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9話 相談



【ヘパイストスの鍛冶屋 鍛冶工房】



 まだ熱気こもる炉の傍にて、



「うーん……そうだな。剣を使いたいってお前の希望に沿うなら“杖剣(ロッドソード)”だな」



 悩んだ末にヴェルンは結論を出した。


 自分にはどの武器が適しているのか尋ねてきたグリフにいくつかの質問と実践……といっても、工房内に置いていた標準的な片手剣や双剣などを持たせて、ちゃんと振るえるかどうか。



「ろ……ロッドソード?」



 振り回すはずの武器に振り回されていては元も子もない。そこで武器選びでなによりもまず重視する点は、ちゃんと振るって戦えるかどうか。


 無駄な見栄を張り、身の丈や実力に見合ぬ武器を持って強力なモンスターに喧嘩でも売ろうものなら、いざという時ろくに振るえずに傷だらけで帰る羽目になるのは避けられない。



 それを見据えたうえでヴェルンは、



「そう、ロッドソード(杖剣)だ。なにせ、いくら使い慣れていないとはいえ、大剣は重すぎてそもそも持ち上がらない。同じくハンマーや両手斧も論外。双剣は3分と待たず息切れ。片手剣は……まあ振るえてこそいたが、微妙だった」


「う、うぅぅ……自分でも分かっていたけど、そんなボロックソに言わなくても――」


「扱えない武器はかえって身を滅ぼすんだ。それに“遠慮なく”俺に合う武器を教えてくれって頼んできたのはそっちだぜ? グリフ?」



「ううっ……うぐぐぐぐぐ!」



 厳しい言葉をかけながらも見定めた。

 店頭に置いていた品や、ついこの間に自分で製作した物などなど。武器も種類ごとに一つだけ渡すのではなく何本かを振るわせて、グリフに適した武器を見極めていったのだった。



 ――その結果。



「逆に軽い短剣とかはそれなりに様になってたが……お前の希望としてはもう少し剣身ブレイド部分が長めの方が良いんだろ? それに加えて“賢者”らしく魔法も使えるようになりたいと。となれば、もう杖剣以外当てはまらないな」



「うーん……杖剣ねぇ」



「あまり聞いた事がない武器種ですね」

「うーむ。さっき小僧が振るった武器の中にも、そんな武器は含まれていなかったようだが」



「そりゃそうさ。なにしろ特殊な武器種だからな。しかもその特殊な理由ってのは扱える人間が少ないとかじゃなくて、中途半端な性能だからだ」



「「中途半端な性能?」」



 杖剣(ロッドソード)と。



「そうだ。そうだな……まず外見としては()()()()が近いな。ほら、あんまり大声では言えないが、護身用や時には暗殺用とかにも使われる柄の中に細長い刃が仕込んであるやつ」


「なるほど、物語とかでたまに見るやつだな。足の悪いふりをして敵の懐へ近付き、仕込んだ毒塗りの刃で仕留めるみたいな感じだな」


「そうそう。だがあれは奇襲用だ。剣として戦うには短剣とかよりもずっと細身だから重みが足りない。だから普通の戦闘になれば勝ち目は薄いし、大剣相手なら一方的に押しつぶされちまう」


「ふむ……そこは小僧の気合と根性で押し勝つしかあるまいな。なあに、余が見込んだ主人だ。それくらいの欠点なんぞ容易く乗り越えよう!」


「いやいや、人間が全員お前みたいに勢いだけで勝てると思ったら大間違いだからな?」



「そんでだ。魔法使いが扱う杖として優秀かと聞かれても微妙だ。それなりに良い素材で作っても刃の面積そのものが少ないから、肝心の魔力がうまく籠らない。むしろそれなら込められる刃がデカい長剣(ロングソード)を改造して、魔法剣として作った方が良いくらい……なんだが」



「俺が振り回せないから却下と」



「御名答、そういう事だ。お前にもう少し筋肉があれば選択肢は広がったかもしれないが……それは置いとくとして。とりあえずお前の要求をクリアできる武器は杖剣だけだ。まあ使っているライバルが少ない分、目立てるかもしれないぜ?」



「うーん……杖剣かあ。見本は無いのか?」



 実際はどんな形状をしているのかと、グリフは並べてある武器や周りの棚を再度探っていく。


 だがそれに応えられないのか、ヴェルンは、



「わるいな。さっきも言った通り、あんまり出回らない武器種だからな。ここには置いてないんだ。ってか、実は俺もほとんど作った事がない」



「おいおい、マジかよ」

「ヴェルンでも滅多に作らないぐらいなのか」

「ふむぅ……本当に珍しい武器のようだな」



 かぶりを振って答える。

 さらに、彼はこうも続ける。



「あと……それからもう一つ」



「「「うん?」」」



「その……言いにくいんだが。お前らにとって残念な報せがあるんだ。遠路遥々メザーネから来てくれたところ本当に申し訳ないんだが――」



 哀愁を帯びた表情で謝罪を告げていく。

 声のトーンも下がり、重々しい雰囲気で、




「冒険者ギルドとして活動している以上、既にどこかで聞いていると思うが……今の俺。いや【ヘパイストスの鍛冶屋】はとても武器を作れるような状態じゃないんだ。だからグリフ……そういうわけで、お前専用の剣杖は作れそうにない」




