く、あまつさえどこか気品すら感じさせるその完成された姿と、見るからに富裕層が好みそうな外見をした大人の個体が姿を現したのだった。



「フゥゥゥ……グルル」

「ガル……ガウガウ!」



「聞け、誇り高き魔物であるクラウン・ウルフのつがいよ。余とこの小僧はお前達の味方だ。危害を加えるつもりも捕えるつもりも毛頭ない!」



 と、そんな特殊モンスター2頭を相手に真っ先に切り出したのはフィオナだった。警戒を緩めるため、まるで投降する兵士の如く両手をあげ、



「別に警戒は解かずとも良い。ただ……ただ我々はお前達へ返すモノがあって、この場に参上した次第だ。よって事が終わり次第、すぐさま立ち去ろう! それ以上は決して何もしない!」



 3歩だけ。あくまで近づきすぎないように。

 武器を持っていないことを主張すると同時に、せめて話くらいは聞いてもらえるようにと彼女1人で、今にも牙を剥いて噛みついてきそうなクラウン・ウルフの元へと歩み寄っていく。



「さあ、来るが良い。親元へ帰る時だ」


「ハウ!」



 そして、さらに警戒を緩めさせる為だったのか。フィオナはわざと背中を見せながら、待機していた子狼を呼び寄せて抱きかかえたのだった。



 そうすると?




「…………………………」

「…………………………」




 そんな彼女の誠意がなんとなく伝わった。

 もしくはしっかりと理解したのか。



「ふふ、どうやら許されたらしいな」



 モンスターに限らず、大きな隙となる背中を見せるこの行為が決定打になったのか。まだ完全に打ち解けたわけではなく、未だ姿勢を低くしたままで臨戦態勢は保ったままではあったものの。



「キュウキュウ…………クゥゥゥン」



「なあに、そう寂しそうな声をあげるな。世間は広いようで案外狭い。またどこかできっと会えるだろう。その時はまた相手してやる。だから今は親元へ帰れ。帰って仲間と共に大きくなれ。そして立派な姿になって余の元へ現れるが良い」



「ワウッ! ワウワウッ!」



「わぶっ!? はっはっは……こうして顔を舐めまわされるのも今日で終わりか。たった一日だけだったが、なんだか寂しく感じるな」



 特に飛びかかってくる様子も無かったため。

 フィオナはそのままその両親と思われる2体の元へと近づいた。不自然な動きを見せるわけでもなく至って普通に、まるで再会した親友に近づくような軽い感覚で近づいていくと、



「さて、待たせたな。では帰すぞ」



 抱きかかえていた子狼を2匹の前へ置くとそのまま踵を返して、グリフの元へ。ただし別れの挨拶にと最後にそのモフモフで温かい頭を撫でた後、彼女は無傷で子狼を親元へと帰したのだった。




 ――けれども?




「グルルルル……ガルルル」

「ガルル……ガウッ! ガウッ!」



「あ、あれ? お……おい」


「うん? どうした小僧?」


「なんか……様子おかしくないか?」




 いったい、どうしたというのか。

 フィオナが子狼を返すまでの一部始終をしかと見届けていたグリフはいま自身が目の当たりにしているこの状況にある違和感を覚えると、ふとフィオナへと質問を飛ばした。その理由は、



「子供が返ってきたのに、なんでアイツら警戒を解いて帰ろうとしないんだ? それに……なんかさっきより狂暴になった感じがするんだけど」



 警戒心が強いのは分かっている。住処へ帰らないのも追跡される恐れを考えてかもしれない。



「やっぱり俺達も消えないとダメなのか」



 ただ、グリフはそれを鑑みても奇妙だと。

 子供は帰り、これにて一件落着…………にも関わらず威嚇の強さが増したとでもいうのか、さっきまでは牙は見せても吠えたりしなかったにも関わらず、今ではなぜかバリバリの臨戦態勢。


ましてフィオナが近付いた際は警戒心が若干緩んでいた様子すらあり、かつ子供が戻ってきたんだから舐めたりじゃれついても良いんだけど……と、そのギャップについてフィオナに明かした。



 それを受けてフィオナは、



「うん? なんだ()()()()()()()()のか?」


「えっ? 気付くって……なにを?」


「そうか、小僧の熟練したスキルとやらでもそこまで察知出来んかったか。まあ、要するにだ。あの者達が警戒するのは当然というわけだ」


「へっ……とうぜん? どういうこと?」



 まるで既にその理由を知っていたかのような口ぶりで言葉を返した。対してグリフは疑問符を浮かべるばかりで、理解が追い付かずにいたが、



「まあ、そこで見ておれ。今にわかる」



 そんな相棒を他所に、彼女は足元の地面から石ころを3つほど拾い上げる。



「はあ? そんなの拾ってどうすんだよ?」


「まあまあ、良いから見ておれ」



 グリフが理解するよりも先に。

 まるで()()()()()ようにキョロキョロと辺りを見渡した…………そして次の瞬間!?



「さあ! コソコソと木陰に隠れておらず潔く出てくるがよい! 気配を消して誤魔化しても、貴様らのその下卑た臭いまでは隠せぬぞっ!?」




 ビュオンッ!

 ビュオンッッ!

 ビュオォンッッ!



「うお!? あぶねっ!?」



 前触れも無く、いきなり三方向へ投擲した。


 1つは自分達の背後に。2つ目はクラウン・ウルフ親子の背後へ。そして……最後はグリフの顔を掠めるように自分達の真横といずれも投げた先は“木”ではあったもの、フィオナは命中させた後に様子を伺った………………そうすると?




「おうおう、まさかバレちまうとはな」

「まったく……おっかねぇ女だぜ」

「もう少しだったのに……残念ダド」



 フィオナにいぶり出されたかの如く。

 その3人はそれぞれ木陰から姿を現した。



「こ……こいつら、まさか」



「そうだ。貴様の言うところの密猟者どもだ」



 密猟者、つまり……今回の黒幕達だった。

 リーダーの男は毒矢のボウガンと片手剣。

 バンダナの小男は痺れ毒を塗った弓矢。

 ジャンボは体格に見合った馬鹿でかい棍棒。



「へ、へへ……待っていた甲斐があったぜ」

「まさか、誰かに保護されていたなんてな」

「どおりでずっと探しても見つかんない筈ダ」



 いずれも各々が使い慣れた武器を手にしながら出てくると、標的であるクラウン・ウルフおよび巻き込まれたグリフ達を囲うため、三角形の陣形を保ちながら3人はゆっくりと接近していく。


 ただし、不思議なことになぜか全員仲良くその目の下には真っ黒な隈を浮かべていたが――



「い、一体いつから――」


「最初からだ。言ったであろう。“連中、いつ攻撃を仕掛けてくるか分からんからな”と。あれはコイツら(密猟者)のことだ。てっきり貴様も分かっていると思ったが、まあ気配は殺しきっておったから、網にひっかからぬのも無理ないか」



 まあ、そこはともかく。



「へっ、へっへっへ……運が無かったな、お前ら。その子狼を保護しなかったら、これからも冒険を楽しめた事だろうに。可哀想な奴らだ」


「そうそう。そもそもそいつ(クラウン・ウルフ)を手懐けたんなら、野生に帰さずにさっさと売り払っちまえば良かったのに……馬鹿なやつだ」


「うっぷっぷ……でも、そんなお馬鹿さんのおかげでオラ達は大儲け出来るんだナ。親は無理でも、子供くらいなら充分捕まえられるんだド」



 とにかくゴールはもう目前に迫っている。

 天から与えられたこの好機を逃すまいと、3人はグリフ達との距離をどんどんと詰めていく。



「俺達を殺すのか?」



「ああ、死んでもらう。目撃者がいるとマズいからな。ただし、そこのべっぴんのお姉さん。アンタは殺さねぇ。まだ使い道があるんでな」


「そうそう。俺達の商品はなにもモンスターだけじゃねぇ。人間だって立派な品物なのさ。特にアンタみたいな美人さんは高値で売れる」


「んダんダ、もしかしたらクラウン・ウルフ以上の値が付いたり……なんて事もあるかもしれないんダド。そうなればとってもお得なんだナ!」



「ほお、それはそれは……実に興味深い話だ。おい聞いたか小僧。この連中、事もあろうに余に値段を付けるらしいぞ!? どう思う!?」



「さあな。別に良いんじゃね? 殺されてこの森の肥やしにされる俺に比べればめっちゃ好待遇じゃん。じゃあな、金持ち連中の“毎晩の相手”頑張れよ。俺は土の下から応援してるからさ」