 遠くから飛空艇まで使って自分達の元へ訪れてくれた客に、ヴェルンは店主としてギルド長として怒鳴られる覚悟でハッキリと伝えた。



 対し、それを受けてグリフは――




「そうか……やっぱり噂は本当だったのか」




 一応、事前に耳にしていた影響もあり、




「なんだ、やっぱり知ってたのか」


「ああ、ここへ向かう飛空艇に乗った時にな。ほら、あのマッチョマンから聞いたんだ」


「……アイツか。スーパーマッチョクラブのギルド長の。そんで、奴は何て言ってたんだ?」


「その……なんだ、この前の最強ギルド決定戦以降、急に武具の品質が落ちてきたってさ。詳しい事情までは知らないが、きっと何か深い事情があるだろうって心配してた」


「はは、世話好きのマッチョマンらしいな」



 特に怒らず、怒鳴らず。

 今、この【ヘパイストスの鍛冶屋】の立場や置かれている状況について多少は把握していたため、グリフ達は特に驚きもしなかった。



 ただ――



「………………それで? 俺達が聞くのもどうかとは思うんだけど。やっぱり優勝できなかったのが今回のスランプの原因なのか?」



「………………そ、それは」



「?」



 率直なところ優勝したグリフからすれば、敗退してしまったヴェルンにそれをいちいち問うのかという疑問があったが、彼はそれでも尋ねた。



「まあ……無関係とは言わない。なにせ俺達(ヘパイストスの鍛冶屋)は決勝戦まで上がる気満々だったからな。その為に特別な武器も誂えていた。でも結果は知ってのとおり予選敗退だ。それも見せ場も無く、序盤に負けちまったもんだから嫌でも落ち込んじまうさ…………だけど」



「だけど?」




「……………………………………」




 別に負けて落ち込んでいるだけじゃない。

 ヴェルンはそこまで口にした途端、意味深に言葉を濁すと完全に黙り込んでしまう。


 決定戦での敗退が全てでは無いが、あからさまに別の問題を抱えているといわんばかりに、



「……そ、そうだよな。そんな簡単に明かせるくらいだったら、自分で何とかしてるよな?」



「……………………………………」



 それこそ、まさに貝のように。

 ついさっき武器種の相談をしていた時とはまるで別人の如く。視線を下げて気まずそうに彼は一言も口を動かすことなく、ただ黙り続けた。



「ヴェルン」



「……………………………………」



「……ヴェルン。話し辛いならそのまま黙ってても良い。だけど一つだけ俺の話を聞いてくれ」



 だが、これでは埒が明かない。

 なぜならグリフ達の本来の目的は専用武器の製作なのだから。


 武器種の相談に乗ってもらったまでは良いが、結局はヴェルンに腕を振るってもらわなくてはならない。それもこうして殻に籠られてしまっては、自分達も訪れた意味が薄い。



 そこで……グリフは発した。



「なあヴェルン。俺達は出来れば、お前(ヘパイストスの鍛冶屋)に製作を依頼したいんだ。見知った仲っていうのもあるけど、なにより前のギルド(蒼穹の聖刻団)にいた時にちょっと見せてもらった鍛冶へ対する熱意が凄まじかったからだ」



「……………………………………」



 グリフは当時見た彼の仕事ぶりを思い出しながら告げた。過去にメンバーの武器強化の依頼をした際、一心不乱に武器を打っていた彼の姿を。


 声をかけても一切気が付かないその集中力は完成するまで続き、さらに付け加えるなら朝から晩まで鍛冶台の傍をほとんど離れないほど。



「だからもし良かったら教えてくれ。そのスランプの理由を。それで、なにか俺達にでも手伝える事があれば遠慮なく言ってほしい」



「……………………………………」



 ヴェルン個人の問題のため、部外者が軽々しく干渉すべきではないのかもしれない。


 だが、グリフはそんな全神経を鍛冶のみに注ぎ込める奴は他に知らないと。だからもしその悩みの種さえ解消できれば、きっと最高の専用武器を作ってくれるとヴェルンを信頼して、彼はあえて話題を掘り下げていった。




「頼む。俺の専用武器なんだ。だから出来れば知らない鍛冶職人に任せたくない。任せるなら信頼のおける、それも全力で熱意を注いでくれる奴に任せたいんだ。だからお前を頼りたい」




 本音も併せて。

 グリフはヴェルンへ続けて語った。




 ――すると?




「……………………………………」




 変わらず彼の口は噤まれたまま。

 だが……グリフの誠意が伝わったのか、




「ハア…………良いぜ。分かったよ」




 長考の末にヴェルンは何か吹っ切れたような表情を浮かべたのち、大きく一つ息を漏らすと、



「俺とお前らの仲だ。ただし、何があっても公言はしないと約束だけはしてくれ。解決するまで、他の連中に知られたくないんだ。それでも構わないなら特別に明かす。どうだ?」



 閉ざしていた口を開いた。



「……勿論だ。誰だって一つや二つ腹の中に隠しごとを抱えているもんだからな。お前にどんな事情があっても誰にも明かさねぇよ」



「……分かった。ちょっと待っててくれ」



 だったら、今日はもう店じまいだな。と、



「……これで良し。じゃあついて来て――」



「あっ、荷物はどうしたらいい? 一応、俺達なりに使()()()()()()()を持って来たんだけど」



「えっ、素材? ああ、その布に包んでるデカいやつって素材だったのかよ。そうだなぁ……そこの作業台の脇にでも置いといてくれるか。ここ(鍛冶工房)なら誰も入ってこないからさ」



「分かった。よいしょっと!」



「よし。じゃあ行くぞ」



 ヴェルンは立ちあがると店内の様子が見えないようにカーテンと玄関にかけていた看板を裏返した後、素材を置いたグリフ達を連れて工房をあとにするのだった……。




 ――そうして、向かった先はというと、




ここまで読んでくださりありがとうございます。

もし良ければブクマ・評価等していただけると幸いです(´▽`*)

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