「……今すぐ余が埋めてやろうか?」



 ただ……睡眠不足だった影響か。



「こ……こいつら、何をごちゃごちゃと――」



「ええい、もう待ってられるか! ジャンボやっちまえ! あの男は殺して女は気絶させろ! 標的(クラウン・ウルフ)は俺達に任せとけ!」



「おうっ! 分かったドォォォッッ!!!」



 そんな苛立つリーダーの声を合図にして。


 片や殺害、片や売られようというのに自分達に怯える様子も一切無し。かといって諦めたようにも見えず、呑気に会話しているグリフ達に痺れを切らした密猟者一行は一斉に襲いかかった。



「足だ! 足を狙え! 俺は大人の個体! お前は子供だ! お得意の《行動予測》スキルで当てちまえば後はこっちのもんだからなっ!」


「ああ、分かったぜリーダー!」



 ジャンボはバットを振る要領で棍棒を大きく後ろに構えながら、グリフとフィオナに突撃。


 そして残ったバンダナ男とリーダーの2人はすかさず、それぞれ持っているボウガンと弓に毒を塗り込んだ矢をセットして狙撃の準備とこれまで幾度となく繰り返して来た陣形だけはあり、



「へへ……貰ったぜ。この勝負!」

「《行動予測》スキル発動。これで命中っと」



 迷いの一切ない。

 どこか漂う小物臭い雰囲気とは裏腹に、職人(ハンター)顔負けの実に鮮やかな連携で、リーダーとバンダナ男は標的(クラウン・ウルフ)に意識を集中させ、その足を狙い撃たんと動いた。





 ――のだが?





「…………………………はあ」





 そう。動いた…………までは良かった。

 だが、評価出来たのはその点だけだった。




「……………………………つまらぬ」




 その、ほんの一瞬。

 標的を射るべく狙撃手の2人がほんのわずかな間だけ、クラウン・ウルフへと意識を逸らした時のことだった。





 ドゥボンッッッッ!!!!





「ブ、ブギョゲエエエエェェッッッ!?」



 ビュオンンンンンッッッ!!



「「へえっ?」」



 リーダーの男であれば今まさに発射せんとトリガー(引き金)を引く寸前、バンダナ男であれば引いた矢を離す寸前に“それ”は起こった。



「ボベッ! ブゴッ!」



「「へ……へ?」」



 2人の隙間を縫うようにそれは飛んできた。

 さらに瞬く暇もなく、ただド派手にバキ! バキバキバキバキバキ! ドガッ! と木々の小枝を勢いよく折っていったかと思えば、今度は地面を激しくバウンド。そうやって最後は、



「ブグゲェェッ!?」



 巨木に強打し、ようやく勢いは収まった。

 そして、そんな一瞬の出来事だったが――



「な、なにが起こってやが……いいっ!?」


「お、おいおい……あれって、嘘だろ!?」



 すぐに彼ら2人は把握した。


 なにが自分の横を通り過ぎていったのか。

 巨木の前に倒れている()()を見ると、



「う、うゆううぅぅ……お、お星しゃまが……オラの頭の上にお星しゃまがたくしゃん……」



「…………ふん、口ほどにも無かったな」



 ジャンボだった。


 ほんの数秒前に意気揚々と棍棒を振りかざし、グリフ達に襲いかかった彼だったが、そのたった数秒の間に変わり果てた姿に成り果てており、なによりも、その敗北振りを知らしめたのは……。




「う、嘘だろ。俺達の中で一番の実力者であるジャンボを一撃で……そ、それにあの傷――」


「な、なんだよ……あれ。あの酷くへこんだ腹の痕はよ。俺達が本気で体当たりしても弾き返すぐらいの弾力があるはずなのに……な、なんで」



 でっぷりとした腹部にくっきりと残った掌打の痕だった。まるで長時間押し続けたかのような、広げたフィオナの掌の形が残っており、



「ったく……ちょっとは手加減してやれよ」


「ふふっ、悪いがこの類の輩には容赦はせぬと決めておるのでな。ましてや、この余に値段が付けようなどという愚か者どもは正さねばならぬ」



 シュウウウゥゥゥゥゥと。

 どれだけの力を込めて打ったのか予想もつかないが、フィオナはそんな煙すら上がるほどの威力の掌打を飛びかかってきたジャンボへ向けて放ち、即座に彼を無力化したのだった…………そして。




「――さあて」




「「い、いひぃっ!?」」




「今度は……貴様らの番だな」




 次なる彼女の矛先は勿論残った2人へ。




「さあ、逃げるが良い」



「うぐ、うぐぐぐぐぐ」

「な、なあリーダー……ここは大人しく――」



「せめてもの情けだ。今から3つ数える。それまで余は手を出さぬ。泣いて逃げるなり好きにするが良い。今度は貴様らが追われる側だからな」




 ギロリと、獲物を狙う猛獣のような。

 捕食される側からすれば戦慄すること以外なにも出来なくなるような、強烈でおぞましい視線をフィオナはリーダーとバンダナ男へ向けると、




「いーち!」



「ぐぐっ!?」

「はひいっ!?」



 さっそく数え始める。

 破滅へのカウントダウンを。



「にいいいぃぃぃぃぃ!」



「に、逃げようぜリーダー! 諦めよう! 無理だ! あんな化け物女がいたんじゃあクラウン・ウルフの生け捕りなんか無理だ! 早くこの森からとんずらしちまおう! なっ、なっ!?」


「なに!? ここまで来ておいて諦めろってか!? 金の成る木が目の前に3本も生えてるってのに逃げろってか!? ふざけんな!」


「じゃ、じゃあ……あれ倒せんの?」


「うん? そりゃあお前――」




「さあああぁぁぁぁん! いよおしっ! 良い度胸だ。まあ安心するがいい、遺品として腕一本くらいは残しておいてやる。それ以外は全て跡形もなくグチャグチャにするがなっっっ!!!」




「よし、逃げよう。命あっての物種だ」


「2秒くらいその決断早くなんねぇの!?」




 対し、そんなほとんど死の宣告と同じ時間制限を設けられては、密猟者もただ茫然と立ち尽くしているはずもなく、決断こそ遅かったものの、



「おや、薄情な奴らめ。気絶した仲間を置いて一目散に逃げおったか。まあ、それでも構わぬが……ともかく貴重な機会だ。最後くらい追われる者の気持ちになって、終わりを迎えるが良い!」



「ち、畜生おぉぉぉぉっっ!」

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃっっ!!」



「はっはっはっはっ! さあさあ! 逃げろ逃げ惑え! 楽しい狩りの時間だあああっっ!」



 そのどこか狂気じみた高笑いをしながら、背後から追ってくるあのヤバい奴をとにかく振りきらんと。バンダナ男とリーダーの両者ともに森の中を全力疾走で逃げ回っていった。けれども、



「ああ~あ、始まっちゃったよ。ああなったらもうお終いだな。ったく、ほんと運が無い連中だ。まさか今日が自分達の命日になるなんてな」



 常人を遥かに凌駕する身体能力を持つ彼女から逃げ切るなど到底無理な話であり、




「そら見つけたぞ! 観念せいっ!!」



「ぎゃあああああああっっ!!!」




 はたしてどっちが捕える側だったのか。



「ク……クゥゥゥン??」

「ガウ、ガウウゥゥン?」



「……そ、そんな目で見んなって。大丈夫だから、間違ってもあの魔女帝様がこっちに向かってくる事は無いからさ。アイツら捕まえたら森からさっさと出ていくから、それまで待っててくれ」



 グリフからすれば見慣れた光景でこそあったが、こんなあまりにも急な戦況の変化についてはさしものクラウン・ウルフでさえ追い付けず、ただただ目を丸くして困惑する程の勢いであり、



「さあ! 首領(リーダー)よ。貴様で最後だ!」



「ぴ、ぴげえええぇぇぇぇぇぇっっ!?」



 目の前の悪人をとっとと檻にぶち込むべく。

 当事者の狩猟者フィオナは、倒れた仲間を置いて死に物狂いに森の中を逃げ惑うバンダナ男とリーダーを徹底的に追いかけ回し、ボコボコにしたうえで()()()()にするのだった。


ここまで読んでくださりありがとうございます。

もし良ければブクマ・評価等していただけると幸いです(´▽`*)

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